13 攻撃魔法は世界を守るために
水に触れてみる。
谷から汲み上げて家の前の水盤から溢れている水は冷たくて綺麗でそのまま飲める。
ピチャピチャピチャ・・・・。
何も感じないな~。
火に触れてみる。
由紀ちゃんが薬を煮ている竈にはいつも火があります。
アッチイ!!
鍋に触っちゃった!
慌てて、ちょっと赤くなった指に修復魔法の派生である治癒魔法をかける。
ううう・・・、火の上に翳すだけのつもりだったのに。
次は風。
扇風機の前を陣取って見ます。
小夜さんが森や土地を変化させた時から、高原のように真夏でも湿気が少なくて朝晩は少し寒いくらいの気候になったらしいです。
だから、自然の風が無い日でも扇風機一つで真夏を過ごせます。
う~ん、気持ち良い。
「麻代ちゃん、扇風機の前を塞がないで。寿司飯を冷ましているんだから」と、由紀ちゃんからお小言。
スミマセン。
う~ん、やはり何も感じない。
自然の物からは何も感じないのかな~?扇風機は人工的な風だけど。
私って、やはり才能が無いの?
結界内での攻撃魔法の訓練で、私が使った魔法と言えば修復魔法ばかり。
へこむな~。
「麻代ちゃん、あなたはちゃんと水も火も風も使っているわよ」
由紀ちゃんが大きな飯切の中のまだ湯気を立てている寿司飯をかき混ぜるのを止めて言いました。
「麻代ちゃん、考えてごらんなさい。
麻代ちゃんのお掃除魔法は、洗って、乾かしてって作業が入っているわ。
ほら、洗っては水よ?乾かしては火と風だと思うんだけど?
お洗濯魔法だって同じでしょ?」
「実際に水を使っている訳じゃ無いし、どちらかと言えば今は汚れと言う異物を直接除去しているだけよ?あれはイメージで・・・」
「魔法は全てイメージと願望によって発動するのよ。
それを考えたら実際の水や火に触れる事も間違ってはいないわ。
実際の物を解析し、イメージを固めるためには良い方法よ。
チェリちゃんが麻代ちゃんの家事魔法って言うか生活魔法を覚えようとしたけどまだ覚えられてないでしょ?
それはね、実際に洗濯もお掃除もしてないからよ。
感覚が判らないの。
ここに来る前に実際に家事に携わっていた征一さんが家事魔法をすぐに覚えられたのはそのせいね。
チェリちゃんはお祖父ちゃんが出来るから良いや、なんて思っているんじゃないかしら?
征一さんが仕事をリタイヤ後にチェリちゃんを引き取ったんじゃ無ければ少しはお家のお手伝いもしたんでしょうけれどね。
麻代ちゃん、攻撃魔法を怖い物だと思っているでしょ?
麻代ちゃんの能力は生産や修復に偏っているから精神的に破壊の魔法は忌避しているのだと思うわ。
でもね、小夜ちゃんが攻撃魔法を学ばせたいのは身を守るため。
そして、周りを、世界を守るためなのよ」
世界って・・・・、私が?
守るって、何から?
「魔獣から。そして、世界が変わる事から来る混乱から」
私の疑問が顔に出ていたのか、由紀ちゃんは言った。
「魔獣!もう発生するの?」
魔獣の恐ろしさを転生者の魔法使いさん達から聞いている私はゾッとした。
「もう、十分過ぎるほど魔素が溜まっているし、魔素だまりもあちこちにあるわ。
裏手の谷も魔素だまりの一つだけどあそこは小夜ちゃんが管理して使い倒しているから大丈夫よ。
でもね、世界中の魔素溜まりには陰の気が貯まりやすい場所が幾つもあるの。
そんな所で発生した魔獣は恐ろしい存在になるわね。
小さな魔獣でも躊躇無しに倒さなくちゃ駄目よ。
あいつらは魂も何も無い本能だけの存在だから。
古い魔獣は知恵有るような行動を取るけれど、それはただの経験による反射。
殺せば魔核を残して魔素に分解するような存在が生物のはず無いでしょう?
普通の自然発生の魔獣はある程度育つまで魔素だけで生活しているわ。
生涯魔素だけで暮らしているサイクルの短い魔物も居るわ。
でも、陰の気を取り込んで育った魔獣は凶暴。
あいつらは、消化器官も無いくせに人や動物を食うわ。
何故食うかと言えば、生き物の気を取り込むため。
気を取り込めば魔獣はますます手強くなるの。
魔獣を使役する事は出来るわ。
小夜ちゃんが大森林を守るために多数の魔獣を半使役していたみたいに。
人が使役すれば魔獣はその人から気を貰って他の気を殆ど喰わなくなるんだけど、そうでない魔獣は森も獣も人も食い尽くす勢いで襲う事になるのよ。
小夜ちゃんのように大森林に行き渡るほどの気を張り巡らせる魔法使いはめったと居ないんだけどね」