【短文ミステリー】誘拐現場の不自然な点(解決編)【難易度:★】
A
「・・・いったいなんでそう思うんだ!?」と驚く石頭。
「・・・よく考えてください。ところで、今何時ですか?」
「え!?えーと・・・午後2時ちょっと過ぎだな」
「はい。で、事件発生時刻は?」
「ああ、正午ちょうどだ」
「はい、それで、現場には我々以外誰も踏み込んでないんですよね?」
「それはまあ、確認した。被害者を連れ去る犯人が出て行った後は、誰も入ってない」
「はい。では、まとめてみましょう」
「え?まとめるのって・・・何をですか?」まだ困惑気味の上田。
「この事件の特徴をだよ・・・つまり、事件が発生してから二時間経っている、犯人が出て行ってから我々がココに来るまで誰も入っていない」
「まあ、そういうことになるな」
「では、石頭警部、そのカップを持ってください」
言い忘れてしまったが、石頭は警部である。ナゼこんな人が警部に・・・「軽侮」の間違いでは?
まあ、そんなことより・・・榊田が言うカップとは、長テーブルの上に置いてあった。
「あぁコレな・・・」と油断しきった感じでカップを持つ石頭。
しかし・・・
「あっつっっっ!!!熱い!!!何だコレ、熱々じゃないか!!!」
飛び上がり、喚く石頭。哀れにも熱々カップの餌食となった右手をブンブン振っている。
「ですよね?」と榊田。
「ですよねって・・・知ってたのかぁーーー!!!」
「何でこのカップが熱々だったのか、何でだと思います?」少しも悪びれる様子も無く尋ねる榊田。
「何でって・・・入っているコーヒーが熱々だったからだろ・・・」その様子に殺気を覚えながらも、辛うじて平然を作ろう石頭(すでに手遅れなことに気がついてないようだ)
「はい。この中に入ってるコーヒー、熱々なんですよ。変だと思いませんか?」
「へ、変・・・?」怪訝な表情になる石頭。何も分かってない様だ。
「あ、あぁ!!」一方の上田は気がついたようである。
「よく考えてください・・・この部屋には『事件発生から二時間は誰も入っていない』んですよね?」
「・・・おお、そうか!!!」
「ようやく分かりましたね・・・そうです、このコーヒーは普通に考えたら二時間前に淹れられたハズなんです。でも、二時間前にカップに淹れられたコーヒーなんて『とうの昔に冷める』ハズですよね?でも、これは冷めていない・・・どういうことか?つまりこれは『ごく最近に入れられたコーヒー』なんです」
「ごく最近?どういうことだ?」
「それが分からないんです。でも、この状況は明らかに『おかしい』。このことが分かるまで捜査本部の設置は待ったほうがいいかと」
怪訝そうな顔をした石頭。やがて、非常に困っていることを隠しながら(ちっとも隠しきれてないことに気付いてないのか)こう言った。
「うん・・・そうだな・・・そうしよう・・・よし、そうしよう!本部設置は延期!被害者の身元を徹底的に洗えぇぇぇ!!!」
唯一榊田に勝っている権力を行使して、こう叫んだ石頭。呆れを通り越して哀れである。
被害者と犯人数名は、階下の部屋で見つかった。
いや・・・被害者を「装った」人、と言うべきか。
つまり、被害者は「共犯者」だったのである。
犯人が被害者役を誘拐したように「装った」あと、宅急便のフリをした犯人が、段ボールに被害者役を入れ、すぐ下の階にあった犯人の一人の部屋に連れ込んだ。
しかし、しばらくしたあと、被害者役が部屋を荒らすのを忘れたことに気付いたのだった。
被害者役はベランダ沿いに部屋を移動した。つまり、ベランダを登ってきたということだが・・・
被害者役は、自室を荒らした後、ウッカリくつろいでしまった。そう、コーヒーを淹れて・・・
そのとき、窓から警察が建物に入っていくのが見えた。
慌てた被害者役は、再びベランダ沿いに移動して、先ほどいた部屋に戻ってきた。
しかし、ここもまたウッカリ「コーヒーをカップに淹れたまま」にしてしまったのであった。
やはり、動機は金、であった。
それにしても、なぜ犯罪を犯してまで金を欲するのだろう?
何年か刑事をしてきた榊田は、今も尚彼らの思考が理解できないでいる。
【要約】
事件発生から2時間経過してるのにも関わらず、コーヒーがまだ温かいことが不自然だった。
とりあえず、1話目は解決。シリーズはまだまだ続きます。