23 滅ぼさねばならない存在
小夜さんと私が吹き飛ばされた土に埋められなかった訳が、小夜さんが結界を解いた後判りました。
結界に沿って土の壁が出来てます。
上部は開いていたけれど丸い形で残された壁。
ガンガンガンと外から壁を叩く音。
土壁、もう土じゃ無くなってました。
表面は普通に土の様なのにまるで張り付けた粘土を滑らかに磨いて焼いた様に固くなってます。
「溶けた訳でも無いのに、この硬さ。
土魔法の圧縮変性でも、この密度は無理よ。
どれだけの圧力が加わったのよ。
中にダイヤモンドでも出来てるんじゃないの?
良く私の結界が持ったわ。
内側からなら相当な攻撃魔法を撃たれても大丈夫なように作ったのは確かだけど」
「無事なの!?」
壁を壊すのを諦めたのか、結界魔法が解けたのを知ったのか、壁を飛び越えて由紀ちゃんがやって来ました。
「まあ!」
クレーターのようになった壁の内側を見て由紀ちゃんは絶句。
「ごめん、由紀ちゃん。
私がこれ、やったのよね。
何が起きたのか全然判らないんだけど・・・」
「魔獣を初めて見たからよね。
そう言う過剰なまでの反応をする人は昔から居たわ。
その内慣れるんだけど」と、小夜さん。
魔獣と言う言葉に震えが来たけれど、先ほどの様な命を脅かされるといった怖さは少しは薄れていた。
あの時は怖かった。
怖い、怖いと言う言葉しか出て来ないほどの恐怖に何も考えられなかった。
あれが魔物なんだ。
討伐されるべきモノ。
いいえ、討伐しなければいけないモノ。
小夜ちゃん達が生き者じゃないと言った意味が分かった。
あれは、歪んだ魔素の塊。
解して元の魔素に戻してやらなければますます歪みは大きくなって行く。
考える頭なんて無いはずなのにいかにも愛らしい姿をして獲物をおびき寄せ、接触した瞬間に相手の気を吸い上げ、急激な気の減少により倒れた相手を食って身体に残る気を全て奪おうとする。
殺さねば・・・ううん、生きていないのだから殺すんじゃないわ。
滅ぼし、消滅させなければならない存在。
それが魔獣。
うん、私こいつらになら何の負い目も後ろめたさも無く攻撃魔法が撃てます。
どんなに愛らしい姿だろうと騙されません。
って言うか、何であんなにゾッとする代物に近づこうなんて思うの?
由紀ちゃんが、大多数の人間は知らなければ気付かないのだと教えてくれました。
あの地球初の魔獣は捕獲しようとするお巡りさんを3人失神させ、気を取り込んだために膨れ上がって車位の大きさになった所で射殺命令が出て銃で撃たれ、魔素に分解して消滅したのだそうです。
由紀ちゃん曰く、一匹を見たら必ずその何倍も居ると言うGのような奴らだからどこかにもう出て来ているはずだそうです。
「森が枯れたり、人が行方不明になったりしている筈よ。
でもね、魔獣は今はあんな姿だし、被害が出ない内に討伐すれば、新種の獣を狩る悪人にされかねないのよね。
魔獣と言う存在に付いて、すでに私達は警告の文書を関係各位に送っているわ。
もちろん、マスコミにもね。
魔獣の事を説明するために魔素に付いても説明してあるんだけど、全然信じられてい無かった様ね。
インターネットでもその事を発信したいけど大々的に発信すればこちらの事がバレちゃうわ。
まだまだ、リアルの私達が表に出るには早いの。
少しずつ魔法の事を漏らして、周知の事になってからじゃないとね」
小夜さんは辛そうに言った。
「異端な者は排斥される。今はまだ、隠れていなくちゃいけない時よ」