14 結界魔法を使いたい
世界を守るためって言われても、私は既に魔法が使えているんだと励まされても、全然攻撃魔法どころかか属性魔法でさえ発動しませんでした。
その代りのように、由紀ちゃんが生活魔法と名付けた便利な魔法はどんどん磨きがかかり、壊れた物の修繕だとか衣類のクリーニングだとかは私が一番上手いと言われて全部回って来る事になりました。
木枯らしが吹くころになると、この辺りは元々雪深い場所らしくて、小夜ちゃんが管理している土地はドッサリ雪が降る事は無いと言われてはいるものの山の上などにはうっすらと白く雪化粧する日が多くなりました。
「寒い!由紀ちゃんダウン買ってえ~~~~」
全く成果の上がらない訓練を終えて小夜ちゃんの訓練結界から出ると息が白くなります。
チェリちゃんは本格的に寒くなる前に征一さんに連れられて遠く離れた町のショッピングセンターに行ってダウンジャケットを買ってもらっていました。
家出する時に持ち出したのは春物と夏服。
冬服なんて嵩張る物は持って来てません。
「あら、そうねぇ。冬服が無いと寒いわよねえ」
出迎えてくれた由紀ちゃんは薄いセーターとスカートの凄まじく寒そうな格好をしながらケロリとしています。
火が沢山焚かれた部屋の中ならともかく、寒風が吹く戸外では見ているだけで寒そうです。
「住宅地全部に結界を張って寒さを防いでも良いのだけど、ここらの木や草花には寒さも必要なので沢山の雪を降り積もらせないだけで精一杯なのよ」
「え~、結界を張れば寒くないの?」
「そうね、ずっと張り続けるのが面倒だけどね。
大規模結界は土地自体に術式が書き込んであるから良いけれど、個人用の結界なんて、人は動き回るから維持が難しいでしょ?」
「地面に書き込む事が出来るなら、杖に書き込めるんじゃない?
由紀ちゃん、その術式教えて!」
「そう簡単には行かないわよ。
体の周りに結界を張るにしても結界って身体の形になる訳じゃ無くって発生源から放射状に出て来る感じで多分球のようになると思うからその場から動けなくなるんじゃない?」
前世で魔女と呼ばれた魔法使いよりもずっと能力の高いエリートだった由紀ちゃんが言うのだからそうなのかもしれないけれど、何故かそうじゃないって気がする。
それは確信に近いものだった。
小夜ちゃんが張ってくれている訓練結界。
あれは確かに球なのかも知れない。
窪地に宅地造成で出た残土を捨てていたせいか、元々土の質が悪くて地面には根の浅い草しか生えていなかった場所で、今は土がむき出しの地面がぽっかりとまあるい形になっている。
半球のドームを被せただけかと思っていたけど地面の底にまで結界が続いているのなら今は大きな木は中には生える事が出来ないだろう。
結界によって地面も空間も切り取られているのだから、水も根を張るための深さも無い。
上に高く伸びる事も出来ない。
外から見ればそこに土がむき出しの平らな空間がある事も気付かない。
隠蔽の魔法が掛けられているみたい。
私やチェリちゃん他限られた人だけが出入りできる空間はいつも明るくて、気温は20度くらい、暑さ知らず寒さ知らずの訓練場だった。
中での音は外には漏れない。
光も外からは見えない。
外の音ももちろん中には届かないんだけど。
由紀ちゃん達の前世の世界では魔法陣なんて物は殆ど無かったらしい。
恒久的に動かし続けるための術式を地面や建造物に刻み込む方法が開発はされたけれどさして発展させられる事も無く一部でしか使われる事が無かった。
それは、魔素が豊かだった時代、魔法はあまりにも便利で万能だったから。
一度でも行った場所ならばどこへでも転移で飛べた。
知らない場所ならば行った事のある人に連れて行ってもらえば良いのだから。
それらの記憶は忘れ去られる事無く一生自分の中に蓄えておけた。
知っている人が居なければ、知っている場所まで行って飛んで行けば良いのだ。
人の飛行能力は魔法で飛ぶ事の無い飛行魔獣よりずっと優れていたから。
人は目で見る事の出来ない遠くの物を見る事が出来た。
見た物をどんなに遠くからでも、持ち主さえいなければ引き寄せる事が出来た。
そんな事が出来るなら泥棒が横行しただろうと思えるけれど、自分の物に所有権を設定するのは当然の事だから、大切な物を盗まれる事は無い。
職業魔法と言う物があったらしい。
パン屋さんは小麦粉と少々の材料を用意するだけでイーストも無くふっくらしたパンが焼けたようだ。
鍛冶屋さんもトンテンカンと鉄を打つ事も無く剣や槍を鉄を魔法で熱し圧縮し不純物を取り除き、形にして焼き入れ、砥までやってのけたとか。
それはもう、様式化した一つの魔法で、弟子たちはなぜそうなるのかと言う疑問も持たず親方から継承された方法で様々な物を作っていた様だ。
魔素が激減するまでは。




