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1 『王子』の政策

 この国は、管理されていた。


「『王子』の政策から六年、だね」

 王子は王座でなく、その前にある階段に座って足を組んでいた。

 王子の父である国王は健在だ。だから、王子は王座に座る資格はない。しかし、『王子』が現在の国の基盤を作った。国王ではなく、『王子』が作った。当時十三歳の『王子』が提案したものを国王が採用し、実施した。

 その政策が施行されて、六年が経つ。

 『王子』の政策は、国民の大多数の支持を得ていた。その政策とは、国民全員に情報統括機器、通称『チップ』を埋め込み、個人の能力を数値化し、その数値が高いほど待遇を良くするものだった。学力が高く運動能力が低い者と、学力が低く運動能力が高い者の評価は同じになる。だから、得意分野を伸ばせば数値は上がった。

 何が得意なのかは、様々な試験を受けることによって算出されるようになっていた。その適正は、自分が思っていたものとは違うことが多々あった。望むものと違っていても、得意分野は能力の伸びが速い。それは、人の優越感を満たすのに十分だった。

 そして、意思の疎通が困難な人は、チップにある補助機能を使うことによって意思の疎通が可能になった。チップで補えないような身体の一部が不自由な人は、外付けの補助機具で問題は解決できる。チップは、医療にも利用されていた。

 それに加え、犯罪に対する罰は、倍になって与えられることになった。百円の物を盗んだらニ百円を、暴行した場合は、時間、量を倍に。人を殺した場合は、瀕死から蘇生させられ、殺される。同じ方法で、同じ苦痛を二倍。方法が酷い場合、罰は残虐になる。そのため、犯罪は少なくなった。体の中のチップで行動記録が把握できるため、逃げることはできないし、冤罪もない。

 科学は、医療と管理だけに特化されていた。科学は国を滅ぼす。数十年前、科学によってある国家が滅びかけた。それを教訓に、多くの国家は科学を制限していた。この国ではチップで管理されているため、科学を制限以上に使用すると警察に通報される仕組みになっている。制限以上に使用するためには許可が必要だった。

 そんな管理された世界では、富はあっても貧しさはなかった。普通より下はない。

 それは、皆が望む世界だった。

「六年は長いと思いますか?」

「どうだろうね。管理された世界だけど、自由がある。慣れればこれが普通になるからね。国民は、これを幸せだと感じているんだ」

 そう、国民の多くは不満に思っていない。管理されている中では自由だった。悪いことをしても良い。ただ、必ず倍の罰を受ける。勉強をしなくても良い。ただし、違う能力を上げなければいけない。

 数値が一定の数より低い場合、警察に連行される。そう、国民に知らされていた。怠慢でも良い。数値が高ければ。頭が良くなくても良い。数値が高ければ。得意分野は算出されているのだから、一定の数値はクリアできるようになっている。

 それでも数値を下げる人間は、この政策に馴染まない。警察に連行された後のことは、知らされていない。

「お前はわかっているんだろう?」

 王子の問いかけに、初めて視線を合わせた。

 階段の下に立っているから、同じ高さで目が合う。王子は口元の端だけ上げて笑っていた。目が笑っていない。

「何をですか?」

「白々しいね。もう敬語は禁止だ。もう一度聞く。お前はわかっているね?」

 王子は組んだ足に肘を付き、手の甲に顎を乗せた。

 何でもお見通しだとでも言うように、ニヤニヤと笑っていた。

「これが正しいとは思わない」

「ハハッ。そうだ。その通りだよ。だからお前は面白い」

 何度か言われた台詞だった。何故か、俺はこの性格が気に入られていた。

 王宮で働くなんて思いもしなかった。見学で王宮に入ったこともないし、王宮関係者に会ったこともなかった。しかし、どこで目に止まったのか、王宮に呼ばれた。十一歳の子供が呼ばれるなんて、前例はなかった。

 この性格を気に入ったという理由で、王子の前で敬語は禁止にされている。友達というより、弟のような感覚だった。でも、それは他の人がいないときに限られていた。試験を受けずに王宮に入ったことで一部の人に敵視されている上、他にも特別扱いされていることがある。これ以上、敵を作るようなことはしたくなかった。

 しかし、王子の要望にも応えないわけにはいかない。それで納得させたのが、他に人がいないとき、という条件だ。

「その政策が今、どうなっているか。自分の目で確かめてきたらいい。一週間の休暇だ。楽しんでおいで」

 軽く手を振る王子に、素直に頭を下げた。一週間の休暇は久しぶりだった。最近は雑務が多く、休暇を貰ったのはニカ月前だった。

 休みが無いのに不満はない。必要とされていることが実感できるから、仕事があるのは嬉しかった。ここに来て七年経った今でも、ここにいてもいいのか迷うことがあった。

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