1 曾祖母ちゃん
曾祖母ちゃんは今年で78歳。
今は田舎暮らしだけれど、5年前位までは我が家の近所で一人暮らしをしていた。
料理上手で面白いお話を沢山してくれる曾祖母ちゃんが大好きで幼稚園や学校から帰るとカバンを放り出して曾祖母ちゃんの家に押しかけ入り浸っていた物だった。
戦前生まれの人なのに生活は洋式で、昔はさぞかしモダンな人だったんだろうな。
美味しいクッキーやケーキを絶品のミルクティーと一緒に出してくれて、私は幼稚園児の頃から紅茶には一家言の持ち主だった。
私が幼い頃にはママも曾祖母ちゃんを上手く利用して自分の自由な時間を作っていた様だったけど、育児を丸投げしていた付けか、私が中学に入る頃には曾祖母ちゃんの方に懐いて晩御飯まで曾祖母ちゃんの家で食べて来るようになったのと、学校の勉強が心配になったのか曾祖母ちゃんの家に入り浸る事に良い顔をしなくなっていた。
曾祖母ちゃんは面白い人で、私に色んなお話をしてくれた。
実は、曾祖母ちゃんは前世の記憶があって、前世では魔法使いだったとか、こんな魔法があるのだとか、どんな病気や怪我も治るポーションが作れたのだとか、子供の頃にはすっかり信じ込んで両親に話した事もあったのだけど、両親は良い顔をしなくて、子供に出鱈目を教えるな等と文句を言っていた。
私の為に曾祖母ちゃんが叱られるのが嫌で曾祖母ちゃんのお話を家で口にする事はめったと無くなっていた。
パパの父親で曾祖母ちゃんの一人息子のお祖父ちゃんは私が生まれる前に事故で亡くなっていて、その前にお祖母ちゃんも亡くなっていたから私にとってはたった一人の身近にいるお年寄りの身内なんだけどな~。
ママの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは遠くに住んでいるし、ママは沢山居る子供の一人で孫、曾孫も総勢50人は居るから私なんて覚えてもらってもいないと思うよ。
だから曾祖母ちゃんは私にとって大好きでとても大切な人だったんだけど・・・・。
曾祖母ちゃんが引っ越す事になったのは自分で作ったお薬を人に渡した事。
曾祖母ちゃんは庭に沢山のハーブや薬草を育てていてそれでお茶や漢方薬みたいな物を作っていたの。
近所に住んでいる曾祖母ちゃんのお友達が病気になった時、曾祖母ちゃんは作ったお薬を飲ませたの。
それで、お友達は劇的な回復を見せたらしいんだけど、『薬事法』とか何かで警察の取調べが入ったんだって。
結局違法な物は使われていなかったし、お薬として売った訳でも無いので曾祖母ちゃんは直ぐに帰って来たんだけど、パパとママはカンカンで曾祖母ちゃんを罵ったわ。
その時『魔女気取りの中二病』なんて言葉も投げつけていたから、ずっと曾祖母ちゃんの事をそう思っていたのね。
後で、曾祖母ちゃんの事を警察にチクったのは薬を渡したお友達の息子だったって判ったの。
どうやらお友達は末期の癌で親不孝な息子は実の母親が死ぬのを指折り数えて待っていたみたいなの。
曾祖母ちゃんのお薬、スッゲエ。
事が発覚してからお友達は息子に親不孝な真似をさせた財産を整理して田舎に家を買ってそのための生活費を残して残りは全部寄付したらしいわ。
曾祖母ちゃんも孫夫婦に愛想を尽かせたのか、身の回りの整理をしてお友達と一緒に田舎に行ってしまって、その後消息不明。
って言うのは両親やお友達の家族親族で、実は私は直ぐに曾祖母ちゃんに連絡を貰って何度も逢ってます。
お友達の息子さんや親族の人が何度も我が家に来てお友達や曾祖母ちゃんの消息を聞いて来たけど両親は何も知らないしね。
我が家の周りに不審な人影がうろちょろしてたのも一年位でもう諦めたみたい。
そうしている内に今回の事が起きたのだけど・・・。
うん、もう両親の事なんてどうでも良いや。
私、曾祖母ちゃんが引っ越す前に両親が曾祖母ちゃんに投げつけた酷い言葉を許して無いもの。
だから、私は曾祖母ちゃんの所に行く事にしたから。