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始まりの物語

セイジ視点です。

 公務の帰り、王族専用の車に乗っていた時だった。

 赤信号で停車中に、ふと外に視線を遣った。歩道では男の子たちが言い争っていた。

 三人対二人。学校指定の制服と、肩に掛けている鞄の色で年齢がわかる。青が四人で、緑が一人。青は六歳か七歳で、緑は八歳か九歳だ。

 言い合っているのは青の子たちで、二人の方である緑の子は全く動じていなかった。

 会話が気になって、窓を開けてみた。

「さっさと謝れば良かったんだよ!」

 息荒く吐き捨てた男の子は、緑の子の肩を突いた。緑の子が頭を下げていたから、緑の子が謝ったみたいだ。謝ったのに肩を突くなんて、三人の方が悪く見えた。余計なことをしなければ良いのに。

 三人は謝られたことに満足したのか、偉そうに踵を返して去っていった。偉くもないのに偉そうにするのは見ていて不快だ。

 緑の子の隣にいた青の子が、緑の子の袖を掴んだ。突かれた肩とは反対の腕だった。

「オレは悪くないのに! 何で謝ったんだよ!」

「殴ったら満足した?」

 緑の子は青の子の頭に手を置いた。肩は痛めていないようで良かった。

「……オレが殴られたんだ」

「それで殴り返したら、君は『悪い子』にされる。あと、『施設の子だから』って言われるよ」

 頭をポンポンと優しく撫でて、緑の子は静かに言った。

 あの子たちは施設に住んでいるのか。友達ではなく、兄弟でもない。同じ家に住む仲間だったんだ。

 上の子は下の子の面倒をみるってことは聞いたことがあった。

 青の子は悔しそうに下唇を噛んだ。

「……施設は関係ないじゃん」

「関係あるんだよ。周りの人にとっては。施設の子だから、親がいないから。そう言われるんだ」

「そんなの変だ!」

「うん。でも、そう言われるってわかってるなら、皆に迷惑かけないようにしないと」

「オレが悪くなくても、我慢しろってこと?」

「謝って済むなら、『ごめん』くらい簡単だろ? 『ごめん』で済まない時は、すぐに他の人を呼ぶんだ。もっと悪くなる前に」

「……うん、そうする」

「僕は君が悪くないってわかっているから」

 緑の子は、青の子を抱きしめた。背中を優しく叩いている。

 ああ、緑の子は青の子にとってのお兄ちゃんなんだ。ただの同居人ではなく、家族なんだ。血の繋がりなんて関係ない。

 もっと見ていたかったけど、車は発進した。止まってほしいと言ったら止まってくれるだろうけど、我儘で周りに迷惑をかけたくなかった。『王子』だからといって迷惑をかけるのは間違っている。

 もし、緑の子なら。僕になんて言ってくれるんだろう。


 帰ってからも気になっていた。『施設の子だからって言われるよ』、『僕は君が悪くないってわかっているから』。声が何度も蘇る。顔がよく見えなかったのが悔やまれた。

 次の日、緑の子が住んでいる施設を調べ、生い立ちを知った。調査部隊を使う必要もなく、兄さんの側近が訪ねたところ、施設長が話してくれたらしい。

 五歳で親に売られるところを施設長に助けられ、施設に住んで三年が経つ。無表情なことが多いけど、下の子の面倒見が良くて、問題を起こすこともない。優秀だけど、目立つことはしない。施設で生活するにあたって模範的な子供だということだった。自分のやりたいことがわかっていないんじゃないか、とも言っていた。

 多分、そうなんだろう。親に売られたことで、自分の価値をお金で知ってしまった。だから、『施設には住まわせてもらっている』という気持ちがあるはずだ。そういう気持ちだから、模範的な子供になっている。迷惑をかけないように過ごしている。無表情なのは、感情を表すことが苦手で、表情を作れないからだろう。

 でも、『僕は君が悪くないってわかっているから』という言葉は、本心だったはずだ。自分だけは味方だから。周りの人が何を言っても、自分だけはわかっているから。それが嘘じゃないと分かったから、青の子は大人しく頷いたんだろう。

 羨ましい。自分の味方になってくれるなんて。周りなんて関係なく、自分だけの味方になってくれるなんて。

 僕が『王子』という理由じゃなく、『セイジ』として味方になってくれたなら。それだけで良いのに。それだけが欲しいのに。

 誰も与えてはくれない。


 定期的に、いくつかの施設に礼儀作法の本や図鑑を寄付した。これから役立つ知識が載っているものを選んだ。施設にいる限りは関係ないことかもしれないけど、大人になったら役立つはずだ。

 彼のことは、一ヶ月に一回報告してもらっていた。僕が気になっている人物に興味があるのか、兄さんは側近を施設に行かせて彼のことを聞いてきていた。

 彼は、寄付した本は全部読んでいた。同じ施設の子にも、「将来役に立つと思う」と言って一緒に読んだりしたらしい。施設出身なんだから、高級な料理を食べることはないから、将来身分が高い人に会うことなんてないから。そう言って、他の施設では読んでいない子が多かった。

「将来こういう礼儀作法が必要になった時、『施設出身だから出来なくて仕方ない』じゃなくて、『施設出身なのに出来て凄い』の方が良いだろ」。彼はそう言ったらしい。

 伝聞じゃなくて、直接聞いてみたかった。彼の声で、彼の考えを。


 三年経った。三年待った。

 今日、彼を王宮に呼ぶ。兄さんの側近に迎えに行ってもらった。

 五歳で帝王学を学び始めたとき、自分の人生設計を決めた。僕は第二王子だから、兄さんが次期国王になるべきだ。だから、王位継承を争う気はない。国のために、兄さんの補佐として、表舞台には出ないで働きたい。だけど、国のために政略結婚をする気はない。そう家族に伝えると、皆は受け入れてくれた。

 それから四年後、九歳のときに彼を見つけた。その二ヶ月後、彼を僕の側近にしたいと我儘を言った。僕が十二歳になったら、彼を王宮に迎える。

 彼は一歳年下だから、今は十一歳だ。王宮職員採用試験の受験資格は十五歳からだから、王族以外で十一歳で王宮に住むことなんてない。しかも、採用試験を受けずに側近になるなんて異例のことだ。

 『王子』が決めたことだから。その『王子の我儘』を、初めて使った。

 人が欲しいと言ったことを驚かれはしたけど、反対はされなかった。ただ、ちゃんと相手の意思を確認するようにと言われた。僕の側近になりたくないと言われたら諦めること。それは覚悟していた。でも、きっと彼は断らないはずだ。

 僕が選んだ僕の側近。僕がお前を認めるから、お前は僕の傍にいてほしい。『たった一つ』が欲しい僕たちだから、上手くやっていけるはずだ。

 既に、国を変える準備は出来ている。それはお前がいないと始まらないんだ。


 スバルが王宮に来てから一年後、『王子』の政策が施行された。

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