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ナスティ・ジェイル~ネトゲの策士が異世界革命!?~  作者: ミズノ・トトリ
プロローグ
2/44

電脳空間の下劣な策士

 

仮想西暦2030年 1月某日

『EFO』日本サーバー 死なずの森林



 日本サーバー最高峰の火山フジ、その麓に広がる密林エリア。

 その名の通り、アンデッド系モンスターが蠢く森の中を、6人のプレイヤーが隊列を組んで進んでいる。


 引率するのは<オンミョウジ>ヤヨイと<ケンゴウ>サム。

 その後ろを、<サムライ>のカイト、<ジュツシ>のヨヨヨ、マナカ、エライネコの3人が続く。


 カイトは空中に出現させたアイテム欄を満足げに確かめながら、前の二人に礼を告げる。


「エヘヘ、もう少しで素材がコンプ出来ます。2人とも、ありがとう」

「気にしなさんな。俺たちも知り合いから、この辺で採れる薬草採取を頼まれてたから。その次いでだ」

「私は特に用事があった訳じゃないけど、暇だったしね♪」


 サムもヤヨイも、嫌な顔をせずに答えた。

 が、ヤヨイはすぐに、少し真剣な顔で4人に付け足す。


「けど、手当たり次第に声をかけまくるのはマナー違反よ。次からは気を付けなさい」

 

 初心者丸出しな行動をしていた4人の姿を思い出しながら、女性<オンミョウジ>は釘を指した。

 彼らがやらかしていたのは、一昔前なら<フンター>や<ゆうた>と揶揄された、いわゆるタカリ行為。

 普通なら、そんなことをする迷惑プレイヤーはガン無視されるモノだが、彼女は4人が初心者であるということで、仏心を出したらしい。

 気付いた理由は単純。4人の職<サムライ>と<ジュツシ>は、日本サーバーのプレイヤーが最初に選べる初期職。そこから熟練度を上げていくことで、<ケンゴウ>や<オンミョウジ>にランクアップするという仕様なのだ。


 案の定、彼らは始めてまだ3日目のルーキーズだった。

 適当に選んだクエストが、よりにもよってベテラン向けの中ランクの依頼だったという。

 

「まったく、依頼主も相手を選びなさいよね」

 

 と、そもそもの元凶、彼らにクエストを依頼した顔も知れぬプレイヤーに対して愚痴をこぼしつつ、ヤヨイはもう一言付け加える。


「それに、最近は護衛を任される振りをして、依頼人をモンスターに殺させる奴等がいるらしいよ。俗に言う、『MPK』っていうやつ。護衛を頼むなら、街頭じゃなくてギルドに行きなさい」

 

 すると隣を歩いていたサムが、次いでとばかりに口を開く。


「ああ、あと同レベル同士で野良パーティ組む時も気をつけろよ。素人詐欺PKってのも、最近出てるからな」


 その言葉に、ルーキーだけでなくヤヨイも興味を示した。


「・・・初耳よ?どんな手口?」


 彼女がそう尋ねると、<ケンゴウ>の男は立ち止まって、4人の方を向いた。


「いわゆる、<グレープレイヤー>ってやつらでな。手口はヤヨイさんが話したのと似ているんだが、連中は複垢(ふくあか)とBotを使うんだ」



 複垢とは、『複数のアカウント』あるいは『副アカウント』という意味のネットスラング。

 EFOでは、1つのメールアドレスで1つのアカウント(プレイヤーデータ)しか登録出来ないが、使い捨てメールサービスのアドレスを使って、アバターを複数保有するプレイヤーがいる。


 一方『Bot』は、改造プログラムの一種。プレイヤーが操作又はログインすらしていない状態でも、アバターにアイテム採取など一定の行動をさせる事ができるという代物。


 どちらもオンラインゲームにおいては、公平性やゲームサーバーへの負荷、リアルマネートレード(レアアイテムやアカウントを現金で売買する行為)といった悪用の恐れ、という観点から『好ましくない』行為とされており、中には規定で禁止しているゲームもあるほど。

 しかしEFOでは、運営元が新参企業である所為か、これらを取り締まる規定が存在せず、プレイヤーたちは自主規制という形で、これらを封じている。が、人間は千差万別が特徴の生物。やはり手を出す連中が、一定の割合で出てきてしまう。

 それが<グレープレイヤー>と呼ばれるモノたちである。


「奴らの手口は巧妙でな。まずは複垢で作ったアバターで初心者を装い、中級プレイヤーに近づく。で、彼らとパーティを組んで、適当な強さのモンスターハントに出かけるんだが、その時本命のアバターにモンスター討伐Botを組み込んで、目的地に潜伏させておく。そして一行がキルゾーン(狩場)に踏み込んだら、プレイするアバターを本命に切り替えて襲いかかるんだ」

「まぁ、ひどい」

「だろう、しかも本命の方は強化しまくりの上級アバター。それも10人くらいの徒党を組んでやがるもんだから、哀れな中級プレイヤー(ターゲット)は瞬殺。直接手を下していない複垢アバターは、再び街頭でカモを探して、最初に戻る。・・・そうだろ?()()()」 


 サムは突然、目の前の新参プレイヤーへ投げかけた。

 すると・・・


「!?・・・何でわかったんだぁ?“カモ”にした連中は、全員殺したはずだぜ」


 そう言ったカイトの顔は、おどおどした少年の物ではなくなり、外見に不相応な、下品な笑みが浮んでいた。

 そして・・・


 ズしゅっ!


「・・・なぁ!?」


 本性を現したカイトへ目を向けていたヤヨイの背中に、1本の投げナイフが突き刺さる。

 その一撃でHPは全損し、彼女のアバターは、所持品全てを強制的に撒き散らされ、光の粒子となって消えた。


「一撃で即死・・・・『暗殺スキル』持ちか」

 

 隠密状態であれば、HPに関わらず全損ダメージを相手に与えるスキルだと、サムは見抜く。

 相方が殺された直後だというのに、彼は不自然なほど落ち着いた様子だった。


「ごめいと~う♪あんた<ケンゴウ>なんてしょっぼいジョブのくせに、えらく詳しいじゃん?」


 不快な話し方をする声はカイトの物ではなく、短剣が飛んできた方向から聞こえてきた。

 振り返ると、ほとんど半裸状態の衣装にモヒカン頭のオーク男が立っていた。 

 サムがオーク男を見つめると、視野に名前と職種、HPゲージが表示される。


 <アサシン>/勢鬼松


 名前の由来は恐らく、「ヒャッハー」と叫ぶギャングが出てくる漫画だろう。

 彼の職を確認したサムは、やはり冷静な口調で、相手に問いかける。


「<アサシン>は獲得に、隠密熟練度とPK(殺害)数がかなり要求されるジョブだ。しかも<暗殺スキル>持ち。殺した数は百、二百できかねぇだろ?」

「あひゃひゃ。その通り、2年かけて手に入れたレアスキルだ。苦労したぜぇ?何せこのゲーム、()()()()()()()()()()、だからなぁ。皆死ぬのを異常なまでに警戒してっから、他のゲームみたいに簡単に殺せねぇんだもん」


 勢鬼松が話している間に、二人の周囲には同様の容姿をしたプレイヤーが20人以上、姿を現していた。

 職業は確認できた者だけで、<アサシン>、<リッパー>、<マーダー>。

 名前の通り、どれも数多くのプレイヤーを殺害する事が、獲得条件となっている職種だった。


 全員が集まったのか、勢鬼松はシミタ―(曲刀)を取り出しながら告げる。


「あんまし長居してっと、モンスターが集まって来るからな。殺す前に、一つ教えろ。俺たちの手口、誰に聞いた?」


 今後の不安の芽を摘み取ろうとする<グレープレイヤー>に対し、一人孤立した状況であるサムは、あくまでの冷静に、しかしわずかに怒りをはらんだ声で返答する。


「・・・お前らが先月カモにした中に、俺の現実の友達が居たんだ。そいつが死ぬ前に、同行していた初心者がBot化していることに気付いていたんだよ」

「うわぁ、何こいつ。リア充ジャン。さっさと殺そう!」


 何がおかしいのか、取り巻きの一人が言った言葉で、グレープレイヤー全員が笑う。

 

 あはははhhh・・・・


 しかし、その笑いはすぐに収まる。

 彼らの耳に、本来聞こえないはずの笑い声が届いたからだ。

 孤立し、殺されるという立場にあるサムが、同じく嘲笑を挙げていた。


「何がおかしい!」


 勢鬼松が怒鳴ると、サムは笑いをこらえながら返す。


「いやぁ、お前らが馬鹿すぎて馬鹿すぎて・・・。いい加減、そこに転がってるアイテム、よく見てみろよ」


 サムが指した先には、ヤヨイが所持していたアイテムが散乱していた。

 が、その詳細を確かめた勢鬼松は、自分の目が信じられなかった。


「なまくらナイフ」、「腐った薬」、「鉄の盾(大破)」etc.


「どうなってる!?ごみアイテムばっかじゃねぇか!?」


 落ちていたのは、作成に失敗したり耐久値が尽きたりした物ばかり。フィールド攻略に出掛ける者の所持品とは、到底思えない内容だった。


 勢鬼松は、罠にハマったのは自分だと、即座に気付く。

 同様に、最初はただ驚くばかりだった盗賊達の間では、次第に怒りと殺気が満ちていく。

 そんな勢鬼松達を尻目に、カモであるはずの<ケンゴウ>は、なんともないといった様子で、蔦に覆われた樹木を背に、襲撃者たちを見渡す。


「お前らの情報を知っていて、カモられるような装備を持ってくるわけねぇだろ?クエスト完了までギリギリ使えるアイテムしか用意せずに、お前らの話に乗っかったんだ。手口がばれてた時点で、対策練られてるって気~づ~け~♪」

「・・・るっせぇあこのやろらぁ」


 あからさまに煽るサムへと、気の短い数名が奇声をあげて飛び掛かり、片手剣や長槍で、サムのアバターは樹木に磔にされる。

 隠密ではない攻撃故、暗殺スキル発動しなかった。それでも数の暴力により、HPが全損するほどのダメージが入る。

 しかし、自分のHPが減っていくのを笑って見ながら、サムは盗賊達に告げる。


「最後に良い事教えてやる。ヤヨイとサムは、()()()()()だ♪」

「!?・・・まさか」

「キシシシ、さて問題。本当のオレは、いまどこにいるでしょう?」


 その直後、<ケンゴウ>のアバターは砕け散り、アイテムが撒かれるが、その中に黒い球体が数個。


 バチバチと火花が散るそれは・・・


「ば、ばくだn(ドーーン!)」


 逃げる間も無く、4人のアバターが消滅した。

 それだけでは終わらない。


 スパンッ! タンタン!


 さらに三人の盗賊が、背後からの不意打ちで倒される。

 (いず)れも一撃で即死、暗殺スキルが発動していた。

 

「畜生!俺たちの真似をしてやがる!!我餓牙(ガガガ)!千里眼を使え!」


 居場所を暴けば『暗殺』は発動しない。

 勢鬼松は、索敵スキルを持つ仲間に指示を出した。


 <ジュツシ>ヨヨヨを操っていた<マーダー>の男は、スキルを発動させるために周囲を見渡す。

 が、その動きが仇となり、『千里眼持ち』と見破られた我餓牙の額に、鋼鉄製の矢が突き刺る。


 仲間の体が砕けるのを、ただ見つめる事しかできなかった17人。しかし矢の飛んできた方向から、敵の位置を特定し、視線をそちらへ集中させた。


「あそこだ!防御陣形!!」

 楯を持った者を先頭にし、輪形に集まる盗賊達。

 すると森の暗闇から、弓を担いだ人影が現れる。


 黒いポニーテールに黄色(おうしょく)の肌、黒地に朱と金で炎をあしらったユニーク系軽装鎧に身を包んだ、ヒト族の青年だった。

 盗賊達の視野に浮かび上がった名と職業は、


<オニワバン>/ジェイル


 <ゴクエン>シリーズと呼ばれるユニーク装備、<オニワバン>という職種、そしてジェイルというプレイヤーネームの組み合わせを、彼らは以前から知っていた。


「な、なな、<ナスティ>・ジェイル!」

「おーう♪よく知っていたなぁ。オレの事を知っていて、このゲームで荒らし行為をやった、と?」


 生き残っている<グレープレイヤー>たちを見回し、ジェイルは高圧的に、一同に問いかけた。

 すると勢鬼松は、明らかに怯えが含まれていると解る声で、自分に言い聞かせるように言い放つ。


「う、うるせぇ!最古参だか運営の代弁者だか知らねぇが、調子にのってんじゃねぇ!てめぇの噂はさんざん聞いたが、何て事はねぇ。こそこそ隠れて不意打ちするだけの臆病者を、馬鹿どもが大袈裟に怖がってるだけだ」

 

 するとジェイルは、諦めるように首を横に振る。


「ヤレヤレ。おとなしく降参していたら、チャンスとして教えてやったのに・・・」


 意味深な言葉に、勢鬼松は顔を硬直させる。


「は?・・・なんの事だ?」

「・・・もう間に合わないが、お情けで教えてやる。盾役から離れた方がいいぞ・・あと4、3、2、1」


 ドーーン


 カウント終了と同時に、盗賊グループの先頭にいた盾をもった3人組が、ほぼ同時に爆散した。

 しかも彼らの背に隠れる様に密集していた為、今度の爆発では合計9人のアバターが消滅した。



「な!?何が起こった!?」


 手下の一人を身代わりに突き飛ばし、難を逃れた勢鬼松は、続きを警戒して中腰になりながら叫んだ。


「グレネードのスリ入れは、隠密プレイヤーの基本だろう?まぁ、入れてから最長5分も猶予があるのは、このゲームぐらいなモンだけど」

「5分!?」

 

 告げられた時間に、グレープレイヤーたちはどよめく。

 サムとヤヨイを複垢で釣りつつ、ここへ身を潜めていた時点で、既にジェイルは盾役達に仕込んでいた事になる。・・・誰にも気づかれることなく。

 それは、ジェイルがその気であれば、自分たちはとっくに死んでいたことを意味していた。 


 自分たちは遊ばれている、と。


 それは、彼らの精神を崩壊させるには十分な情報だった。


「うう、うわあぁぁぁ!さっさとヤッちまえ!!」


 一方的にやられ、勢鬼松達は考えることを放棄。純粋な暴力を叩き込むことにした。

 ジェイルの武器は弓だけで、腰に剣は差されていない。新たな爆弾を投げられる前に、残った8人で袋叩きにしようという算段だ。

 だが、その作戦もすぐに崩壊する。


 パン、パン、パン、パパン!


 乾いた破裂音が響き、盗賊5人が倒れ込む。


「な、なんだ?動け・・・ない」


 HPはあまり削れていないものの、全員に黄色いエフェクトが発生し、立ち上がれなくなった。

 無事な3人は構わず突撃を続けるが、ジェイルは素早く横へ飛び退く。

 その手には、リボルバータイプの拳銃が握られており、彼は横への回避行動をとりながら、器用に弾を装填していく。


「『銃』だと!?アメリカサーバー限定の武器を、なぜ貴様が!!」

「限定っつっても、『サーバー移籍』で持ち込めるからなぁ。向こうからわざわざやってきて、MPKやらかしてた奴の遺品だよ。威力は低いが麻痺(スタン)性能付きの弾丸を撃てるんでね。没収しといた」


 話している間に、3発分の弾を込めたジェイルは、接近してきた3人に向けて放つ。

 が、二人を倒したものの、彼の動きに適応し始めた勢鬼松には、間一髪で弾丸をよけられた。


「当たらなければ、どうってことはねぇんだよ!」

「同じセリフを言った、大佐だか大尉だか総帥だかは、その後何度もフルボッコにされたぜ?」

 

 赤や金色の人型兵器が登場する、古いSFアニメをネタにしたジョークを返すと同時に、ジェイルは弾切れとなった銃を勢鬼松へ投げつける。

 盗賊の頭領はそれを自分の武器で弾くが、その所為で腹ががら空きになってしまった。


「やべっ!」

「フィニーッシュ♪」


 銃と同様にショートカットに仕込んでいた短刀を取り出したジェイルは、無駄のない動きで、それを勢鬼松に突き出した。



その後


「なぜ・・・殺さない?」


 麻痺毒が塗られた短刀を忌々しげに見つめながら、地面に倒れる勢鬼松は問うた。

 散らばった遺品やマヒで動けない盗賊の所持品から、レアアイテムを素早く検品・回収していたジェイルは、マップを確認しながら返答する。


「オレの二つ名、<ナスティ(卑怯者)>の由来は知ってるだろ?お前たちには、犠牲者たちと同じ苦しみを味あわせたいからな。ヤヨイを操っていた時のMPKの話、覚えているか?」


 がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん、


 横たわっている勢鬼松の耳に、地面を通して無数のアンデットモンスターの足音が届く。


「・・・あれな?最初の数件はこの麻痺銃を持ってた奴の仕業なんだが、最近起こっているのは、お前らみたいなグレープレイヤーを相手に、オレがやった事なんだ」


 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃん


「方法は簡単。Botを入れた複垢にモンスターの巣を突かせてトレイン(引率)し、こんな風に麻痺させた奴らになすりつける。・・・じゃ、サイナラ」


 ぐるるるrrrrr


 ゾンビタイプのモンスターが勢鬼松たちに襲いかかる中、地獄の業火を防具に描いた青年は、何食わぬ顔でログアウトボタンを押した。


「ちくしょぉーー!ナスティジェイルぅ!!」


 この世界を去る外劣な策士に、グレープレイヤーたちは罵声を浴びせかけながら、無残な最期を遂げていった。



 今回と次回は、世界観を説明するための前日譚 (のつもり)です。

 物語はオープンワールド系RPGのように、異世界革命というメインクエストをやりつつ、立ち寄った国や村の事件を解決していく、という流れに・・・なったらいいなぁ。

 

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