カルナトス電影戦 後編
少し遡って、リート側
「あれま、大物はあっちに行ったか・・とッ!」
テーブルの左側に居るリートは、野党5人の攻撃をかわしつつ、残念そうに呟いた。
それを聴いて、野党の一人が苛立たしげに叫ぶ。
「てめぇ、この状況解ってんのか?5対1だぞ!」
「・・・それがどうした?お前らこそ、・・・自分で名乗るのも恥ずかしいが、<鞘無し>を相手にしているんだぞ?」
レイピアを玩びながら言葉を返すと、リートは敵の得物を観察し始める。
「(『ショートソード』に『両手斧』。『片手斧と盾持ち』に、『細長い暗器』。そして・・・『銃』か?)」
最後に目に入った野盗の武器に、リートは驚いた。
一年前に現れた<グルゥクス>が発明したというソレは、野党ごときが手に入れられるほども、出回っていないはずの物だったからだ。
「(生死不問だが、ヤツは生かしておくか。となると順番は・・・)」
「なぁに黙ってんだよ!てめぇなんざ知るか!」
野盗の一人が堪えきれず、リートへと斬りかかる。
「まずは『ショートソード』か」
サクッ!
「こは!?」
我流で隙だらけの斬撃を交わしつつ、リートは冷静なまま、カウンターでレイピアを男の喉に突き刺した。
そして刺さったままのソレを手放すと、力が抜けた野盗の手から、代わりの得物を奪う。
一連の動作を1秒かからずに終えたリートは、次に『盾持ち』へと駆けだした。
「っく、なろぉがぁ!?」
防御の構えで待ち受ける野盗。
しかしリートは、その手前で飛び上がると、つられて上向きに角度の付いた盾を踏み台にし、空中で体を捻ると、無防備な『盾持ち』の背中を、落下の勢いが加わったショートソードで斬りつける。
「う・・そぉ!?」
斬撃で背中が反り、バンザイ姿勢で崩れ落ちる『盾持ち』。
リートは彼から一旦目を離し、体を半回転させると、こちらに照準を向けた『銃』使いへ、牽制として剣をブン投げた。
『銃』使いは横へと飛び退く事で回避したが、引き金を引き損ねる。
その間に、『盾持ち』から片手斧を奪ったリートは、両手斧をこちらへ振り降ろそうとした野盗との距離を詰め、脇をすり抜けざまに、がら空きとなった胴を薙ぐ。
急所から吹き出した血が、リートの頬に掛かるが、彼は気にせず、死角に回り込もうとしていた『暗器』持ちを捕らえると、とっさにその陰へ隠れる。
パン!
「ごふっ!?」
直後、『暗器』持ちの右肩が弾ける。
「くそが、人間を盾にしやがった」
「酷い殺し方をする奴には、言われたくないっ!」
言うが早いか、リートは奪った暗器が投げつけ、射手の右肩を封じる。
さらに追撃として、椅子からテーブルへと駆け上がると、うずくまって暗器を抜こうとする野盗の顔面へ向かって、勢いよく飛び降りた。
ぼぐじゅあ
「・・・ふぅ、終わったな。栗髪の旦那は・・・あれま、先に片付けてたか」
テーブル越しにもう一方の修羅場を確認すると、アーノルドが白目をむいた野盗のボスから、魔法陣が描かれた籠手を脱がしていた。
するとその時、入ってきたのとは別の扉から、若きリーダーの喜びを含んだ声が届いた。
「みんな、手を貸してくれ!<アマゾーン>全員の生存を確認した!」
「・・・いつの間に!?」
「やれやれ。相も変わらず、抜け駆けが得意な御嬢さんだ。ま、本当にヤバい時は、逆に1人だけで突っ走るんだが・・・」
「どっちにしろ、組んだら目が離せないルーキーって事だね」
互いに苦笑いを浮かべつつも、アーノルドとリートは、他の冒険者たちと共に、5人が捕らわれている牢獄へと向かった。
*****
ジェイル視点
アーノルドさんとリートが乱戦を始めてしまい、加勢してもブルーオンブルーしそうだったので、オレは<隠密>スキルを発動させつつ、テーブルの上を走って部屋の奥へと突貫した。
そこにあった扉を開けると、正面と左に向かって廊下が伸びており、左側は崩落、正面は鉄格子の扉が行く手を塞いでおり、シレイア姐さん達の反応は、鉄格子の向こう側にあった。
当然、扉には鍵がかかっている。
だが・・・
「すぅ・・・セイ!」
ガァン!
軽く貯めた後、回し蹴りを叩き込むと、鉄格子は『く』の字に折れ曲がって倒れる。
<俊足>スキルを取得している事で、『蹴り』系統の攻撃技に威力増加のボーナスが付いたが故の所業である。
ただし・・・
「・・・かぁあぁあ!?」
威力が強いという事は、その反動もしかり。
めちゃくちゃ痛かった。膝から下が無くなったんじゃないかと錯覚するぐらい。
コンマ何秒と掛からず蹲り、涙があふれて止まらない。
しかしその甲斐あってか、奥から聞き覚えのある、しかし弱りきった女性の声がした。
「・・・随分と荒っぽい来訪だね?」
「!?・・・姐さん、シレイア姐さん!?」
未だに片足が痛み、ケンケン状態ではあったが、オレは牢の中へと進んでいった。
そして、壁に打ち付けられた手枷に拘束され、横一列に吊られていた<アマゾーン>の5人を見つけた。
幸い5人とも、損傷の程度に差はあるが鎧は付けたままだった。
「・・・ジェイル?驚いた、もう救助が来たのかい?」
来ることだけは解っていた、という風に、シレイア姐さんは端の切れた唇を歪める。
「はい、この辺に詳しい新入りが居たおかげで。野盗共もほぼ全員制圧しました。姐さん方は?ひどい怪我をしていたりしませんか?」
灯りが松明一本だけという暗さの為、5人の詳しい負傷は判らない。
シレイア姐さんは、もぞもぞと体を動かしてから返す。
「アタシは大丈夫だよ。ただ、襲撃されたときにティオが足を挫いてる。1人で動くのは無理そうだね」
「ゴメンね、姉御」
右端に繋がれていたティオちゃんが、申し訳なさそうに言った。
だが姐さんは、彼女に慰めの言葉を投げた。
「あんたが悪いんじゃないよ。あの“ぴすとる”とかいう変な武器の所為で、馬が暴れちまったんだから。・・・アタシを含めた残り4人は、軽い怪我程度だけど、この半日ほど飲まず食わずでね。悪いけど、他の救助隊を呼んできておくれよ。あんたの事だ、どうせ雑魚だと判った途端、他のメンツに押し付けてきちまったんだろ?」
「あはは、・・・ご名答です」
オレは誤魔化すように笑うが、すぐに真顔へと戻し告げる。
「もう少し辛抱してください。すぐに助け出しますから」
そしてオレは、戦闘が終わっているであろう食堂へと、踵を返した。
*****
暫く後 屋外
野盗の頭領が持っていたカギを使い、<アマゾーン>の5人を救出したオレ達は、敵の生存者5人(頭領と暗器使い、表に居た酔っぱらい2人と、塔の上で寝ていた見張り役)を捕縛した後、監視塔を脱出した。
幸い、強奪された物資をここまで運んだ荷車が、馬つきで2台も手に入った。
片方に囚人とリートら男性陣全員にミラ姐さんとミシェル姐さんが、もう片方に<アマゾーン>とアンジー姐さん、ダッキ、オレが分乗し、旧ダフニー街道に沿ってカルナトス村を目指す。
本来の予定では、このままアトネスに向かう予定だった。
パルターナンでは情報の伝達手段が発達しておらず、アトネスは俺たちが帰還する事でしか、作戦の結果を知る事が出来ないからだ。
だが<アマゾーン>達の体調、特にティオちゃんの負傷した足の具合が思った以上に酷く、先にカルナトス村で治療を行おうという事になったのである。
そういう訳で、総勢20人の大所帯は朝日を背に、自然へと還りかけている街道を突き進んだ。
その道中、オレと一緒に御者席に座っていたダッキが尋ねてくる。
「ねえ、ジェイル?アトネスへの伝令役に、誰か1人を向かわせた方がよかったんじゃない?」
「・・・いや無理だ。馬が四頭しかいなかったし、何より10人で野党5人と怪我人5人を運んでいる状態だ。伝令役に割く余裕はない」
「私はどう?元の姿になって、一人でアトネスに・・・きゃっ!?」
2つの獣耳を生やしかけたダッキの頭を、オレは無理やりフードをかぶせて隠す。
「今の君は、新米冒険者のダッキだろう!せっかく手に入れた新しい自分を、そう簡単に手放すな!」
「・・・ジェイル?」
つい語気を荒げてしまい、ダッキに身を縮めさせてしまった。
「ゴメン、・・・けど、心配なんだよ。君は消滅しかけの魂で、エレフシナの身体に乗り移っている状態。1年前より回復しているだろうけど、独りで行動するのは危険だ」
「こちらこそ、ごめんなさい。そうだよね、今の私は、『人間の冒険者・ダッキ』なんだった」
さらに落ち込んでしまったダッキを横目で見て、オレは背中と手綱を握る手に嫌な汗をかく。
まずい。これじゃオレ、悪者じゃん!
「ええっと・・・元の力を使うなとは言わないよ?カルナトスまでの間に、ヤバい魔物とか出てきて、人間では対処できなくなったら、君の能力を目一杯使ってほしい。ただ、伝令の件は他に“良い手”があるから、君ががんばる必要はない、っていいたかっただけで・・・」
「・・・良い手?」
元の調子に戻ったダッキが尋ねるが、それは後ろでティオちゃんの看病をしていたアンジー姐さんに遮られる。
「あなた達。2大神様たち見たく、女の子同士でイチャイチャするのは構わないけど。目的地がどこか忘れていないでしょうね?」
姐さんが指示した先へと目をやると、道が緩やかな下り坂になっており、その先には巨大な湖の畔に栄える漁村、カルナトスが在った。
少し短いですが、キリが良いのでここまでで投稿しました。
次回は腹黒女神が久々の登場&マスコットキャラ捕獲クエストの予定です。




