2 大気に混じる物
「曾祖母ちゃん、これは田舎って言うんじゃなくて山の中だと思うの」
私はあきれて周りを見回しながら言った。
「あら、でもちゃんと光通信のケーブルが引いてあるのよ。
来たばかりの頃はセミに卵を産み付けられて断線して大変だったけど」
私が曾祖母ちゃんのメールに『行く』と返事を出して荷造りを始めた途端曾祖母ちゃんはすぐに迎えに来てくれた。
そう、すぐに。
曾祖母ちゃんは忽然と鍵をかけてあったはずの私の引き籠り部屋に現れたのだ。
悲鳴を上げなかった私を誉めて欲しい。
全ては田舎の曾祖母ちゃんの家に着いてから説明すると言われて私は大急ぎで荷造りを完了させた。
ノートパソコンと先日買ってまだひもを通して無いウォーキングシューズも荷物に入れる。
どちらも私のお年玉貯金で買ったんだから。
ウォーキングシューズは本当は田舎暮らしの曾祖母ちゃんにプレゼントする為に買ったんだけど玄関に回って靴を取って来れないから私が履く事にした。
曾祖母ちゃんと私の足のサイズも形もビックリするくらい同じで、双方自分の足のサイズで買った靴がピッタリなのだ。
ノートとは言えパソコンが入って思わぬ大荷物になったけれど、バスにも電車にも乗らない移動で楽チンでした。
着いたのは田舎家とは思えないほどオシャレな洋風の家のテラスで、大きな日除けのパラソルの付いたテーブルにはお祖母ちゃんのパソコンが開かれたまま。
「あらあら、やっと来てくれたのね。いらっしゃい麻代ちゃん」
華やかな若い声がして綺麗なお姉さんがグラスを3つとガラスのポットに入った氷を浮かべたアイスティーを運んでくる。
梅雨前の初夏の陽気に涼しげな氷の音を立てるアイスティーは美味しそうだ。
だけど・・・、誰?曾祖母ちゃんはお友達と住んでるんじゃなかったっけ?
「あら、麻代ちゃん判らない?嘉門だけど?」
美人さんはアイスティーをオシャレなグラスに注ぎながらニッコリと笑った。
ええええええ~~~~~!
嘉門さんって、嘉門小夜さん?曾祖母ちゃんのお友達の、御年76歳の??
コクリとアイスティーを飲む。
「麻代ちゃんはキャンディのストレートが好きだったわね。
5年ぶりだけど好み変わったかしら?」
「ううん、曾祖母ちゃんが居なくなってからそんなに贅沢なお茶は飲めないもの」
はあっと久しぶりに飲む美味しいアイスティーに心から感動の息を吐きながら言った。
少しだけ落ち着き、曾祖母ちゃんの話を聞く気分になった。
「それで、どうして嘉門さんがこんなに若いお姉さんなの?」
「それは小夜ちゃんが魔法使いだからよ」と、曾祖母ちゃん。
そんなにケロリと言われても。
「麻代ちゃんはこの前のオーロラを見たわよね。
その後気分が落ち着かない感じがしたり、不安感が有ったりしたってメールで言って来たでしょう?
だから急がなきゃって思ってここに連れて来たの。
麻代ちゃんも魔法使いよ」
「魔法使いって、お伽噺じゃ・・・・」
「魔法使いは居るのよ。ただ、地球には魔素が殆ど無かったから大きな力を持つ本物の魔法使いが居なかったの。
麻代ちゃんは作り話だと思っていただろうけど、私の前世のお話は本当。
私の前世は魔法使いで錬金術でポーションや様々な薬を作っていたの。
少しずつ思い出してはいたんだけれど、完全に思い出したのは麻代ちゃんが生まれる少し前位かしら。
麻代ちゃんがネット小説を書いたらって勧めてくれたわよね。
折角だから前世の色んな事を書いてみたわ。
普通の生活とか、普通の現象を書いたんだけど、それが完全にファンタジー。
物語の背景にブレが無くて斬新だって事で本になる事になって、私は今やファンタジー作家で結構売れてるのよね。
麻代ちゃん知らなかったでしょう。
麻代ちゃんは本を読む方じゃ無かったしペンネームを使ってたしね」
「そんな本の一冊が私の目についたのよね」と、嘉門さん。
「ビックリしたわ~。
だって私が時々夢で見ている世界が本になってるんですもの。
読み進んでいる内に気が付いたのこれは私の前世の世界だって。
私も由紀ちゃんと同じ前世持ちだったのよ」
「結構同じ世界の前世持ちが居るみたいなの。
色んな人から問い合わせが来て、これはもう集まるしかないと思っていた所にあの現象。
あれはね、魔素の塊なの。
この星に無かった魔素が一挙に供給されて、この世界にとんでもない事が起こるわ。
それも追々話してあげるけど麻代ちゃんはまず魔法の勉強よ。
一刻も早く魔法使いになって対処の方法を覚えなきゃ大変な事が起こるの。
魔素自体は悪さはしないわ。
毒では無いし、薬にはなるかも知れない。
小夜ちゃんが若返ったのもそのせい。
魔法の才の有る者は能力が高い者ほど老化が遅いし長生きするのよ」




