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第19話 森の民との出会い



 深い森に差し込む日差しは、葉の隙間から点々と地面を照らす。

 湿った土の香り、草木のざわめき、鳥の鳴き声――すべてが、草原や山脈とは異なる豊かな世界を描き出していた。


「……ここは、森か」

 アインが歩きながら呟く。

 黒い紋様は静かに光を抑え、体の制御を確認する。

 聖環を出て以降、力を使うたびに暴走の危険があるため、慎重に歩を進めていた。


 ルゥは身を低くして草の間を進む。

「何かいる……気配がする」

 彼女の直感が、森の奥深くに隠れる存在を感知していた。


 視線を上げると、木々の間から人影が見えた。

 背丈は低く、身体は細身だが、光沢のある緑色の肌をしている。

 長い耳が上を向き、目は大きく、夜の光でも視認できるように黒く光っている。


「森の民……だろうか?」アインが小声でつぶやく。


 森の民たちは、三人をじっと観察している。

 その数は十を超え、武器を手にした者もいる。

 しかし攻撃の姿勢はなく、警戒心と好奇心が入り混じった不思議な空気を放っていた。


 一体の森の民が前に出る。

 長い緑色のローブをまとい、手には木製の杖を握る。

 静かな声で話しかけた。

「よくぞ森に足を踏み入れた、人間よ。君たちは、ここに何の目的で来た?」


 アインは剣を軽く握り直し、落ち着いた声で答える。

「私たちは旅人です。世界の秩序を知り、学ぶために来ました。

 敵意はありません」


 森の民は一瞬沈黙した後、杖を地面に軽くつく。

「……敵意がないと見えるか。だが、森には危険が多い。

 知らぬ者が入れば、自然の秩序が乱れる」


 ルゥが前に出る。

「私たちは森を壊すつもりはありません。

 守りたい命があるから、ここにいるんです」


 その言葉に、森の民の瞳がわずかに緩んだ。

 微かに頷く者もいる。

 しかし、完全に安心したわけではない。


 セリウムがゆっくりと前に出た。

「私たちは、かつて神々と戦った者です。

 世界を理解し、秩序を守ろうとしている。

 森を傷つける意図はない」


 森の民は再び沈黙し、しばらくの間、風と葉の音だけが響く。

 やがて、杖を持つ者が一歩踏み出し、空を指差した。

「ならば、試練を受けるがよい。森の民に認められなければ、この地を通すことはできぬ」


 アインは剣を握り直す。

「試練……ですか」


 森の民は視線を三人に送る。

 杖を掲げると、光の粒子が森全体に広がり、空間の温度と空気の流れが変わった。

 光は風に乗って三人を包み込み、意識に微かな圧をかける。


 試練は、戦闘ではなく、自然と調和できるかどうかを問うものだった。

 森の民の心の声が、直接意識に届く。

 それは感情や思考を見抜く力で、嘘や偽りは通用しない。


「恐れるな……力を使うのではない、心を通わせるのだ」

 アインは剣を下ろし、深呼吸した。

 ルゥも静かに自然の気配を受け入れる。

 セリウムは自分の感覚を研ぎ澄まし、神としての本能を抑えながら、人間としての感覚で森を感じる。


 光の中、三人は森と対話する。

 風の方向、葉の揺れ、動物たちの微かな気配――

 それを読み取り、意図を理解する。


 やがて、光が収まり、森の民たちは静かに頷いた。

「……認める。君たちの心は、森と共にある」


 アインは安堵の息をつき、ルゥも微笑む。

 セリウムは静かに首を振り、だが瞳は穏やかだった。


 そのとき、森の奥から別の影が現れる。

 今まで見えなかった大型の獣のような存在。

 背中に葉や枝のような装飾を纏い、目が二人の光を反射する。


「……新たな仲間か、敵か」

 アインが小声で呟く。

 ルゥが耳を立て、直感を研ぎ澄ます。

 セリウムは静かに構えを取り、三人の心を一つにして森の奥を見据えた。


 森の民たちは微笑みながら、新たな影を歓迎するかのように手を広げた。

 三人は深呼吸し、再び歩みを進める。

 未知なる仲間との出会い、そして新たな試練――

 森の中での旅は、これから本格的に始まろうとしていた。


 光と影の中、三人の影が森の床に長く伸びる。

 風が葉を揺らし、木漏れ日が三人の背中を優しく照らす。

 聖環の試練を越えた三人は、次なる旅路に胸を躍らせながら、未知の森へ足を踏み入れた。

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