5 火曜日・後
「本日はお集まりいただき、有難うございます。我ら革命同盟は、『現在の管理された国は間違っている』という思想の下、団結しています」
盟主の言葉には力があった。迷いのない力強い声は、頭に響く。わかりやすい言葉で、ゆっくりとはっきり説明する。
同盟の思想、理念。現状の対比。詳しく知らなかったことが、あっさりと理解できた。
話を聞いていたら、思想に染まる気がした。
「この国に人権はあるのか? チップで管理されるのは正しいのか? 数値で決められた人生に自由はあるのか?」
盟主の問いかけに、成員は声を荒く叫んだ。
突然の変化に、ついていけなかった。視線を横に向けるが、スバルの表情に変化はない。
「チップは爆発するらしいぞ!」
「我々は操られているのか!」
馬鹿らしい。噂はこんなものか。
爆発するものを体内に埋め込むはずがない。誤爆でもしたら大惨事だ。どんなに管理していても『絶対』はないから、万が一が考えられる限り人体には影響がないようにしている。だから、チップは脳には無い。
スバルは呆れた顔で、腕を組んでいた。
「爆発、ねぇ。管理云々の話じゃなかったのかな」
「情報が捏造されているのか?」
「いや、これは仕組まれている。やり過ぎだ」
スバルは口に人差し指を当て、盟主を睨んでいた。考えている時の癖だ。
人差し指で唇を叩いていた。
「俺の親父は、昨日数値が足りなくて連れて行かれた!」
「人権はどうなった!」
数値が足りなければ連れて行かれる。それは真実だ。
しかし、連れて行かれたら殺されるというのは嘘だ。連れて行かれた者は戻ってくることがないから、そんな噂が流れている。本当のことを話さないのかと訊いたことがあるけど、彼は首を横に振った。全てを知ることが正しいわけじゃない、と。
大切なのは、自分で判断することだ。情報を選別して、真実か嘘かを判断する。王宮が出した情報は真実だ。それ以外は疑え。そう、試験で何度も言われているのに。
情報操作か? この集会の意図は何なんだろう。
「予定通り、王宮に抗議を行う。この国が間違っていると思う者は、土曜日、もう一度集まってくれ。飽くまでも抗議だ。暴力は禁止する」
抗議をする前に。思わず袖に隠した武器に手を触れた。
その手を、スバルが押さえた。
「大丈夫だ。ここでは暴動は起きない」
張り詰めていた気が抜けた。そうだ。まだ何も起こっていない。ここで、俺が動いてはいけない。
俺が、自分で決めてはいけない。
スバルが風呂に入っている間に、王子に持たされた通信機で近況を報告した。
『土曜日、ね。こっちも準備しておくよ』
王子の声に、ホッと息が漏れた。まだ王宮は大丈夫だ。内部に侵入者がいるかもしれないけど、深層部には辿り着けないだろう。危機管理は徹底されている。
ある程度までは王宮で働く者なら誰でも入ることができるが、王族の生活区域は関係者以外立ち入り禁止になっていた。限られた者しか入ることができない。
『せっかくの休暇なんだ。もっと楽しみな』
「休暇、なんだよな」
『一応ね。ただ、放っておけないだろう?』
答えがわかっている質問に、返事はしない。
革命同盟が国に立ち向かうというなら、俺はそれを放ってはおけない。この国に危険を及ぼすものを排除する。それは誰かの指示でも命令でもない。命令なんて関係なく、そう決めている。
それがたとえ命令に反しようとも。それが、彼が望まない手段だとしても。彼の願いを実現するために、俺は犠牲になっても良い。
でも、それでも。
「でも、俺ができることなんて限られている」
『だから、休暇だと思って過ごしな。できることだけをすれば良い』
「わかった」
王子と話していると、弟になった気分になる。王子から「お前は弟のようだ」と言われたからかもしれない。その言葉は、主従関係を塗り替えていた。
本当の兄弟はいないから、こんな兄がいたら良かったと思うことがある。今まで自分がしっかりしないといけないと思っていたから、こんな風に話せる人ができるとは思わなかった。
それも王宮で見つかるなんて。
『気をつけなよ。じゃあ』
あっさりと電話が切れた。長々と話す必要はない。報告はあれで充分だ。通信機の電源を切り、袖の中に隠した。
スバルがそろそろ風呂から出てくるだろう。冷蔵庫から氷を取り出し、湯呑みに入れた。
「成員」=メンバーです。




