文化祭3:海棠美百合
・お化け屋敷にて
美百合「……ねぇ!!痛いわよ!!」
さっきから夕子は私の腕をぎゅうっと掴んで離さない。
暗闇の中でその力の強さに思わず文句を言ったけど、
夕子「手離したらブツからね!!」
って、冗談とも本気ともつかない声で返してくる。
舞「……夕子ちゃん〜私に抱きつきなよ〜」
夕子は真ん中に陣取って私と楠の腕を交互に引っ張る
から歩きづらいったらありゃしない。
黒い布で覆われた通路は三人横並びでやっと歩ける
くらいの狭さで足元もよく見えなかった。
それにしても櫟先輩って本当に女女してるわよね……。
男女と自分が上手くいってないからって、ああもわかりやすく夕子を目の敵にする?
そんなことを考えていると、突然頭上から不気味な声が響いた。
《ようこそ、恐怖の館へ……》
夕子「キャーーーーー!?!?!?」
夕子の金切り声が耳元で爆発して、びっくりして反射的に頬をぶってしまった。
美百合「バカ!!あんたの声でビックリするわよ!!!」
夕子「痛いわね!?何するのよ!!」
美百合「痛っ!?何で夕子じゃなくて楠木にぶたれないといけな__」
言い返そうとしたら何故か楠に頬をぶたれて言葉が詰まる。
《……よろしいでしょうか?》
騒いでいるとアナウンスの声が明らかに困ったような
トーンで反響した。
すみませんね、台無しにして。
渋々説明を聞いていると、突然目の前の壁から真っ白で血のついた腕が飛び出してきて、
夕子「いやーーーーーー!?!?!?!?」
美百合「まだ歩いてもないのにうるさいわね!!!」
夕子がまた絶叫するから思わず怒鳴り返した。
入口で懐中電灯を渡されて順路通りに歩けって指示されたけど、とにかくこのうるさい夕子を引きずって前に進むしかない。
こんなに騒がれたらお化け屋敷の怖さなんて半減どころかゼロじゃない?
醍醐味を丸潰しにされた気がするけど、半泣きで私の
腕を必死に掴んでる夕子はなんだか可愛くて悪い気はしない。
……いや、何でよ。
舞「夕子ちゃん〜手繋いで〜?」
夕子「うんっ!!まいも怖いのね!!私がいるから
だいじょびゃーーーーー!!!!!」
美百合「ちょ、カッコつけるんだかつけないんだか
どっちかに___」
夕子「ま、前!!前!!」
尻もちをついた夕子に気を取られて前なんか見ていなかった。
必死に指さして何かを訴える夕子にため息をつきながら前を向けば、
美百合「うわぁぁぁっ!?」
超至近距離に真っ白い顔が浮かび上がっていた。
血まみれのメイクにボロボロの制服、裸足で包帯を
巻き付けていて……。
心臓が止まりそうになって、後ろに飛び退き冷静に
その顔をよく見て見る。
志保「あら、夕子ちゃん?来てくれたの?」
にっこり微笑むその顔に、こめかみに青筋が立つのを感じた。
デカ女……つまりこのお化けは梓志保だ。
夕子「し、し、し、志保様〜♡♡」
志保「びっくりした?」
夕子「びっくりしましたよ!!夕子腰が抜けちゃって〜……」
舞「夕子ちゃん大丈夫〜?ほら手貸して〜?」
わかるわよ楠木。
あのバカ、わざとお姉さん座りして指でのの字書き
やがって、男女に手を貸してもらおうって魂胆が丸見えじゃないの。
……それに客がいないからこんなとこで余裕の立ち話が
できるのよ。
イライラが募って早く行くわよと夕子の手を無理やり
引っ張ったら、逆に男女にパシッと手を掴まれた。
志保「夕子ちゃん」
夕子「えっ、えぇ!?!?」
志保「私この後休憩なの。よかったら一緒に文化祭
周らない?」
ひょいと重たそうな夕子を軽々と抱き上げて歩き出す
男女にどうしようもなく殺意が湧いた。
私達もいるのに、何突然姫抱きなんかしてんのよ。
しかも男女の銅板みたいに平らな胸に顔を埋めてる
夕子にはもっと殺意が湧く。
舞「……死ねよ〜」
美百合「同感」
楠木のボヤきに即座に返答してしまった。




