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2 月曜日・前

月曜日


 風がひやりと頬を撫でた。

 どんなに人間を管理しても、自然を制御することはできなかった。いや、敢えて制御しなかった、か。制御はしないが、大きな災害は予測して対策を取っている。

 王宮を離れ、一国民として街に出た。久しぶりの街だ。今は王宮に住んでいるけど、街には自分の家がある。自分一人の家だから、普段は誰も住んでいない。それでも家を借りていた。あらゆる可能性を考慮して、家は必要だった。「もし」、「何か」が起こった場合のために。

 科学は発達していても、生活には制限があった。家事の負担が減るように洗濯機や冷蔵庫などの電化製品は普及していて、娯楽として映像機器があるが、通信機器などは制限されている。科学の情報も管理されていた。移動手段は徒歩か公共の乗物に限られていて、乗物も管理されているため安全だった。事故は、徒歩の不注意でしか発生しない。

 また、景観を守るために、一般の建造物はニ階建てまでしかない。その代わりに、地下は五階まで許されていた。石造りの家が多く、全体的に白っぽい。

 上を向くと、空が広く感じられた。

「久しぶりだね」

「街に出たのはニヶ月振りだからな」

 城門の脇に立って待っていたスバルは、楽しそうに笑った。

 光の加減によって金色に見える稲穂色の瞳が細められる。容姿は整っているが、十九歳にしては幼い顔立ちだ。しかし、少し吊り上がった目は、時折眼光が鋭くなった。

 俺も童顔な方で、年下に見られることが多かった。それは相手に隙ができ、油断させることができるけど、気分は良くなかった。嘗められている、というのが適当か。スバルとは一歳差の年下で、一緒にいると兄弟に見られた。顔が似ているとは思わないけど。

 街に出て周りを見渡すと、人の顔触れは大きくは変わっていなかった。ニヶ月くらいだと、そんなに変化はないか。

 前を歩くスバルは、商店街を冷やかしながら辺りを見回していた。

「セイジ、遅いよ」

「急がなくても良いだろ」

「時は金なり。時間は限りがあるんだ」

 どこに向かっているのかわからなかったが、スバルには目的地があるようだ。足取りに迷いがない。

 彼の行動は予測できないことが多かった。意味があるのか、無意味なのか。それさえわからない。それでも文句を言わずについて行く。別に他に予定があるわけでもない。

 言われたとおり、歩く速度を上げた。

「セイジ!」

 呼ばれた名前に思わず振り返った。

 自分を呼んだわけではないことはわかっている。でも、この名前には反応してしまう。

 スバルは俺をちらりと見て、ゆっくりと振り返った。

「やあ」

 振り返った先にいた青年は、手を上げて呼び掛けに答えた。

 彼がセイジか。この名前は、この国では多い名前だった。セイジは『王子』の名前で、同じ名前を付ける親が多かった。王族の名前を付けることはよくあることだ。国王、王妃の名前も多い。同じ名前が多いと、結構面倒だった。大声で呼ぶと何人かが振り向く。

 スバルは、俺以外を『セイジ』と呼ばなかった。あだ名や職名で呼んでいる。それは区別なのか、理由は知らない。

 でも、特別扱いなのは間違いない。

「集会は明日三時だったよな?」

「ああ。講堂で行う」

「僕たちも参加していいかな?」

 二人の会話にスバルは割り込んだ。

 二人は驚いていた。そりゃそうだ。いきなり見知らぬ他人が会話に割り込むなんて普通じゃない。スバルは不敵に笑っていた。

 僕、じゃなくて僕たちと言っていた。つまり、俺も巻き込まれている。

 思わず溜息が洩れた。

 セイジじゃない方の青年は、警戒心剥き出しだった。

「アンタたちは何なんだ?」

「君たちの思想に興味がある。噂で聞いたんだけど」

「取り締まりじゃないだろうな」

「まさか。思想、言論、集会は自由だ。チップが許可しているものを取り締まるはずがない」

 スバルは頭を人差し指で叩いた。

 チップは頭に埋め込まれているわけではない。でも、そうだと思っている人は多い。誰が言い出したのか。噂は凄い。何が本当かわからなくなる。

 チップを埋め込まれるときは、麻酔で眠っていて意識はない。本当の場所は、特定の人物にしか知らされていなかった。俺もチップの場所は知らない。

「貴方が主宰者かな?」

 スバルはセイジに目を向けた。

「そうだよ。僕が革命同盟の盟主のセイジだ」

「盟主、ね」

 スバルの呟きが聞こえた。呼び方は『盟主』に決まったようだ。俺も同じように呼ぶことにした。自分と同じ名前を呼ぶのには抵抗がある。

 自信を持って答えた盟主は、手を差し出した。握手を求めるその動作に、スバルはにっこりと笑って拒絶し、盟主はすぐに手を引いた。

 革命同盟。聞いたことがあった。今の状態に満足しないで、数値を無くし、チップで管理されない世界を望む集団だったはずだ。自由は管理されないことで得られるものだと思っているらしい。だから、この国は異常だと認識している。

 管理されないのが自由なのか。それが実現したとして、そこから何を始めるのか。管理を無くして何が起こるか分かっているのだろうか。わかっているなら、チップを排除しようとは思わないはずだ。

「盟主」=リーダー、代表です。

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