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32 外伝4 隊長さんの場合

 魔獣に捕まり、あわやと言う所を助けてもらったばかりか、半分死にかけていた仲間を助けてもらった。

仲間の体に付いていた粘液に触れて溶けはじめていた俺の手も治った。

服は溶かされたままだったけれど、二人とも前のままの健康な体を取り戻しているようだった。


 小さな魔獣は触れられただけで真っ黒に焦げるほどの凶悪な粘液を出すが今度の大きな魔獣は触れても粘液は出さない。

代わりに触手に捕えられパクリと開いた大口で仲間が食べられた。

銃弾さえ撥ね返す魔獣に成すすべも無かった俺達。

空から舞い降りてそんな俺達を助けてくれた『魔法少女』に最大級の礼儀を持って接するのが当然なのに・・・・。


 面白いように地面を転がって行く副隊長を見ても全然同情なんて感じなかった。

ただ、恩人にアダを返した事への申し訳なさで一杯になった。

「お姉ちゃんに何すんのよこのロリコン!」

もう一人の魔法少女に足蹴にされ華麗な形をした杖の握りの部分でポカポカ殴られていても当然だと思うだけだった。

それにしても美しいながらもシンプルな形をした目の前の少女の杖に比べてずっと華奢で花の様な装飾をされた金髪の『魔法少女』の杖が良く見ればとても凶悪な形をしているのに気付く。

持ち手は鈍器、先端は槍。

けれどゴムの様に柔らかいようで、殴られている副隊長にそれほど酷いダメージは無いようだ。


 「あなた達は私達を捕えるよう命令されているの?」

顔の上半分覆われた仮面から覘く少女の目が冷たかった。

くっそお、あの副隊長。

どこかの政治家と繋がった狗だと聞いた事があったけど、本当だったのか。

副隊長が上からの命令を受けて隊長の俺が知らないはずが無いのだから。

「いいえ!そんな事は聞いていません!」

そうなのだ、俺たちの役目はこの辺りの魔獣の掃討。

その後残された魔核を収集して差し出す事だった。


 少女の目がじっと俺を見つめる。

「分かったわ、信じてあげる。

そうで無かったら、私達は二度とあなた達を助けないから」


 そして、『魔法少女』は色々な事を俺達に教えてくれた。

この新魔獣が今までの毛玉魔獣の進化形である事。

完全に止めをささなかった魔獣が受けた攻撃を回避できるように進化する事。

一刻も早く魔法を使えるようにならなければ、今は物理攻撃が効いていても、じきに効かなくなるかも知れない事、等々。


 「魔法は誰にでも使えるわ。

たとえ、魔法使いで無くとも、こんなに魔素が濃いのだから。

魔法使いとして生まれつく人が居るの。

その人達はあのオーロラの日からずっと違和感を感じているはず。

魔法使いに生まれついた人は、寿命も長くなるわ。

だから、老人だった人たちが若返る。

もうすでに若返って、社会からはじき出された人たちも居るはずよ。


 普通の人達だって、この濃い魔素の中で暮らしていれば今までよりずっと歳を取り難くなるし、長い人生を送れるでしょう。

魔素は夢を現実のものとしてくれるかもしれない物。

魔獣と言うデメリットを考えてもメリットの方が大きいでしょうね」


 俺は全身が震える思いがした。

俺の外見は二十歳くらいにしか見えないけれど本当は40をとっくに超えている。

かなりの童顔だったので不審には思われなかったけれど、俺には自分が若返っている事が分かっていた。

元々が威厳の無い上官で、階級章を見なければ部下の方が隊長に見られる事が多かったけれど、最近はもっとペーペーに見られる事が多くなって、顔なじみの部下たちにさえ威厳が無さすぎと笑われる始末だった。


 「やはり、あなたは魔法使いだったのね。

じゃあ、魔法を教えてあげる」

少女が俺が何も言わないのにそう言った。

心が読めるのか!?

「ところで、感電した事はある?」と、少女。

「は?」

間抜け面を晒してしまった俺は仕方無いと思う。

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