17 守りたいから魔法陣
テリーさんは前世で小夜さんの弟子だった女性でした。
今までにここに来た前世持ちの人達が全て前世のままの性別だったので驚きましたが、由紀ちゃんが『きっと女性には耐えきれない辛い事があって、男に生まれたんでしょうね』と言ったので納得しました。
そうだよね、ここに来ている魔法使いさん達はとても悲惨な目に遭わされて死んだのだから。
緑の髪、黄色い目、青い肌と言うのは地球には無い色だったので、外見詐称でその色に変えていた様でしたが、姿や容貌は前世のままなのだそうです。
遺伝子から体を作り直すとは言っても、それは地球の遺伝子の範疇で、異世界、異星の遺伝子はコピーできないようです。
美人さんですが、どこの国の人と言われても納得するような人種の分からない顔立ちでした。
今は緑の髪は黒、黄色い目は薄茶、青い肌は象牙色の日本人ですと言われてもおかしくない色になっています。名前は前世の名前でフラウさんと呼ぶ事になりました。
なぜ突然フラウさんの記憶が戻って魔法も使えるようになったかと言えば、私のせいです。
私が小夜さんの結界を視覚化させた上に分解して解析しようとしたので、フラウさんの目にも見えるようになった術式が懐かしい師匠の物である事に気付き、それと共に忘れ去られていた記憶が引きずり出されて来たのだそうです。
「彼等は、魔法使いには魔石があるのだと思っていたのですよ。愚かな・・・」
フラウさんは悲しげに笑った。
「私は魔石を探すために生きながら解体されました。
死んだら魔石が分解してしまうと言われてギリギリまで生かされました」
「魔物ではあるまいし!誰がそのような!」
「アルハド・カトルカリス・・・・。
以前、私を妾にしようとしたカトルカリスの王ですわ。
私、お師匠様の元に行こうとカトルカリスに入った所を捕まって・・・・」
「もう良い」小夜さんがフラウさんをしっかりと抱きしめた。「もう忘れよ。カトルカリスは私が吹き飛ばしてやったわ。
この事を知っていたら単純に吹き飛ばすだけでは済まさなかったがな」
あまりに恐ろしくて悲しい話に私が震えあがっていたら由紀ちゃんがポンポンと肩を叩いて部屋を出るように合図した。
「もう、今日はお休みなさい。
小夜ちゃんとフラウは色々話があるでしょう。
部外者が聞いてよい話しじゃ無いでしょうしね」
由紀ちゃんに言ってもらって私はホッとして部屋に戻った。
でも、休みなさいと言われても曇天で薄暗いとは言えまだ夕方には間がある時間。
夕飯も食べなきゃいけないし、この時間帯に昼寝なんてしたら真夜中に目が覚めちゃいそう。
だから、今日見た結界魔法の術式の勉強を始めた。
術式はコンピューターのプログラムに似て、必要な動作、作業を決められた文字と図形で組み立てているだけの物。
それを何枚も重ねただけ。
それじゃ美しくないじゃん!
魔法陣みたいに綺麗な図式にならないかな~?
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カリカリカリ・・・・。
由紀ちゃんの裁縫箱から拝借した目打ちでカマボコ板を削っています。
削るっていうより形を付けている感じ?
最初は鉛筆で書こうとしたんだけど、下書きまではちゃんと書けたのに、それに魔力を注ぎながら書きだした途端、一つの術式が完成間際になると剥がれるんです。
フワリと光りながら剥がれて雲散霧消してしまいます。
何度も試行錯誤した末、ボールペンを使って筆圧が強くて形が残った所は剥がれにくい事に気付きました。
でも、色は消えてしまいます。
それと同時に込めた魔力も大半が消えます。
なら、色を付けなきゃ良いんじゃない?
と、言う訳で目打ちの登場です。
まあるい輪を書いて。
風も、熱も、光も、全部じゃないけれど、体に優しくない部分は遮る様に。
衝撃も、外からの魔法も、防刃、防弾、その他諸々の危険な物から守れるように。
大切な人が、二度と痛い思いをしたり、死ぬようなことが無いように。
色々、思いつく限り詰め込みます。
ほら、綺麗でしょ?
文字は由紀ちゃん達の前世の世界の魔法文字。
でも、そのままじゃないの。
大事な部分はすっきりとしているけれどそうじゃない部分、記号に当たる部分は装飾的に。
それでもちゃんと術式を形成している事は本能の部分で判ります。
うん、体にピタリと沿う様に、でも生命活動は遮らないように。
これでご飯だって食べられます。
水中だって、宇宙だって、魔素がある限り着装者を守ってくれるわ。
ふと気が付くと窓の外からの光は真昼の物でした。
久しぶりに雲が晴れて良い天気・・・・って!
え?いつの間に昼間?
半日、どこに飛んじゃったの~~~~!
晩御飯、唐揚げだったのにーーーー!