体育祭5続:木下夕子
・借り物競争
志保様に手を握られ走り出した瞬間、周りから飛んで
くる声援や口笛につい手を振り返しちゃった。
夕子……これ完全にヒロインじゃない!?
志保様に手を引かれるこの姿はまるでこの前見た玉塚の宇宙組公演『愛と地の果てに』のワンシーンそのものよ!
全く同じシチュエーションで、心臓のドキドキが止まらない!!
志保「夕子ちゃんって意外と足速いのね」
志保様が走りながら振り返り、微笑みかけてくれる。
か、か、か、かっこいい〜♡♡♡♡
その声は玉塚歌劇団の男役スターが客席に投げかける
甘い囁きみたい。
志保様のシルバーの髪が風に揺れ、鋭くて優しい瞳が
私を捉えるともう、倒れそうなくらいクラクラしちゃう〜♡♡♡♡
夕子「意外と俊敏なんです!!志保様、狙うは1位ですよ!!!!」
志保「もう誰かゴールしてるんじゃない?」
私が叫びながら必死に走っていると、志保様が笑いながら微笑み手を繋いで階段を駆け下りる。
キャーッ♡♡♡
運動神経いい方でよかった!
今日ほどそう思った日はないわ!!
志保様の長い指が私の手をしっかり握ってくれて、まるで王子様にエスコートされてるみたい〜!!!
「志保ちゃん?」
ハイテンションで階段を降りきると突然、聞き覚えの
ある声が響いた。
肩越しに振り返ると階段下、アリーナの扉近くにいちい先輩が立ってる。
風に揺れる髪の隙間から、いちい先輩の姿が一瞬だけ
目に飛び込んできた。
一子「志保ちゃん___!!」
いちい先輩の声が、切なげに響くけど、
志保「夕子ちゃん走るよ」
志保様は前だけを見ているからか、いちい先輩に構わず私の手を強く引っ張った。
諦めずに何度も呼びかけるいちい先輩の声は聞こえて
いるはずなのに、志保様は一度も振り返らない。
いちい先輩の視線は志保様と私の繋いだ手に注がれてて、その瞳はどこか悲しげに揺れていた。
いちい先輩もやっぱり。
息を切らしながら走るけど、先輩の表情が心の中に
小さな棘のように刺さっている。
やっぱり……ううん。
絶対、志保様のことが___
夕子「あぇ!?」
気を取られて、私は足が縺れ一瞬よろめいた。
地面に叩きつけられる!
そう覚悟した瞬間、何故か身体がふわりと宙に浮いた。
志保「大丈夫?」
夕子「え、えぇ!?」
志保様の声が耳元のすぐ近くで響いたかと思うと、志保様の腕が私の腰をしっかり抱き上げてるのに気がつく。
こ、こ、こ、これは!?
夕子「お姫様抱っこ!?!?」
志保「うるさいよ」
大声で叫ぶ夕子に志保様はいつも通り辛辣。
でもその瞳はどこか楽しげて、私の身体は重力を忘れたみたいに志保様の胸に預けられた。
志保「1位がいいんでしょ?」
そう微笑む志保様はそのまま私を抱えながら信じられないスピードで前を走る人を3人も抜き去った。
風が綺麗な髪を揺らし、志保様の追い上げに歓声が遠くで響く。
一瞬、時間がゆっくり流れるのを感じた。
志保様の腕の中で、私はまるで舞台のクライマックスで王子様に守られるヒロインみたいにゴールラインを駆け抜ける。
歓声が沸き上がる中、私たちは本当に1位でゴールした。
夕子「志保様ぁ……!!♡♡」
私は感動で胸がいっぱいになり、どさくさに紛れて甘えるように強く抱きつこうと首に腕を回した瞬間、
志保「……ふう」
夕子「え!?ちょ、!?」
パッと手を離されて地面に落下。
べしゃりと地面に叩きつけられた私を見てに会場中が
笑っている。
夕子「いったぁぁい!!ひ、ひどい…!!ひどいです!!」
「さて!!お題は……!!」
志保様に文句を言おうとした瞬間、体育委員が志保様のお題をマイクで叫ぼうと構えていることに気がつく。
そうよ、さっきのワンシーンでメロメロだったし1位に
喜んでたけど肝心なのは……。
夕子「お題!! 何だったんですか!? あ、わかりました!!もしかして志保様の好きな人!!それか可愛いなって思う人!! 絶対そうよ!!」
勢いで叫ぶ私を放っておいて、体育委員が志保様から
お題の紙を受け取り読み上げる。
「お題は……」
夕子「お題は!?」
焦れったくて身を乗り出しながら早く読みなさいよと
急かすと、体育委員は吹き出した。
「お、面白い人です」
一瞬、会場が静まり返り、すぐに県体育館が大爆笑に
包まれる。
夕子「え!? 嘘!!おかしいです!! 志保様訂正して
ください!!好きな人と間違えましたって!!最初からやり直ししましょうよ!また抱き上げて好きな人は夕子って!!もう1回!ね、ね?」
私は抗議するけどジャッジの教師3人が全員、大きな丸を腕で描いてる。
こんなの納得いかないわよ!
夕子「ど、ど、どうしてよ〜!!」
私の声がマイクに乗って、会場がまた笑いに沸いた。
体育委員が志保様にコメントを求めると、
志保「ね?面白いでしょ?」
と、志保様は静かに微笑みながら私にウィンクした。
夕子「す、素敵〜!!!♡♡志保様!!夕子とこのまま結婚しませんか!?♡♡」
志保「ヤダ」
夕子「ギィーッ!!!釣れないところも素敵〜!!!」
発狂しそうに悶える声がまたマイク越しに響いて、
志保様はお腹を抱えて爆笑していた。




