14 土曜日・後
衛生士は激しく抵抗したが、警備兵に連行された。数値が足りなくて連行される人たちと同じ行動だった。最後くらいは毅然としていれば良いのに。自分の行動が正義だったというのなら、責任を持って結果を受け入れるべきだ。その覚悟がなくて、革命なんて起こすべきじゃない。
行いによっては、また管理区域に戻ってくることができるのだから、罰は重い方ではない。死亡者がいなくて本当に良かった。
国王、王妃、ユウト王子は別室へ移動した。これから大臣と共に国民へ発信する情報を精査するそうだ。
セイジはこの場に残り、近くにあった椅子に座り込んだ。気を張っていたのが緩んだんだろう。
「セイジはどこまでわかっていたんだ?」
「盟主と付き人がチップ創設者の一員で、集会で毒物が利用されるだろうってことかな」
大体予想通りだったわけだ。チップ創設者の情報は極秘なのに、革命同盟のことについて調べているうちに手に入れた情報で推察したんだろう。さすが、知能の数値が高いだけのことはある。
まさか、毒物が利用されることまでわかっていたとは思わなかったけど。毒物が使われるなら、薬品を管理している衛生士の中に犯人がいる。セイジには「数値を測っていた女性を見たことがあるけど何処でかは思い出せない」とは伝えていたけど、それだけであの女性が衛生士だと考えたのか。俺が思い出せなかったのは、衛生士は職務上口元を布で覆っているため、記憶にある顔と一致しなかったからだ。
セイジは俺と行動していたけど、ずっと一緒だったわけじゃない。どこかでカオルに指示を出していたんだろう。衛生士のことを調べ上げ、盟主にこの場に衛生士を連れてくるように言ったわけだ。
さて、これで俺の休暇も終わりか。セイジの前で直立している二人に向かって頭を下げた。
「俺はセイジ王子の側近のスバルです」
「今更だし、敬語は無しにしないかな。僕はセイヤ。チップの伝達回路担当だよ」
「俺はユウタ。薬物担当だ」
盟主はセイヤで、付き人はユウタか。偽名と一文字違いなのがなんとも言えない。
ユウタはじっと俺を見たあと、「あっ!」を声を上げた。
「アンタが『平均』か。数値の唯一の例外の」
「そうだよ。僕がそう決めた」
セイジは足を組み、膝の上で両手を組んだ。
そうだ。セイジが俺の数値を決めた。正しく計測されず、ずっと平均を示す。だから、俺の本当の数値は誰にもわからない。
何故そんなことをしたのか。
「チップが絶対的なものじゃない証拠にね。チップが完全であったり完璧であると思わないために。だから、今の革命同盟は正しいと思うよ」
「ただ、チップを否定する思想に腹が立っただけなんですけどね」
腹が立ったから前盟主を追い出して自分が新盟主になるなんて行動力が凄い。
自分がチップの創設に関わっていたから、責任でも感じたのか。それとも、チップをより良くするためのきっかけを作りたかったか。
セイヤは深く頭を下げた。
「配慮が足りず、事件を起こしてしまい申し訳ございません」
「あの時は衛生士を煽るために君を責めたけど、君はしっかり仕事をしたよ。抗議前に乾杯するなんて予定外だったんだろう?」
「はい。抗議後に食事会を行う予定でした。毒物はその時に混入されるのではないかと警戒していたんです」
「じゃあ、君のせいじゃない。君が盟主であることだけで大分制御できているよ」
セイジは右側の肘掛に肘を置き、頬杖を付いた。表情は優しかった。
盟主一人の責任にはしなかった。誰もが事件が起こらないように動いていたんだ。それを防ぎきれなかったからといって、一人に責任を押し付けたりしない。毒物を無効化させただけでも成果はあった。
今だからわかる。盟主が動くには遅かったけど、それは盟主だけの責任なんかじゃない。
「そういえば、二人はセイジが王子だっていつ気付いたんだ?」
「言われるまで気付かなかったよ。遠くからしか見たことないのに、長い黒髪だったからね」
「アンタの方は植物園で話したときに、王宮勤めだとわかったけどな」
俺の方は勘付かれていたか。まあ、俺は変装はしていないから、王宮で見かけたというのが確信に変わっただけだ。
セイジは、街に出るときは鬘を被る。少し赤が混じった茶色の短髪から長い黒髪になると、ほとんどの人には王子だとわからない。セイジは王族として表に出る時は、国民とは距離がある。近距離での写真などは無かった。そういうことは全部ユウト王子に任せている。
「王子が直接偵察に来ているなんて思いませんから」
「僕が提案した政策だからね。自分の目で確かめたかった」
ユウト王子は俺には休暇を楽しめと言っていたけど、革命同盟のことを調べているセイジと行動するんだから、完全に仕事だったわけだ。確かに植物園に行ったり休暇らしいこともしたけど、根底には革命同盟のことがあった。
セイジが動くなら、俺はそれに付き従う。セイジだけが俺を従わせることができる。
セイジが俺を見つけてくれたから。俺だけを側近だと言ってくれたから。
俺は『この国のため』ではなく『セイジのため』に行動する。
「セイヤ、ユウタ、これからもチップのことは任せた」
セイジの信頼に、二人は強く頷いた。




