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ナスティ・ジェイル~ネトゲの策士が異世界革命!?~  作者: ミズノ・トトリ
プロローグ
3/44

自由すぎる幻想郷

 仮想西暦2025年 4月1日。

 そのゲームは、サービス開始わずか1時間で、世界の注目を集めた。


Eleutheria(エレウセリア) Fantasy(ファンタジー) Online(オンライン)』。ギリシャ語で「自由な幻想郷」という名前を冠し、 日本・中国・EU・USAの4地域で提供された、FPS(一人称視点)形式のMMORPG。

 かつて人類が1度栄え、滅亡した後の世界を舞台としたこのファンタジーゲームには、世界で初めてとなる、プレイヤーの表情をほぼリアルタイムでアバターに再現させる技術が導入され、心惹かれ集まった事前登録プレイヤーは、全世界で1万5千人。


 女神の案内でゲームを開始した彼らを最初に待っていたのは、お馴染みのアバター作成。

 人間・エルフ・獣人等、これまたお馴染みの種族と、サーバー(ごと)に各2種類ずつ用意されたジョブを選ぶ。

 日本サーバーは、刀を使う<サムライ>と、式鬼を使う<ジュツシ>。

 中国サーバーは、青竜刀が初期装備の<ブジン>、仙術を使う<チャーシェンレン>。

 EUサーバーは、RPGの定番<ナイト>と、光魔法に特化した<レリック>。

 USAサーバーでは、西部劇風の<ガンマン>と、薬物作成が得意な<ウィッチ>。


 ステータスやジョブは、熟練度で変化するが、使い続ければ成長、1週間に1度も使わなければ退化するという、ユニークなシステムだった。


 この時点ではまだ、プレイヤーの誰もが、一般的なRPGと変わらないと考えていた。

 しかし自分の分身を作り終えた後の、女神の説明を皮切りに、EFOの真の姿が見え始める。


・『遺跡』はあるが、『街』はない。

・『モンスター』は居るが、『NPC』は居ない。

・『ダンジョン』はあるが、『安全地帯』はない。

・プレイヤーに『死』はあるが、『復活』はない。


 端的な説明を最後に、異世界の地へ放り出された1万人以上のプレイヤーたち。

 彼らを待ち受けていたのは、草木以外は何もない平原と、遠くに見える半壊し苔むした城。

 

 そして、こちらへ襲い掛かる、血に飢えたモンスターの群れだった。


「『ダンジョン』はあるが、『安全地帯』はない」


 開始直後、それもスタート地点への奇襲にプレイヤーたちは混乱し、武器の使い方も知らぬまま次々にそのアバターを霧散させていった。

 主な犠牲者は、戦闘に不慣れなMMORPGの初心者たち。彼らは操作方法を学ぶより先に、FFOの過酷すぎるシステムを教え込まれることになった。


「キャラクターに『死』はあるが、『復活』はない。」


 これは単に、蘇生アイテムがないという意味に捉えられていた者がほとんどだった。死んでも経験値がペナルティ()として減少する程度で、またフィールドに戻される、と。

 だが、分身を失ったプレイヤーたちが見たのは、自分のアカウントページから()()()()()()()が消滅する様子だった。 


 それから5分と立たずに、EFOの悪評が犠牲者たちによって世界中のコミュニティサイトへ投稿された。

 特に公式サイトのレビュー欄は炎上状態となった。


『作るのに20分かけたアバターが5秒で消滅!ありえねぇ』

『モンスター強すぎ!10回殴っても死なないとか、設定ミスだろこれ!?』

『運営はど素人!異論は認めない!!』


 プレイ内容を動画サイトで生中継していた者も多くおり、惨状は瞬く間に伝わった。

 

 しかし、それから1時間後。

 それらを打ち消すかのように、今度はEFOを称賛する動画やレビューが、相次いで投稿され始める。

 後に、『魔の1時間』と呼ばれる地獄を生き延びたプレイヤー達が、自分や仲間の戦果をさらしたのである。


 自分の3倍の身長があるクマにしがみつき、脳天に剣を突き刺す<サムライ>。

 

 荒野の中で、遅い来るコヨーテを連携して撃ち抜く<ガンマン>達。


 モンスターが撒き散らしたアイテムに囲まれ、勝どきを上げる<ナイト>の軍団。


 彼らはいずれも、この手のゲームをやりこんできた玄人たちで、自らの功を誇るだけでなく、1時間の中で検証した「ゲームの自由度」についての報告も上げた。


 曰く

・『安全地帯』は存在しないが、フィールド上にバリケードや建築物を設置することは可能。

・アイテムと通貨はモンスターがドロップし、それをプレイヤー間で交換することが可能。またその際、譲渡に条件を付ける事が可能で、応用すればプレイヤーがクエストを作成することができる。


 これ等の報告で、FFOが従来のような、予めつくられたフィールドや街、クエストという箱庭で遊ぶ受け身のMMORPGではなく、プレイヤー自身が箱庭を構築できるゲームであることが周知された。


『自分たちが世界を創造できる』


 俗に言う『廃人』プレイヤーたちは、先を競って幻想郷へと飛び込んだ。


 ある者は廃墟と化した旧人類の街を復元、城壁を築いて安全地帯を自作し、またある者はダンジョン奥深くに眠る財宝を掘り当て、それを元手に商いを始めた。


 1周年を迎える頃には、賛否両論の評価を受けつつ、プレイ人口は全世界で1億人を突破。

 ただの平原だったスタート地点に、有志によって村が形成され、プレイヤー同士の戦闘でHPを全損させないというローカルルールが徹底された為、新参者が即死するという事もなくなった。


 だが人が集まるという事は、それだけ悪質な(やから)も出てくるという事でもある。

 クエスト詐欺やプレイヤー殺し(PK)、モンスターに殺させるMPK、もっと単純に街の破壊や略奪を働く連中が現れた。

 『安全地帯がない』という仕様の為に、一般プレイヤーはそれらに対し、自衛を余儀なくされた。


 一応、ゲームへのクラッキングや公序良俗に反する言動については、運営側が規約で禁じていたが、街はプレイヤーメイドな為に規約に触れず、略奪行為はプレイヤー同士の対戦とみなされた。

 暴言についても、禁止ワードを巧みに掻い潜った表現が横行し、それを理由にアカウントが削除されることはほとんどなくなってしまった。


 しかし『好ましくない』プレイであることは確実で、故にこの様な者たちは<グレープレイヤー>と呼ばれるようになる。

 彼らの取り締まり、システムや規約の改変を求める者もいたが、プレイヤー側が順応すればいいという反対意見も挙がり、意見は二分された。

 

 そんな中、運営への問い合わせページに、ある書き込みがなされる。

 質問者のハンドルネームは『J』。


『Q.ゲーム内で、いわゆる『グレー・プレイ』を行う者たちに対して、同等の手段で制裁を加える事は許される?』


 それに対する運営の返答は


『A.あなた方が実行可能であるなら、どうぞやってみてください。運営側は彼らを規制しないように、あなたに対しても規制は行いません』


 その日のうちに、免罪符を手に入れた一人のプレイヤーによる、(グレープレイヤーにとって)下劣(ナスティ)な制裁が始まった。

 レイドボスである火竜『姶良(あいら)』を討伐した証である<ゴクエン>シリーズの鎧をまとい、隠密・暗殺を極めた称号<オニワバン>を冠したプレイヤー、<ナスティ>ジェイルが誕生した。


 それから、時は流れ・・・

 

仮想西暦2030年 1月某日 『死なずの森林』戦の直後 

東京都西部 唄月(うたつき)

 

 ジェイルのログアウトを確認した後、佐村(いおり)は息を吐きながら、フェイスコンバーターを脱いだ。

 精密機械が内蔵されたプラスチック製のヘルメットを脱ぐと、皮膚に浮きあがった汗が外気に触れ、ひんやりと心地よく感じられた。


 正面のデスクトップパソコンには4つのブラウザー画面が開かれ、そのすべてがEFOのアカウントページに繋がっている。

 ただしジェイルを除く3つの画面では、キャラデータの消去が完了したというメッセージが浮かんでいた。

 ヤヨイとサム、そしてアンデットモンスターをトレインするために使った、名前すら付けていなかったアバターの物だ。


 仕込み作業を含め、3時間近くプレイしていた庵は、顔が火照っているのを感じながら、アバターの消えたページを閉じた。

 

「お疲れさん・・・3人とも」


 捨て駒たちへねぎらいの言葉を呟いた後、庵はジェイルのアカウントページから、チャット画面へ移動する。


『掲示板:G対策本部


名前:J  投稿日:01/** 17:14

・終わった。死なずの森林に新しい住民が増えた・・・かも?


名前:Y(故人)投稿日:01/** 17:15

・乙です。

 >>新しい住民が増えた。

 いやいや、あの連中なら、モンスターたちも受け入れ拒否でしょww


名前:S(故人)投稿日:01/** 17:18

・まぁ、『灰かぶり』のその後なんか興味ないね。今言いたいことはただ一言。J、サンクス。

 あ、もう一言あった。取り返した装備、ネコババせずにちゃんと返せよな(・m・)ノシ<バンバン  』



 チャットの相手は、勢鬼松や麻酔銃使いの犠牲となったプレイヤー達で、今回の複垢はこの2人をモデルに作成されていた。 

 3人は5年前からの最古参組で、幾度かパーティを組んでダンジョンに潜った程度の付き合いはあった。

 その後、二人が新たに作成したアバターに、盗賊から奪還できた元の所持品を返却する算段を話し合い、チャットは解散した。


*****


「ふぅ・・。頭脳を使えて、友達も助けて、いい仕事したなぁ♪」


 机に常備していた板チョコを取り出し豪快にかぶり付くと、庵は席を立ち、いつの間にか茜と紺が混ざった色合いになっている空が見える窓へ、カーテンを閉めに近づく。

 そして、部屋の電気をつけずにいた事に気づき、次はパソコンの明かりを頼りに、部屋の入口のスイッチをまさぐる。



ポン、どん、どん カチリ


 何度かの失敗の後、庵の部屋に明かりが灯り、見たくなかった惨状(現実の部屋の様子)が露わとなる。

 寝巻代わりのジャージが脱ぎ散らかされたベッド。その足元には、もう何日分かわからない量の靴下が丸まった状態で固められている。

 もう必要なくなった参考書は一応本棚収まっているが、それらは買い足されたライトノベルや漫画が覆い隠してしまっている。

 そして床には、食い散らかしたスナックの残骸や水滴の残るペットボトルが散乱・・・。


 端的に表すならば『汚部屋』である。

 

 庵の容姿も、毎日風呂には入っているものの肩まで伸びた髪はぼさぼさ、顔はジェイルとは程遠く、冬休みでどれ程だらけ切った生活を送ったかが、一目でわかる有様だ。 

 だが、庵本人はもちろん家族も最近は全く口を挟まなくなった為、改善の見込みはない。

 今の時期、同級生は男女問わず、就職活動の為に身だしなみに気を使っているようだが、庵は気にしていない。

 ゆえに、くわえたままの板チョコが口の周りを汚すのにもかまわず、庵はそのままベッドにダイブした。

 すると、開きっぱなしだったジェイルのアカウントに、一通のメールが届いた。


「・・・んぐ?うんふぇい(運営)?」


 パキリとチョコを嚙み折って立ち上がると、庵はパソコンの前に戻り、メールボックスを確認する。

 差出人は『ミネルヴァ・カンパニー』、件名は『採用通知』となっていた。


「・・・採用って、入社試験なんか受けてないのに・・・」


 悪戯かと疑う庵。

 だが、その送付元のメールアドレスは、EFO公式サイトの『お問い合わせ先』に明記されているものと同じであった。

 念の為に電源の配線へ手を伸ばしながら、庵はメールを開いた。


『-拝啓-

平時はFFOをご贔屓くださり、また悪質なプレイヤーの対処にご協力いただき、誠にありがとうございます。

 その功績を鑑み、弊社内での特別選考の結果、庵様を正規社員として雇用させていただくことが決定いたしましたので・・・』

「・・・ここにご報告させていただきます。了承いただけるならば、下記URLからご返答ください?なんだこれ、新手の詐欺か?」


 部活動やボランティアの経験が好評につながるとは聞いたことはあっても、自社のオンラインゲームをプレイしていたというだけで即採用というのは前代未聞だ。庵が警戒するのも無理のない話である。

 だが調べてみると、そのメールに記載された接続先は、庵が以前質問を投じた運営サイトの質問欄であり、またメールの送信元も、度重なる検索の結果、『ミネルバ』の窓口として公式サイトに掲げられているアドレスで間違いなかった。

 ウィルス対策ソフトも問題なしという結果を返しており、犯罪を疑う要素はほとんど消えていった。


「・・・本当に、就職できるのか?」


 ゲームの運営と言われても、何をすればいいのかわからない。プログラミングは、中学の頃に『ブロック崩し』の制作に挑戦し惨敗した程度。

 それでも、『正規社員』という魅力的な誘いに、庵の心は動いた。

 念のためメールからの転送ではなく公式サイトを経由させて、庵は採用通知に了承する旨の返事を、『ミネルバ』に送った。


ピロン♪


 送信完了の電子音を確認した庵は、少し仮眠を取ろうと立ち上がる。

 ところがその直後、突然PCのモニターが強烈に光った。


「・・・!?なんだ、故障っ!?」


 両腕で庇うも時すでに遅し。庵の視界は純白の靄に覆われ、全ての感覚がマヒした。

  

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