表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/36

第31話 神の階層



 荒れた大地を抜け、三人は空へと続く階段を見上げた。

 それは岩と光でできた無限の階段――“神の階層”。

 霧が渦巻き、足元は見えず、まるで空を歩くようだった。


「……これ、本当に道なの?」

 ルゥが小さく震えながら言う。

 足元は透明で、見下ろせば深淵が広がっている。


「そうだ。ここを登れば、神々の領域に到達できる」

 セリウムの声は低く、少し影を含んでいた。

 だが、その瞳の奥には過去の痛みが宿っている。


「……セリウム?」

 アインが問いかける。

 彼女は一瞬だけ目を伏せた。


「私は――かつて神に仕えた者だった」

 その言葉に、アインとルゥは同時に息を呑む。


「え……?」

「神の階層は、私の過去そのものだ。

 私はかつて、“堕天使”と呼ばれた。

 神に背き、罪を犯した――それが今、この階層を守る理由でもある」


 ルゥが目を見開く。

「セリウム……そんな……」


 セリウムは静かに続ける。

「私は神の命令で、人間族を監視していた。

 進化を求める者を封じるために。

 だが、ある日――自分が守るべき人々を裏切り、犠牲にしてしまった」


 アインは黙って彼女の手を握った。

「……でも、今は俺たちと一緒に戦ってる」


 その瞬間、階段の霧が渦を巻き、光の柱が三人を包み込んだ。

 上から低く、響く声。


「……堕天使の末裔か。

 人間に情を抱き、神に背く者よ」


 その声と共に、階段の上から巨大な影が降りてきた。

 漆黒の翼、銀の瞳――翼を広げるたびに光が反射し、神々の威厳を放つ。


「……アスタル」

 セリウムの声が震える。

 かつて神に仕えた天使、その名は“アスタル”。

 彼女の過去の上司であり、神の裁定者でもある。


 アスタルが階段の段差を軽く踏み、ゆっくりと降りてくる。

「汝らの挑戦を止めに来た」


 アインは拳を握る。

「俺たちは進む。神に止められても、進化を諦めない」


 その言葉に、アスタルは軽く笑った。

「進化を望む者は、必ず破滅する。

 汝が望むのは、人間の思う“自由”だろう?

 だが神の秩序の前では、無力にすぎぬ」


 霧が渦巻き、階段が崩れかける。

 光と影が交錯する中、アインは紋様を見下ろした。

 胸の黒い光と白い光が揺れ動き、裏の自分が囁く。


 《ここで力を使えば、全て終わるぞ。

  神を蹴散らせば、すぐに進化できる》


 だがアインは首を振った。

「……それは違う。

 力だけで進化したら、俺は誰も守れない」


 ルゥが勇気を振り絞って叫ぶ。

「アイン! 私たちがいる!

 力だけじゃなくて、信じる気持ちがあれば大丈夫!」


 その声に、アインの胸の紋様が光を増す。

 黒と白の光が混ざり合い、漆黒の霧を切り裂いた。


 アスタルが翼を広げ、雷のような力を振るう。

 だがアインは迷わず光を放つ。

 紋様の力とルゥの祈りが重なり、巨大な光の盾となった。


 衝撃で階段の霧が吹き飛び、周囲の景色がはっきりと見えた。

 天空には七つの光点――七つの封印のうちの三つ目が、淡く輝き始める。


 アスタルは力を収め、静かに頷いた。

「……悪くない。

 堕天使の末裔よ、汝の信念は認める」


 セリウムが驚いてアインを見た。

「……本当に?」


 アスタルは微笑んだ。

「だが、試練は続く。

 神の階層の頂には、さらに強大な存在が待つ」


 霧が再び立ち込め、階段は無限に続くように見えた。

 アインはルゥとセリウムの手を取り、深呼吸する。


「行こう……まだ終わらない」


 三人の影が階段を上る。

 風が吹き抜け、光が差し込み、神々の世界への道を示している。


 黒い紋様の奥で、裏のアインが小さく笑った。

 《やっと、面白くなってきたな……》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ