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髪様論

作者: 流奈

注意書き

この小説には、特定の髪型をした方、および特定宗教とその信者に対する侮辱ととられかねない表現がありますが、侮辱の意図はまったくありません。

あくまでも冗談であることを忘れず、また「なにがあっても許せるよ」という寛大な心を持つ方だけお読みください。

なお、一部の固有名詞を不適切に表記していますが、検索避けのためです。

 なにかに追い立てられ、せわしなく動き回る人間がちょっとばかりおかしいことをしたら、誰だって思うだろう。ああ、このひとはそんなに疲れてるんだな、と。そして小さじ一杯分くらいの良心があれば、ちょっと休んだ方がいいよ、とかすすめたりもするだろう。

 だが、


「聞いてよ、あっちゃん、おもしろいことを思いついたの!」


 いつでもどこでもおかしいことしかやらない言わない人間には、どうすればいいのか。

 誰か、頼むから教えてくれ…。




 季節は冬。暦上ではとっくに春だが、くもった窓ガラス越しに見える外ではちらほらと雪が降っている。ついでに言えば、俺の心の中ではブリザードが吹き荒れている。

 だが、そんなことは俺の目の前できらきらと目を輝かせている女にはどうでもいいことだ。新しいオモチャを手に入れたガキのような顔。いやな予感しかしない。無駄な努力と知ってはいるが、いままで何度も言ってきたことを言う。


「あっちゃんはおまえの小学校時代の友人だろうが」

「そうだっけ?」


 この女はなぜか俺の名前を正しく呼ばない。いつも他の誰かと取り違える。つーかわざとだろ、絶対。十何年も一緒にいて名前を憶えてねぇとかありえないだろ。しかも、間違える名前の選択に作為を感じる。わざとやってるとしか思えない。


「って、そんなことはどうでもいいの! おもしろいことを思いついたんだよ、りんちゃん!」

「りんちゃんはおまえの中学時代の後輩だろうが!」


 思わず大声を上げて、はっと周囲を見回す。何事か、と言いたげな目で全員がこっちを見ていた。咳払いをして、何事もなかったように表情を取り繕う。

 死ぬ思いで試験期間を乗り切った今日、ひさびさにゲームでもやるかぁとか、のんきなことを考えていた数分前の自分が恨めしい。あのときの自分に忠告できるならしてやりたい。どこでもいいから校内で時間をつぶせ、と。そうしたら校門前でこいつに会ってファストフード店に引きずり込まれることもなかったのに。


「新しい宗教を考えてみたの!」


 意識が一瞬遠くなった。電波とか妄想が激しいとか、わかっちゃいたけど、まさかそんなことを言い出す日がくるとは思っていなかった。

 ああ、こいつはまたバカなことを始めやがった…面倒なことになる前にこの場から逃走してもいいだろうか。


「善神アフロ松田と悪神ハーゲマンが毛根の存亡をかけて戦うという教義で、名前はハゲマスター教っていうの。聖典マゲスターはただいま絶賛編纂中! すごいでしょ!」

「どこがだ!? つーか待て、突っ込みどころが多すぎてなにから言えばいいのか…とにかく、んなアホな宗教に需要なんかあるか!」

「どうして!? 世の中にはね、薄毛に悩むひとがたくさんいるんだよ! サエもきっと年をとったらわかるようになるよ、きっと…」

「だまれ勝手にひとの未来をねつ造するなしかも俺の名前はサエじゃねぇ!」


 少し落ち着いた。何事もなかったようにコーラをすする。やつは目の前でのんきにほわほわ笑いながらオレンジジュースを飲んでいた。

 耐えろ、俺。気にするな、俺。誰も俺たちのことなんて見てない。視線を感じるのはただの気のせいだ。錯覚に決まってる。切実そうにうなずいてるハゲかかったオッサンがいるのも気のせいだ。ただの幻覚だ。そう何度も自分に言い聞かせて、俺は息を吸う。


「だいたい、名前でどっちが勝つかもろバレじゃねぇか! アフロかハゲかマゲかはっきりしろ! 神様同士が戦ったって髪は滅ぶときゃ滅ぶんだよ! いさぎよく剃っちまえ!」

「ひどいよカナ、そんなこと言うなんて。みんな涙ぐましい努力をしてるんだよ…そんなことを言ったらかわいそうだよ」

「俺の知ったことか。実らない努力なら潔く諦めろ。あと俺の名前はカナじゃねぇ」


 なぜ俺がこいつの妄想話に付き合わなきゃならんのだ。いつもいつも、こいつはなにかをやらかしては面倒事を起こす。思ったことを素直に言って不良を怒らせたときも、俺にとばっちりがきた。妄想話にひとを巻き込む度に、俺が頭を下げなきゃならない。思えば、こいつに振り回されてばっかだった。


「ゆーちゃんにはわからないんだよ、オジサンたちの嘆きが。だからそんなことを簡単に言えるんだよ。バカにしてるとしか思えないよ」

「ゆーちゃんは俺の従弟だっつの。だいたいバカにしてんのは俺じゃなくておまえだよ」

「上様も信じればいいんだよ。怒ってばっか、ため息ばっかで、いつか髪に悩むよ」

「上様はおまえの従妹の飼い猫だろうがなんで猫の名前が上様なんだよ怒ってばっかため息ばっかなのは全部おまえのせいだっつの今日の二限目にできた思いつきという名のインスタント宗教を誰が信じるか!」

「わぁ、きっくんってば肺活量すごいねー…って、どうして今日の二限目にできたって知ってるの!?」

「わからいでか! てか、きっくんってのは向かいの長谷川さんの飼い犬だろ!?」


 今日二限目にあった世界史の試験。何問目かは忘れたが、その問題は確かにあった。


『ゾ.ロ.ア.ス.タ.ー.教について論じなさい』


 答え。

 古.代.イ.ラ.ンで生まれた宗教。聖典ア.ベ.ス.タ.ーいわく、善神ア.フ.ラ・マ.ズ.ダと悪神ア.ー.リ.マ.ンが争い、やがて善神が勝利して最.後.の.審.判が訪れるという。祭壇の聖火を善神の象徴とするため、拝火教ともいう。

 どう考えてもパクりじゃねぇかなに考えてんだこの女。


「あの、お客さま…ほかのお客さまのご迷惑になりますので…」


 困り果てた店員の声にはっと我にかえり、謝りながら目の前の女の首根っこを引っ掴んでその場から逃げる。まだジュースが、なんてぼやくバカを引きずりながら心の中で叫ぶ。



 ああ、もう、こいつといると苦労が絶えねぇ!



ここまで読んでくれてありがとうございました。また、不快な思いをした方がいたら、申し訳ありません。

前書で書いたとおり、侮辱の意図はありませんので、ご容赦くださると幸いです。


ギャグってテンポがむずかしくてうまく書けません。向いてないんですかね。

ジャンルは一応コメディにしたんですが、そんな雰囲気ではないのは作者の筆力不足です。もっと精進しなければ…。


ちなみに、二人の名前は出ていませんが、視点人物である「俺」の名前はふりがなだけ本文から読み取ることができます。

お暇な方で、なおかつ興味のある方は考えてみてください。そこまでむずかしくはない…と思います。

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