小さな贅沢
今日の昼メシは、普段より少し豪勢にしてみようかな?
妻には内緒だけど、昨日の帰りのパチンコで、かなり儲けをだしたから、いつもの寂しいコンビニ弁当からは、おさらばだ。
「いらっしゃいませ〜!」
駅前の定食屋に入る。
メニューを手にして、写真もないページをめくる。
『そうだなぁ。焼き魚定食にしようかな?』
しばらく文字ばかりのメニューを眺めていたが、会社の休憩時間も無限にある訳ではないので、メニューを閉じて店員を呼ぶ。
「焼き魚定食一つ」
「はい。焼き魚定食一人前ですね? ご注文は、以上でよろしいでしょうか?」
これ以上何を食べろというんだ。と思いつつも、無言で頷いた。
定食が運ばれてくるまで、店内に置いてあった雑誌を、特に読む訳ではないがめくり続けた。
「お待たせしました。焼き魚定食になります」
店員が、明るい声で俺の目の前に、これだけしっかりした魚で、こんな値段で儲けがあるのか。というくらい立派な定食を運んできた。
店員がテーブルを離れると、俺は両手を合わせてから食べ始めた。
塩焼きの魚は、味もしっかりしていて、コンビニ弁当等とは比較出来ない程美味い。
米もホクホクで、熱いけれども、魚の塩加減で米を止める事が出来ない。
せっかく添えてある漬物を、一口食べてみると、これはこれで、あっさりしていて食べ易い。特に米と合わせなくても、漬物だけで食べれるというのは、美味い証拠なのだろう。
普段の習慣で、味噌汁を最後に食べる。
ほんのり優しい味噌の香りが、口の中でホワッと広がって消える。具材と味噌が絡み合い、俺の口の中で、ウエディングロードを歩いているかのような錯覚に陥った。
「すいません! お勘定!」
そう叫んで席を立つと、料理を作っていたと思われる店主らしき男が、レジカウンターに出てきた。
俺は、財布から560円を取り出すと、気持ちも添えて男に金を払って店を出た。
いつもと変わらない、駅前の街の景色が、少し違って見えたような気がした。
『たまには、こういうのもいいな』
昼メシ後に、会社へ向かうなんて、何年ぶりだろう……。
ありがとうございました。