タフカノベコと出会って4ケ月・・・
ベコと出会って四か月が経った。
五月二十日。
井樋調教師さんから紹介を受け庭先で初めて彼女とつながりを持った。
あの日から何かの歯車が動き始めた。
それまでの日々は昼も夜も仕事に追い回され、今もなお痛む身体を抱えながらそれでも仕事をこなしていく毎日だった。
そんな生活の中にベコという一頭の馬が現れた。
それはほんの一筋の光だった。
たった四か月。
言葉にすればそれだけの時間だ。
けれどこの四か月の間にあまりにも多くの出来事が起きた。
目まぐるしく状況が変わり、出会う人が変わり、そして何より自分自身の競馬を見る目が変わった。
ベコと出会ったことで私は『ターフのカノジョ』という物語のその先にある本当のストーリーを知ることになった。
彼女が何を目指しているのか。
なぜ、この世界で走ろうとしているのか。
そして、その背景にある競馬界の現実。
それまで自分が知らなかった世界を少しずつ知るようになった。
彼女は出会ってすぐ怪我をした。
あれが偶然だったのか。
それとも仕組まれていたのか。
そんなことは私には分からない。
ただ一つだけ思うことがある。
もしあの時ベコが元気なまま能力試験を合格し予定通り競馬場でレースを走っていたら―。
今の私はきっと存在していない。
私はただ勝った、負けた。
何着だった。
いくら儲かった。
そんな数字だけを追いかけるごく普通の馬主だったかもしれない。
『ターフのカノジョ』もまた初版で描いたとおりの学園競馬とスキルを軸にした物語としてそのまま終わっていたのかもしれない。
けれど現実はそうならなかった。
ベコはまだ競馬場を走っていない。
けれど―
彼女はもう走り始めている。
私はそう思っている。
競馬場を走ることだけが「走る」ということではない。
彼女と出会ったことで私自身の世界が動き始めた。
競馬について考えるようになった。
馬について考えるようになった。
そして、それまで出会うはずもなかった競馬関係者の方々とも少しずつつながりを持てるようになった。
競馬というものを単純な勝ち負けやお金や数字だけではなく、その裏側まで含めて見るようになった。
たった一頭の馬との出会いがここまで自分の人生を動かすとは思っていなかった。
だから私はこれはただの偶然ではなかったのだと思っている。
福井の芝の上にいる彼女が私の人生を動かし始めた。
それは競馬場で走ること以上に大きな出来事だったのかもしれない。
もちろん、いつか彼女がターフを走る姿を見たい。
ゲートが開き、芝を蹴り、他の馬たちと一緒にゴールを目指す姿を。
それは今も変わらない。
けれどこの四ケ月で分かったことがある。
馬には人間が勝手に決めた「価値」だけでは測れないものがある。
勝ち負け。
賞金。
血統。
市場価格。
そんな数字だけでは決して測ることのできないものがある。
ベコはそれを私に教えてくれた。
そして来生の競馬界を少しでも変えるための何かをしてほしいと・・・
それこそが【タフカノベコプロジェクト】
これまで自分が見ていた世界が実はとても小さなものだったことにも気づかせてくれた。
世の中には勝ったか負けたか、儲かったか損したかという物差しだけでしか物事を見れない人もいる。
もちろんそれも競馬の一部だ。
私自身もかつてはそうだった。
けれどベコと出会ってからその物差しだけでは見えないものがあることを知った。
一頭の馬が生まれて、育ち、人と出会い、走ろうとする。
その一つ一つの過程にたくさんの人間の想いがあり時間があり、人生がある。
そのことに気づかせてくれた。
だから私はこの出会いに感謝している。
ベコと出会ってまだ四か月。
たった四か月なのか。
もう四か月なのか。
それは分からない。
ただ確かなことはこの四か月で私の人生は少し変わったということだ。
そして彼女自身もまだ物語の途中にいる。
まだ走れていない。
だからこそこれから何が起こるのか分からない。
福井の芝の上にいる一頭の彼女がこれからどこまで私たちを連れていってくれるのか。
その答えはまだ誰にも分からない。
だから私はもう少しこの物語を見ていたい。
ベコが教えてくれたもの。
ベコがつないでくれた人たち。
そして、ベコが動かし始めた私自身の人生。
その先に何があるのか。
それを確かめるためにも。
私は彼女と一緒にもう一度走り始めようと思う・・・




