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9/1(月) 櫟一子の見た日常

・9/1(月) 屋上 小屋後ろの日陰にて




一子「…………」



新学期初日の朝、私は胸に重い緊張を抱えていた。


夏休み、プールに行ったあの日から志保ちゃんと連絡も取らず言葉も交わしていない。



私は志保ちゃんのことを、何にも知らない。



志保ちゃんに彼氏がいるだとか、その人が許嫁だとか。


私が一番のお友達なのに、志保ちゃんの何を知ってるのと誰かに聞かれたら答えに詰まってしまう。


その事実が悲しくて、夏休みは気が滅入ってばかり

だった。


田舎のおばあちゃんの家で撮った写真を送る約束も、

映画やお買い物に行く約束も全部果たせなかった。



……それでも、志保ちゃんはお昼休みになった途端、

席を立って教室を出て行った。



多分、いつものように屋上に向かったんだと思う。



いつも通り私とご飯を食べてくれるつもりなんだと……

そう信じたい。


だけど私は階を上がっても屋上の扉が開けられなくて

立ち尽くしていた。


もうかれこれ5分くらいここに立ってるけど、いつまでもぐるぐると考えていてもどうしようもない事もわかってるの。


意を決してガチャ、と扉を開くと




一子「志保ちゃん……?」




志保ちゃんは空を見上げていた。


シルバーの髪が涼やかな風になびき、まるで映画の

ワンシーンを切り取ったような光景に私は思わず息を

呑む。


志保ちゃんの髪は陽光を反射し透明感のある美しさが

際立っていた。


整った顔立ちに、どこか遠くを見つめるような深い瞳。


白い肌は秋の光を受けてほのかに輝き、細い肩のラインが制服越しに際立つ。


志保ちゃんの存在そのものが、まるでこの世のものではないような幻想的な雰囲気をまとっていた。



志保「……一子?遅かったね」


一子「そ、そう?……ひ、日陰の方でご飯食べない?」


志保「そうしようか」



話せばいつも通りの志保ちゃんで、ちょっとホッとした。


日陰に移動していつものようにレジャーシートを広げてお弁当箱を開く。


今日のメニューはBLTサンドイッチと厚焼き玉子の

サンドイッチ。


水筒にはストロベリーティーを用意してあるから、

コップに注いで志保ちゃんに差し出した。



志保「今日も美味しそう」


一子「志保ちゃんトマト好きでしょ?だからBLTサンドにいっぱい入れたの」


志保「ありがとう。美味しいよ」



……いつも通りの会話のはずなのに、私の心には何か

物足りない。


いつもなら志保ちゃんは私を軽くからかったり、じっと見つめてくれるのに今日は空ばかり見ている。


その視線が遠く、届かない場所にあるような……?



一子「……空、何かあるの?」


志保「うーん……」


一子「雲の形とか?ほら、あれとか猫ちゃんみたい」


志保「そうだね」



志保ちゃんの声は穏やかだけど、どこか上の空だ。


私はもっと志保ちゃんのことを知りたい、もっと話を

聞きたいと願うのに志保ちゃんがますます遠く感じる。



……優しい秋の風は初めて出会ったあの日のように

変わらないのに。



あの日、志保ちゃんが『初めて会った気がしないね』

って言ってくれた瞬間から毎日が楽しくて幸せで……。


志保ちゃんのことで胸がいっぱいで。


それなのに今、志保ちゃんの心がどこにあるのか

全然わからない。


ぐるぐると色んなことを考えてしまって俯いていると、視界に突然志保ちゃんの顔が入ってきてびっくりする。



志保「ちょっとだけ寝ようかな」



志保ちゃんはそう言って、さらりと私の膝に頭を預けた。



一子「な、なんで膝枕なの?」


志保「寝やすそうだし?それに……」



志保ちゃんはすっと目を閉じると言葉を途中で止めた。


その横顔はシルバーの髪に縁取られ、絵画のように静謐で美しかった。


長い睫毛が小さく揺れ白い頬に風がそっと触れる。


志保ちゃん穏やかな寝息が、私の膝に温もりを伝えた。



志保「一子と空が見えると……」


一子「見えると?」



志保ちゃんは寝言のように呟くので思わず聞き返す

けど、すでに小さく寝息を立て始めていた。


私はそっと志保ちゃんの柔らかい髪を撫でる。


シルクのような髪が指先に滑り、胸が締め付けられる

ような切なさがこみ上げる。




ねぇ、志保ちゃん。





私、志保ちゃんのこと___。





言葉にできない想いが、秋空の下で静かに響いた。



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