18 不備
「なるほどねぇ~。
これは見事だわ。ちゃんと術式になっているし、間違いなく発動するわね~」
食卓で夕食、兼朝食、兼昼食を貪っている私の側で小夜さんがカマボコ板の魔法陣を見ながらウンウンと頷いています。
「でも、勝手に発動しないでくれて良かったわ」と、由紀ちゃん。
え、何で?お腹が減って眩暈がしそうだったからご飯の後にしただけなんだけど。
「発動キーは書かれてあるけど、停止や終了、解除のキーがどこにも無いの。
魔石駆動なら魔石の魔素が無くなる事で止まるでしょうけど、周囲の魔素を自動的に取り入れる仕組みになっているから、陣が擦り減るまで殆ど永久機関になっているわ」
私のお箸の先からポロリと食べかけの唐揚げが落っこちた。
サァッと血の気が引く気がした。
こ、怖っ!
解除できない結界の中に閉じ込められるって、人生終わったも同然じゃない!
食べたり飲んだりは出来る様に考えたけど、排泄の事なんて考えて無かったし、これって身体にピタリと沿う形なのよね。
外からの魔法を弾くから、結界内の魔法陣を壊してもらう事さえできないって事。
「そんなに怖がらないでよ麻代ちゃん。
大丈夫よ。
画期的な体に沿う形の結界だけど、結界の中に居る人は触ろうとすれば自分の身体に触れるわ。
結界がそのような形に変わるから。
だから、手を伸ばして板に触れ自分で壊せば解除できるわ。
板が割れなくても爪に魔力を纏わせて、陣を引っ掻くだけで壊れるから」
そう言われればそうだった。
最初から身に着けた物はそのまま結界の中に入るし、そうじゃ無ければ魔法陣を書いた板だけが結界を張ってしまうって事になります。
もし、腕を組んだ状態で結界を張ってもそのままの形になる訳じゃありません。
どんなポーズを取っても体に沿って動きを束縛しない可変性を与えたんだったっけ。
そうじゃなきゃ動けないもの。
服に自分で触れようとすればその部分の結界が接した部分で同化するのよね~。
自分で自分に触れる事は出来ます。
最初から身に着けていたり所有していた物は結界の内側。
そして、結界の上から何かを身に纏う事も出来ますが、それが結界の中に入る事はありません。
「こんな物、想像さえしませんでした。
前世300年も生きて、ただお師匠様に教えられた事を発展させる事も無く、漫然と技を磨くと言う事だけに集中していたなんて・・・」
私の書いた魔法陣を見ながらフラウさんが溜息を吐いた。
フラウさんは前世の記憶を全て取り戻した事で、独り立ちしていた前世と同程度の魔法が使えたので自分の研究所を持つ事も可能でしたが、前世の記憶故に負ったトラウマのリハビリとして再び小夜さんの弟子として家に住み込む事になっていた。
「あー、もう麻代ちゃんは無理に攻撃魔法を練習しなくても良いわ」小夜ちゃんが言った。
「この結界陣で十分に自分は守れそうだしね。
実際の魔物を見ていない麻代ちゃんにはいくら攻撃魔法を教えても無理だと思うし。
時折居たのよね~、前世でも生産、補助、支援特化って人。
だから、麻代ちゃんは術式をちゃんと書ける様に教えてあげる」
なぜ、鉛筆やボールペンで書いた術式が剥がれるのかと言えば魔法親和力の有無だそうです。
だから、そもそもペンなどで書く時は魔法を込めずに後で込めるか、空中や地面に書く時みたいにペンなどは使用しないでなぞるだけ。
他には自分の血で書くと言う方法があるのだそうです。
インクに血を混ぜる事も可ですが、効果は薄くなるとか。
魔法の後込めの場合いきなり発動しないかと不安だったのですが発動キーを決めておけば良いとの事。
徹夜するほど頑張ったのに・・・・、ちゃんと勉強しなきゃダメですね。
教えて貰った事で魔法陣がちゃんと出来上がる目途がついたので安心したら物凄く眠くなりました。
うん、完成させるのは起きてからにしよう。
お休みなさい。