夢と思ったら乙女ゲーム転生? やり過ぎた後なんですけど……
「リリィ様、クラウティス孤児院の院長と言う者から面会の申し出がありましたが、いかがなさいますでしょうか?」
今、私ことリリィ・プルミエールに声をかけてきたのは、40前後のとてもダンディなわたし好みのいい男。私専属の従者にして、別名この国の国王とも言います。今までかしずかれる立場だったせいか、敬語がうまく使えないのが難点ではありますが……。
「クラウティス孤児院ですか? 分かりました、会いましょう。
あぁ、この報告書のこの部分ですが、支出と収入が釣り合っていません。詳しく精査させ、担当者の記載漏れであれば温情を与えますが不正であれば厳罰するようにしておいてください」
収支報告書の中から一部を抜き出し、国王へ渡して執務室から立ち去ろうとすると、聞こえよがしな嫌味が居並ぶ家臣の1人から聞こえました。
「くそっ、下賎な生まれの小娘の分際で国王陛下を雑務係のように扱いおって……」
「馬鹿者っ、口を慎まんかっ」
すぐに隣の大臣にたしなめられたようですが言っていることはその通りですね。
——あれは処罰された騎士団長の後釜となった方ですか。実直で知られている方ですが、配属初日ということもあって未だ理解ができていないのでしょう。問題を起こすつもりもないので、彼のことはあえて無視し部屋から出て行きます。
確かに今の私は孤児院の出ですし、年齢は10歳と小娘もいいところ。中世ヨーロッパ程度の文明の中、現代日本の知識と技術を持ちこんだためにこのような状況となっているだけで、普通に考えれな私のような小娘が国王をアゴで使うなんて考えられませんからね。
そうそう。紹介ついでに申しますと、私、どうも長い夢を見ているみたいです。
夢の中の私は金髪ふるゆわ巻き毛とサファイアのような瞳が可愛らしい、学校で言えばクラスの中でもトップクラスの可愛らしさを持った美少女なんですが、……実際は十人並みの顔を持ったごく普通の腐った趣味を持つ18歳と182ヶ月の成人女性です。
ある日、|道で拾ってパクったサイフの中身《ちょっとした臨時収入》があったので、久しぶりにお酒を5合ほど堪能し、泥酔状態で終電に乗ろうとしたところ、たまたま足がもつれて目の前にいた男性へ軽くあたってしまいました。
男性は余程貧弱だったのか「ちょっ??」と言いながら黄色い線の内側からホームの外まで器用にふっ飛んで行きました。間違っても私の押した勢いが強かったとか、「落ちたらまずい」と理性が働いて男性を身代わりにしようと狙ってぶつかったわけではありません。
あ、もちろん電車が来る直前とかではなかったので大丈夫だった……はずですよ?
なぜ断言ではないかと言いますと、その直後、私の意識が飛んでしまったからです。
最後に覚えていたのは……、そうですね。すぐ横から可愛らしい包丁を手にした私より少し年下にみえる鬼の面を被った女性が私へと飛び込んできた事でしょうか。——え? 女性の年齢ですか? ダメですよ、言ったら私の年齢が分かってしまうではないですか。せっかく先ほどぼやかしたというのに、まったく。
その女性は目の前の男性に向けて包丁を構えていたらしく、落ちていく男性を目で追いながら、呆然としたまま勢い良く私にぶつかってきました。
前方不注意はいけませんね。おかげで私のAカップもあるたわわな胸にその包丁がさっくりと根元まで刺さってしまったではありませんか。
——その後のことはよく覚えておりませんが、気がついたら見たこともない孤児院でお世話をされている自分がおりました。
ええ、きっと本当の私は男性を突き飛ばしたまま地面に倒れて意識を失ったのでしょう。こっちの世界で10年近く生きるという長い夢を見ていますが、きっと夢、夢なのです。お酒の力とは怖いですね、まさかここまでリアルな夢をこんなにも長く見ることになろうとは。今後は少し気を付けてお酒の量を減らしましょう。そうですね、呑んでも4合半までにしておきましょう。
失礼、話が逸れてしまいましたね。
(閑話休題)
冒頭で話があったクラウティス孤児院と言いますのは、私が夢の中でお世話になっていた孤児院の名前で、現在、この状況となるきっかけとなった場所です。
院長先生は60も半ばではありますが、ロマンスグレー溢れる執事服が絶対に似合うはずの素敵な老紳士です。
私がお世話になっていた頃は経営が火の車で、明日の食事にさえ困っていたのですが、現在は私の働きにより状況が改善され、みんな水準の高い教育を受けることもできますし相当に恵まれているはずですが……、いったいどうしたのでしょうか?
「お待たせいたしました」
そんなことを考えながらも、院長先生を待たせていた応接室へとたどり着きました。
早速従者に扉を開けさせ、断りを入れて中へ入ると、院長先生が昔と変わらない柔らかな微笑みを浮かべて立っていました。
「いえいえ、こちらこそ突然お邪魔して申し訳ありませんね。
リリィこそ宮殿の暮らしには慣れましたか?」
形式上、私の立場はこの国の研究機関の一職員ということになっています。
まだ私が幼い頃、孤児院の経済状況をなんとかしようと将棋を作って販売をしたことがありました。あまり売れませんでしたが、将棋を見た国の重鎮の一人が将棋の本質(盤上での模擬戦争)を理解し、私を訪ねてくることとなりました。
私は所詮夢の中ですし? と思いまして、その重鎮を論破し、孔子の知識を自信満々に披露した所、なぜか国に召し上げられることとなりました。そのまま私は国の研究機関に配属され、いろいろあった末にこの国を裏から支配することとなった……のですが、そんな事を表に出すわけにはいきません。あくまで一研究員という立場が対外的な私の立場となっています。
元々の目的は孤児院の経営改善でしたので? その権力を使って孤児院への投資や支援を行うことは当たり前のことでしょう。これも建前は有能な研究員を輩出した施設へのお礼と、後続となる人材を育てるためにおしみない投資を行うという名目のもと、施設への援助を手厚いものへ変えました。あぁ、もちろん院長先生は全く知りませんよ?
「ええ、みなさんには大変よくしていただいております」
そう答えるとあきらかにホッとした顔。
以前、孤児院の子達は全て自分の子と思っていると言っていましたからね、私も自分の娘のように思ってくれているのでしょう、こんな幼い年で王宮使えをさせていると心配をかけていたようですね。
孤児院にいる間はあくまでも規格外のものは作らず、小銭を稼ぐ程度のモノを作り、孤児院の運営費に回す程度のことしかしていませんでしたから。そんな私が国のエリートに混じって研究をしていると考えれば心配にもなるのでしょう。
——まぁ、そんな私が大量殺戮兵器の作成や核の研究を進め、国を裏から牛耳っているなんて思いもしないのでしょうが、……間違いなく院長先生の心臓がもたないでしょうから絶対に言うわけにもいきませんけどね。
「それは良かった。
私達が不甲斐ないばかりに、リリィには迷惑をかけてしまったかと思いましたが、貴女のその生き生きとした表情と健康そうに育っている姿を見て安心しました。
ところで……、そちらの方は?」
院長先生の視線が、私の後ろに立っている従者を見て困惑気味に問いかけてきました。
「私の従者です」
そう言えば、院長先生ぐらいのお年ならこの国の国王の顔ぐらいなら知っているかな? とチラッと思いましたが気にせず答えます。
「ですけど、この国の国王様に——」
「私の従者なんですよ♪」
尚も気になるようですが、私も間違ったことは言っていません。きっぱりと答えます。
「以前見た時より若干老けたように見えますが、やはり……」
「そんなことより今日はどのようなご用件でいらっしゃったのですか? まさか孤児院に何か問題でも?」
勿論、孤児院には騎士団から何人か派遣して絶対に問題が起こらないようにしていますが、話題を逸らすため、昔とった杵柄とばかりに迫真の演技で心配した表情と態度で院長先生へ詰め寄ります。
「そちらはご心配なく。リリィのおかげで孤児院の子達は笑顔で過ごせていますよ。
今回は少し、リリィに渡したい物があって来ました」
うまく話題を変えることができたのか、目を細めて笑うと院長先生は懐へ手を伸ばし、何かを取り出しました。
「リリィももうすぐ10歳になります。
少し早いと思いましたが、お祝いと……、これを持ってきました」
すっと2つの包み紙を取り出すと、私の前へそっと差し出しました。
「——これは?」
「一つは孤児院のみんなからの贈り物。もう一つはあなたを預かる際に言付かった物です」
「中を見ても?」
「どうぞ」
促されるままに右側の包み紙をほどくと、中からは指輪が出てきました。これは魔術を使う際の補助具であり、一般家庭では10歳のお祝いに親から送られる杖と並んでポピュラーなものの一つです。
銀色でシンプルといえば聞こえはいいけれどありふれて特徴のないデザインに見える中、なぜか指輪の裏側にはこった意匠が施され、中央にはまった大粒のオニキスを思わせる闇の精霊石がキラリと光る一品でした。
「きれい……」
頭の片隅に何かが引っかかりましたが、どこかで見た覚えのあるその指輪を見て、思わず手に取ってうっとりと眺めると、後ろからなにか息を飲む気配を感じました。
私は気にせず指輪を眺めていると、院長先生から指輪に関しての説明がありました。
「それは貴女のお母さんから、貴女へ贈るようにと託された指輪です。それと「もし、自分を捨てた父親を許してもいいのであれば身につけて欲しい」と言うのがお母さんの願いでした」
自分を捨てた父親には特別何の感情もありません。残念ながら私の記憶は前世の自分と孤児院で世話になっていたところからのみです。この世界の母親には産んでくれてありがとうと言う気持ちはありますが、父親には……、ねぇ?
ただ、この指輪、確かにどこかで見た記憶が……。
「そのっ!! その女性の名はなんと言うのだっ!!」
私が思考に籠っていると、今まで従者の真似事をして微動だにしなかった国王が叫びました。
「残念ながら、孤児院の前で行き倒れていた女性でしたので名前までは……」
院長先生が目をつぶって首を振ると、国王は院長先生の元へ駆け寄り、胸ぐらを掴むと前後に揺さぶりながらさらに詰め寄ります。
「頼むっ!! 教えてくれっ!!
その女性は線が細い感じで髪は銀色、長さは腰まであったんじゃないかっ?」
「線が細く、髪は銀色でしたが長さは男性と見まごうくらいの短さでしたよ。それと右目の下にホクロがあったのが特徴的の優しげな方でした」
院長先生は乱暴に揺すられることで、言葉に詰まりながらもなんとか説明しようとします。その言葉を聞いた国王は目を見開くと、更に院長先生を揺さぶろうとしました。
「っそれは——」
「辞めなさい」
院長先生の顔色が悪くなってきたため、静かですが圧力を込めて言葉を発すると、国王はハッとしたように直立不動になり、院長先生から手を離しました。
「貴方は主人の恩人に手をあげるのですか? ――万が一にも私を敵に回したくないのであれば下がりなさい」
さらに圧力を込めて言うと、国王は泣きそうな顔で何か言いたげに私を見ますが、すぐにうつむいて私の後ろに戻りました。そのまま入り口側で待機したみたいですが、……気にする必要はないですね。
——ですが、見た覚えのある指輪、国王の態度、この二つから私の中で「もしかして」と言う思いが強くなったのも事実です。
「院長先生、大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねると、先程の私の態度で目を白黒させていた院長先生がすぐに居住まいを正しました。
「失礼、ええ、大丈夫ですよ」
未だ落ち着いてはいないようですが、見た感じ、本当に襟を掴まれただけのようで外傷はありません。
「それは良かったです。私の従者が大変失礼いたしました」
「いえいえ、もしかすると彼はリリィのお母さんを知っている人かも知れません。
少し落ち着いたら話をさせてもらってよろしいですか?」
院長先生の言葉に、嫌な予感はしますが断る理由も存在しません。
「構いませんよ」
そう言うと院長先生もですが、国王もほっとした雰囲気が伝わってきました。
落ち着いたことを見計らったところで、もう一つの包み紙、おそらく孤児院のみんなからのお祝いに、ある種の予感を感じながら手を伸ばします。
「……これは」
中から出てきたのはカラフルな彩りで作られた髪をまとめるための組み紐達……。予感していた通りの品々に、つい目頭を押さえて天井を仰ぎ見てしまいました。
「今のあなたには稚拙な品かもしれませんが……、と思いましたが、そんなに感動していただいて何よりです。
リリィ、王宮に入って変わったかと思っていましたが、昔の優しいあなたのままで良かったです」
——すみません院長先生、私、孤児院にいた頃から何も変わってはいませんけど、全然優しい人間じゃないです。
夢の中と思って、全能感に酔ったまま色々しでかしていた事が結果的に孤児院のためになっていただけですから。だって、私ってばこの国の影の支配者にすらなってますから。
それに……、思い出しましたがこの組み紐と指輪ってとある乙女ゲームの重要アイテムだったはずですよね? 感動してるように見えるかもしれませんが、色々と思うところがあるだけですから……。
「陛下っ!! お持ちいたしました。神官様もお呼びいたしております」
ドアの外から大きな声がかかりました。
いつの間に呼んだのでしょう、国王を見ると懇願するように私の方を見ています。
「入れっ」
珍しく、私の返事を待たずに兵士を中に呼び込みました。
「えっ!? 陛下? やはり、えっ? でもリリィの従者?」
ドアの外からかかった声で院長先生は気付いたようですが、雪崩れ込んでくる兵士と高位神官の姿に、院長先生は認識が追いついていないようです。
「リリィ様、お願いがあるでございます。
どうか成人の儀の前ではありますが、精霊の祝福を受けていただけないでしょうか」
……やはりアレでしたか。土下座する国王を尻目に、組み上がってゆく簡易神殿見ながら溜息を吐きます。
——嫌な予感が止まらないので正直断りたいのですが……、許してはくれないでしょうね。
どれだけ卑屈になろうとも、土下座だけは頑なに拒んでいたこの男がここでまさかの土下座……。ゾクゾクとした何かが背筋を走り、無意識に国王の後頭部を踏みつけてしまいます。
そのまま蔑んだ目で不躾に国王を見下すと、いつもの命令口調で語りかけます。
「ふっ、小娘に土下座する気分はどう?
頑なに拒んだ最後のプライドを踏みにじられる気分はどう? ねぇ? どう?」
あぁっ、やめなければいけないのに止められない。院長先生、そんな目で見ないでくださいっ!! 背徳感がエッセンスとなって更にゾクゾクと来てしまいますッ。
「プライドなどもはやいりませぬ。ですから何卒っ、何卒お受けいただけますようお願いいたしますっ」
「ふふ、仕方ないわね。貴方が投げ打ったなけなしのプライドに免じて受けてあげましょう」
あ、つい受けると言ってしまいました。
いくどとなくこのやり取りで失敗をしているというのに、……全くこりない性分で嫌になります。
「ありがとうございますっ!! さぁ、神官殿、すぐに儀式を」
後悔に打ちひしがれている私を尻目に、儀式は着々と進行していきます。
「リリィ様、こちらにお手を」
神官様が差し出すのは、何も変哲のない無色の水晶玉。
ですが、この水晶玉に触れることで精霊と契約することとなり、魔法を使えるようになります。
ただ一つ問題は、……私の記憶が確かならこの水晶玉が黒く光ることいよって私の身分が確実なものとなり、ここが乙女ゲームの世界であるという証明になるということでしょうか。
「あぁ……、この光……、間違いない。
やはりリリィ、お前はアナスタシアの……」
予想通り、水晶玉からは黒い光が溢れだします。
一部の人しか知らない、この国の王族しか受ける事のない闇の精霊の祝福を。
目からも鼻からも、口からも耳からも汁を垂れ流ししながら国王が近づいてきます。……と言うか耳っ!? それは病院に行きなさいっ!! なにがてでるのかわからなくて気持ち悪いから近寄らないでっ‼
……現実逃避にそんな事を考えていてもしかたがありませんね。
やはりここは"優しい世界の落し物"という乙女ゲームの世界で、私はこの世界の主人公、リリィ・プルミエールだった、と認めるしかないのですね。
つまり、これは夢じゃなく、よくあるWeb小説の題材、乙女ゲームの転生だったと。
ならばこう言いましょう。
「何がどうしてこうなった!!」
——————
あ、知らない方のために説明しておきますね。"優しい世界の落し物"と言う乙女ゲームは中世ヨーロッパ時代によく似た世界設定を持ち、剣と魔法と冒険の世界にある魔術学院を舞台とした恋愛SLGの事です。
ヒロインであるリリィ・プルミエールはこの国"サファイア王国"の国王の庶子という設定で、よくある生い立ちをしています。
いわゆる国王とメイドが身分の差を超えた禁断の愛を育み、やることをやった末にメイドに子供ができてしまい、それを知った王妃の嫉妬から城から追い出されてしまいます。
ボロボロの体で放り出された彼女ですが、せめて子供だけはと残った力を振り絞り、どこかしらの馬小屋でこっそり産み落とした後は近くの孤児院に私を預けて事切れたと……。普通に聞けば悲劇なのですが、そこで産み落とされた子供というのも可哀想としか思えません。本当、何を考えていたのでしょう。
ちなみにその国王はメイドが追われたことに責任を感じ、二度と子作りのできない体になってしまいました。いわゆるインポテンツと言う症状ですね。そんなことになるぐらいだったらしっかりとメイドを保護すればいいのに……。
王妃との間は冷え切っていたため、もちろん子供はおりません。つまり、現王族の直系はリリィただ一人。国は総力を挙げてリリィを探し出すことになりますが、そんな醜聞、大手を振って探すこともできないためになかなか見つかりません。
もちろん孤児院で必死に生きていたリリィはそんなことに気付くことはできませんし、周りの人もまさかとは思って国に報告することはありません。言いがかりをつけられて処分とか、この時代にはよくあることですから仕方ありませんね。
ですが、彼女が常に身につけていた、母親の形見の指輪を見ればすぐに分かるはずだったのですが……、10歳になるまで渡さないという約束でしたか、捜索が活発な時期に隠していたのなら気付かなくとも仕方ありませんね。これもお約束というものでしょう。
まぁ、ゲーム内では物語終盤まで誰一人気づきませんでしたからなんとも言えませんが。
——と、話がそれましたね、失礼。
彼女が10歳になったある日、洗礼を受けるために教会へ向かった彼女に魔法適性検査が行われました。
この世界でにおいて、魔法を使える才能は貴族などのごく一部のみにしか顕現せず、平民が魔力を持つということはごくまれな事になります。ですが、魔法という超常の力は国の宝であり、最高に使える戦力の一つとなります。
その為、魔力が備わってくる10歳の洗礼時に形だけでも魔力測定するのですが、見事なまでにリリィの持つ膨大な魔力が見つかり大騒ぎとなります。しかもそれが王族にしか存在しない闇属性の適性というおまけつき。
——普通は光属性が特別に思えるのですが、開発は何のオリジナリティを出したかったのでしょうか。闇魔法こそ尊いものという認識がこの世界にはあります。
というか、失踪した王女の年齢と同じ10歳の、しかも王族でも稀にしか存在しない闇属性ということでリリィが失踪した王女と気づいてもいいと思うのですが……。一部のみにしか伝わってないとは言え、そこでばれてしかるべきと思うのですが。
まぁ、それはともかく、彼女はその特異性から王都の魔術学院に特待生で入学することがあれよあれよと言う間に決まることになります。
そしてそこからがゲームの始まりですね。
ゲーム期間は2部構成になっておりまして、入学当初の1年間と卒業前の1年間、攻略対象キャラは総勢8人。
入学当初優しかった最上級生が担任になって戻ってきたり、嫌みばかりで突っかかってきたお嬢様が親友になったり、スカートめくりをしてきた同級生(公爵嫡男)が最難度攻略対象の色気溢れる生徒会長になるなど、攻略対象達の成長を楽しむことまでできる、世の少年愛好者垂涎の品揃え。
魔術学院は魔法を使うものしか入学の許されないいわゆるエリート校、そして魔法を使うことができるのはほぼ間違いなく貴族のみ。そこにポツンと庶民のヒロインが入学してきたことで巻き起こる波乱と友情と愛憎の物語。
……確かそのような内容でしたでしょうか。プレイしたのはあまりにも昔のことなので、うろ覚えや間違っているところがあったらごめんなさいね。
————————
……少し話を戻しましょう。
確かに最初は驚きました。気がついたら2歳ぐらいの女の子になっていたんですから。
いつものようにお酒に酔って変な夢でも見たのかと思っても不思議ではありませんよね? 10歳になった現在まで気付かなくてもおかしくはないですよね。
"夢から醒めない"と誰でも思いますよね?
平常を保ったまま、いろいろなものを垂れ流してくる国王に抱きつかれる私でしたが内心は大慌てでした。
つい、夢の中の出来事だから何をしても平気かな? と内政チート? というのでしたっけ。孤児院の設備環境を改善するため、この世界ではあり得ない知識を用いて様々な物品(調味料や自転車など)を生み出したり、お金になる物品(現代兵器の思想にそった品々)を作って荒稼ぎをし、いつしか狂気のマッドサイエンティストとして国を裏から操っていたからです。
そりゃ、剣と槍と魔法しかない世界で大量破壊兵器の設計図を売りさばいたり、子供でも屈強な兵士を殺せる殺傷性の高い武器を生み出したり、果てには細菌兵器や核なるものを作ってしまってはそう呼ばれても仕方がないかもしれません。
え? ただの腐女子じゃなかったのかって?
いくつになっても乙女には秘密があるのですよ?
その兵器のおかげで国土はどんどん大きくなっていき、いつしか私の地位も高くなっていきました。……隣国を滅ぼした頃からでしょうかね、国王が私に逆らえなくなったのは。
中世の時代に現代の知識とは恐ろしいものですね。
せかいせいふく……、でしたっけ?
後、2、3ヶ国を落とせば達成するようで時間の問題だそうです。
……全て夢と思い、はっちゃけすぎてしまいました。正直反省ものです。
——最近ようやくガラケーを卒業した私が慣れないスマホを操作しつつ、空いた時間を見つけては熟読し、夢見た乙女ゲームの世界へ転生した、というわけですが……。
国を裏から操り、国王の娘と判明したこの状態から、甘いスクールライフの逆ハーレムと言うものは目指せるものなのでしょう、か……?