表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レッドタイズ-新東京府公安委員会-  作者: ガリアンデル
Phase:1
5/8

首吊り兎⑤

 電脳回廊を抜け、二人は巨大な吹き抜け空間へと躍り出た。



 そこは、まるで時計の内部のようだった。



 無数の巨大な歯車が噛み合い、轟音を立てて回転している。その隙間を、足場となる螺旋階段が縫うように伸びていた。



 最上は階段を駆け上がりながら、眼下に広がる光景を冷静に見下ろした。



 視界のあちこちで、青白い光が瞬いている。

 錆びついた歯車の上に置かれた『家族写真』。

 空中に漂う『未開封の手紙』。

 階段の手すりに結ばれた『合格祈願のお守り』。

 それら全てが、迷宮の表層にあったものよりも遥かに強く、純度の高い輝きを放っていた。



 〈論理断片〉の山だ。



「……やはり、ここか」

 最上は、さも当然といった風情で呟いた。驚きはない。



 道中あれだけ枯渇していた弾丸が、ここには掃いて捨てるほど転がっている。彼の経験則通りの配置だ。



「よく知ってるね、梁人」

 アリスがふわりと空を滑り、光る『お守り』を拾い上げながら感心したように言う。



「外側は怪物の皮で分厚いけど、中身はまだ柔らかい人間なの。ここは、あの『犯人』が一番大事にしてた思い出の墓場だから」



「皮肉な話だ」

 最上は冷たく言い捨てた。



 怪物が強大であればあるほど、その中心には、悲痛なほど人間らしい未練が凝縮されている。

 自分を殺すための弾丸は、怪物になろうとした人間自身の心の中にこそ、無数に落ちているのだ。



「拾え、アリス! 全部だ!」



「はいはい。欲張りだなぁ」

 アリスが宙を舞う。

 彼女はまるで花摘みでもするように、次々と光る遺留品に触れていく。



 『写真』が弾け、『手紙』が砕け、次々とクリスタルのカートリッジが生成され、梁人の方へと放り投げられる。  



 梁人はそれらを走りながら空中で掴み取り、手品のような手際でシリンダーへ装填していく。  



 三発目、装填。

 四発目。

 五発目。

 カチリ、と重い金属音が掌に響く。

 六発目。



 シリンダーは満たされた。全弾装填。



「……足りた」



 最上は『ヴォーパル・カリキュラス』の銃身を撫でた。



 青白い幾何学模様の光が、最大光量へと輝きを増す。



 これで〈積分砲撃(インテグラル)〉が撃てる。



 怪物となった哀れな精神犯罪者を、塵一つ残さずこの世から『証明終了』させるための準備が整った。



 掲示板のカウントダウンが目に焼き付く。



 『残り 60』



 あと一分。



 最上たちは螺旋階段を登りきり、頂上にある巨大な扉の前に立った。



 扉には、巨大な時計の文字盤が描かれ、針は「12時」を指して止まっている。



 扉の隙間から、強烈な腐臭と、耳をつんざくような〝秒針の音〟が漏れ出していた。



 中にいる。



 この狂った世界の王であり、囚人である〈支流(ルート)〉が。



「開けるよ、梁人」

 アリスが扉に手をかける。



「準備はいい?」



「……愚問だ」

 最上は銃を構え、深く息を吐き出した。



 精神の摩耗を示すノイズが視界の端で踊っているが、今の彼は、冷徹な処刑人の目に戻っていた。



「開けろ」



 アリスが扉を押し開く。



 溢れ出したのは、光ではなく、圧倒的な闇と、絶叫のような鐘の音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ