体育祭6:海棠美百合
・Cブロックにて
愛知県体育館のアリーナを見下ろしながら、私は胸の内でイライラが止まらずに無言で夕子の作ってきたポップコーンを貪っていた。
美百合「…………」
舞「…………」
隣で舞も無言で、視線は同じ場所に注がれている。
舞「何だよあれ〜かっこつけやがって〜」
しばらくしてボソッと呟いた楠木に今日ばっかりは同感だわ。
なんなんだ、あの男女は……。
最初はやる気なさげにのんびり走ってた癖に、突然夕子を引っ張ってダッシュした挙句、途中でお姫様抱っこして本気で走り抜けるだなんて。
アリーナで体育委員の持つマイク越しに響く夕子の声がさらに苛立ちをかき立てる。
夕子「どうしてよ〜!!!!」
夕子のバカ声が体育館中にこだましているけど腹立たしいことこの上ない。
あのバカもなんでヒロインムーブかましてるのよ。
ドタバタ走ってりゃいいものを。
舞「やるなら最初から真剣にやれよな〜」
美百合「そうね、私ならあんなぬるい走りしないわ」
舞「3人4脚で転ぶお前なんか無理だよ〜」
美百合「はぁ?私ならあんな目立ちたがりみたいなことしないって言ってんの」
舞「お前と夕子ちゃんが走る世界線は一生こねぇよ〜」
……。
………………。
やっぱ楠木とは相性悪いわ。
ゆったり話してるくせに悪意がいつもの2倍増しで、
こっちまで余計にイライラしてきたわ。
姫奈「んー?ルコってばなにそんな興奮してんの?」
私と楠木の険悪なムードに構わずギャル先輩はいつもの宇宙語を話す薫子先輩に首を傾げている。
薫子「…………」
姫奈「この後3人のニャンニャンファイトが定番?
……どゆこと?」
宇宙語を解読し切れないギャル先輩が笑いながら今度は私たちの間に割って入ってきた。
姫奈「いやー夕子も足速いけどあの王子様展開、
ヤバいね」
舞「そうですかね〜あのデカ女先輩がただセクハラ
したかっただけに見えますけど〜」
美百合「王子様も何も、あんなん誰でも出来ますよ」
毒を吐く楠木と私の冷めた言葉にギャル先輩は一瞬黙り込んで、でも直ぐにニヤッと笑いながら私たちの頭を
ぐしゃぐしゃっと撫でた。
姫奈「ふふっ、2人とも夕子が大好きなんだね」
美百合「__はぁ!?違いますよ!!」
舞「違うってなんだよ〜違うならいつも一緒に
いんなよ〜」
美百合「あんたは一々何なのよ!!」
即座に否定した私の足を楠木にゲシと蹴られて負けじと肘で押し返す。
すかさずギャル先輩が舞の腕を引き、児ポ先輩が私の腕を掴んで仲裁に入るけど、児ポ先輩のジッと見つめてくるその目が何か変なこと考えてる気がしてさっと目を逸らした。
姫奈「ほらほら、もうお弁当食べる時間だから!!
何作ってきた?」
薫子「…………」
姫奈「あ、そっか。交換するから内緒にしてた方が
ワクワク感あるね」
いつの間にか決まってた体育祭のお弁当交換。
夕子の提案だけど、夕子が私の手作りを見たいって
うるさいから仕方なく作ってきてあげた。
私、将来はバリバリ働きに出たいタイプなんだよね。
家事なんかは夕子に全部任せときたいけど、最初から
あんまり厳しくしてもね?
だからたまには言うことも聞いてあげないとって……
……。
…………。
………………は?
何言ってんの私?
自分の思考に混乱していると舞が私にだけ聞こえるように呟いた。
舞「あ、櫟せんぱ……辛気臭ぇ〜……」
振り返ると、さすがにこれにも同感。
何でこの人って一々可哀想なヒロインムーブかますん
だろう。
これならまだ夕子の堂々たるヒロインムーブのが
断然マシね。
姫奈「一子おかえり、……あれ?飲み物買わんかったの?」
一子「えっ?あ、えっと、欲しいの売り切れてて……」
姫奈「マジ?そりゃ災難」
夕子「ただいま戻りましたー!!!」
曖昧な答えと鬱屈した悲劇のヒロインムーブをかます
櫟先輩の後ろから、夕子が大声を上げて走って戻ってきた。
夕子のバカは何故か男女とまだ手を繋いでいて、その
光景に櫟先輩が顔を伏せる。
まるで少女漫画の切ないワンシーンみたいではあるけど……。
なんか、稚拙な少女漫画読んでるみたい。
これから先の発展に期待するまでもない、なんて冷めたことを思いつつ、夕子のツインテールを思わず引っ張った。
夕子「いったぁぁい!!何すんのよっ!!ゆりの
バカアホナス!」
叫んでないでその手を離せばいいのに。
このツインテールも男女のためにいつもより可愛く
結んだのかと思うと余計にムカついてもう一度強く
引っ張った。




