受験といふ戦争
■■■■■■■■■■■■■■■■出陣前夜■■■■■■■■■■■■■■■■
戦士たる者、武具の手入れは入念に行わねばならない。
消しゴムは先の大戦で大分消耗しているが、『まだいける。俺にやらせてくれっ』と心の声で俺に語りかけている。
幾多の戦場をくぐり抜けてきた、歴戦の猛者達は、戦意をみなぎらせて俺に語りかけてくる。
その一つ一つを確かめるようにしながら、俺は彼らをなでる。
さあ、明日は戦いだ。今日はもう寝て英気を養おう。
俺は自分にそう言い聞かせると、布団に入った。
■■■■■■■■■■■■■■■■いざ出陣■■■■■■■■■■■■■■■■
「いざ、鎌倉」
時の声をあげて、俺は家を出る。
――――俺が遅れては戦いに負ける――――
はやる気持ちを何とか抑えて、あらかじめ調べておいた戦場への地図をとりだす。
余裕を持って出陣したため、戦場には必要以上に早く着いてしまった。しかし、敵はまだ現れない。むう、かの宮本武蔵のまねごとかっ!?
■■■■■■■■■■■■■■■■一時限目■■■■■■■■■■■■■■■■
布陣を整えた俺は、敵の大群を見て一瞬ひるむ。
そんな自分を叱咤して、俺は愛用の武器をきつく握る。
裏返された問題冊子。しかし武士たるもの、敵の背後を突いて攻撃などという卑怯な真似はしない。
じわり。
高まる緊張感。
「キーンコーンカーンコーン♪」
開始の合図が鳴り、俺は早速名乗りをあげる。
後は敵との一騎打ち。敵は国語。相手にとって不足はない。
ひとまず漢字の攻撃を完璧に捌く。この辺はお互い小手調べだ。
そして評論。
敵は妖術使いのようだ。巧みに幻術を操り、こちらを惑わしてくる。
その中の真実の太刀筋を見極めるべく、俺は意識を集中する。
一通り妖術による技は出しつくしたのか、敵は打ち合いに打って出た。
敵の心を読む。紙面上のあらゆる情報を己のものとし、俺は敵の考えを読んでゆく。この攻撃が暗示しているものは……?
苦戦したが、何とかやり過ごすと、次は鍔迫り合いに勝負をかけてきた。
ここまで来たら後は力押し。力の差がものをいう。
「キーンコーンカーンコーン♪」
ようやく国語との勝負が終わった。次は数学か。
■■■■■■■■■■■■■■■■二時限目■■■■■■■■■■■■■■■■
今度の相手は厄介だ。
敵は複雑な幾何模様を描き、様々な術を放ってくる。
俺は様々な角度に回り込み、ありとあらゆる攻撃を仕掛ける。
時々敵の鉄壁の防御を抜け、俺の攻撃が敵に届く。
戦いは持久戦と相成り、俺はかなりの消耗を強いられた。
――――最後の行列は特に手ごわかったな――――
■■■■■■■■■■■■■■■■三時限目■■■■■■■■■■■■■■■■
今度の相手は英語。
開始早々敵は呪文の詠唱に入った。
かわいらしい絵に隠された落とし穴を巧みに避け、落ち着いて対処してゆく。
途中周りの騎士による妨害などがあり、思わぬピンチに陥ったが、勘を頼りにやり過ごす。
その後は接近戦に持ち込み、辛くも勝利?俺の最大の敵はここに散った。
■■■■■■■■■■■■■■■■四時限目■■■■■■■■■■■■■■■■
最後は理科。
俺は苦手な地学と生物を避け、得意の物理と化学に誘導した。
無数のフェイントを難なく読み、避け、少しずつ敵を切り崩してゆく。
初撃で敵に押されると、その後はこちらが総崩れになる恐れがあるので、片時も油断できない。
極限まで集中した俺の脳は、周りの戦士を意識の外へと追い出し、目の前の敵に集中する。
途中電磁気学には悩まされたが、俺の相棒は非金属。電気は通さない。
最後は相棒の勘に頼って、俺は全ての敵を片づけた。
■■■■■■■■■■■■■■■■凱旋■■■■■■■■■■■■■■■■
全ての戦いが終わり、ほっと息をついた俺は、相棒を鞘に収め、戦場を後にした。
家に帰れば、俸給がもらえるだろう。
こうして、俺の受験という名の戦争は終わった。
戦争反対っ!!!!