9/1(月) 海棠美百合の見た日常2
・9/1(月) 昼放課 屋上にて
現在昼休み。
私は楠木にトイレに行くって嘘をついて教室を出てきたけど、夕子は約束した場所にほんとに来るのかな?
4限の終わり際、授業中にもかかわらず夕子から追加で
回ってきたルーズリーフの手紙にはこう書かれていた。
〝屋上に集合♡〟
でもそれが数学教師に見つかって地獄。
激怒した教師にこれは何だと私まで問い詰められて、
何のことかわかりませんってスルーしたけど、数学の
宿題もやってこなかった夕子は昼休みに職員室に来る
ようしっかり怒られてた。
てか、この屋上へ上がる階段前には立ち入り禁止の黄色と黒の紐がかかってるんだけど勝手に入ったら怒られるんじゃないの?
……まぁ、でも?
あの変にねっとりした2年の2人組は屋上で昼飯食べてるわけだし?
もしこの件で先生に怒られてもあの2年たちを売ればいいかと軽い足取りで屋上への階段を上っていく。
扉を開くと、思わず息をのんだ。
美百合「おぉ……」
目の前に広がるのは澄み切った秋空。
涼やかな風が頬を撫で校舎の喧騒が遠ざかる。
屋上に立つと空が一層広く感じられて、窮屈な学校生活の重みがふっと軽くなるような不思議な開放感に包まれた。
日常のわずらわしさが溶けていく気がしたけど、
夕子「ゆりってば待ってよー!」
それも一瞬だった。
突然の声に振り返ると、夕子も階段を駆け上がってきたのか私を押し退け屋上に飛び出た。
……何でそんなのまだ付けてんの?
風に揺れる夕子の髪にピンクのリボンがひらりと揺れていて、私の目はそのリボンに釘付けになる。
心の中でイライラが急に湧き上がってきた。
あのリボンはあの男女からもらったケーキの包装に
使われていたものだ。
ゴミ同然だったそれを夕子は丁寧にピン留めにして、
まるで宝物のように髪に飾っている。
……バカじゃないの?
そんなものを後生大事に持ってるなんて理解できないと胸の内で苛立ちが渦巻くのを感じた。
美百合「職員室は?」
夕子「行くわけないじゃない。だって怒られるんだもん」
行かない方がよっぽど怒られるのに、なんでこのバカはそれがわからないんだろう?
私は屋上の風に髪を揺らす夕子を睨むように見つめる
けど、悪びれもせずふわふわの髪を揺らしながら笑った。
ピンクのリボンが風にひらりと舞うのがまるで夕子の
無邪気さを象徴しているみたい。
それに何だか金木犀みたいに甘い匂いがして可愛いとこもある……。
………………。
いや、なんでよ。
一瞬頭をよぎった言葉を頭を振って無理やり打ち消した。
美百合「……で?話って?」
夕子「あのね___」
胸に手を当て深呼吸してもう一度仕切り直し。
そんな私をいつになく真剣な表情で見つめてくる夕子に心臓が妙に早く脈打つ。
数秒がやけに長く感じられ、夕子の言葉に何か重大な
ことが込められているような気がした。
夕子「あのね、私たちが夏休みに会ったじゃない?」
美百合「うん」
夕子「私とゆりが会ってたことは言ってもいいけど
日付は誰にも言わないで欲しいの!特に舞には!!」
美百合「……は?」
想像していた話とはまるで違って、思わず声を上げて
しまった。
日付を言わないで欲しい?
そんなの覚えてすらいないと言いかけたその瞬間、
カタンと小さな音が響いた。
私と夕子は目を合わす。
その物音は屋上小屋の裏側、陽の当たらない日陰の方
から聞こえてきた。
屋上の真ん中に立つ私たちからは見えない場所だ。
夕子と目配せし、こっそり近づいて物陰からそっと
覗くと___。
美百合「……うわ」
夕子「なっ……なっ……!!!」
なんと黒髪美人の櫟先輩が男女を膝枕して愛おしそうに髪を撫でている姿があった。
頭の中で状況を整理するけど目の前の光景はなかなか
衝撃的だ。
夕子は口をあんぐり開けひっくり返りそうな勢いで、
私は無理やりその背中を支えるけどあの調子だと……。
夕子「い、い、い、いちい先輩!!!!」
一子「え!?ゆ、夕子ちゃ___」
夕子「寝込みを襲うなんて最低ですよ!?!?」
いきなり大声で捲し立てる夕子に櫟先輩は明らかに
動揺して目を泳がせている。
ただハッキリ見てはいないけどあの雰囲気からして
キスでもしていたのではないかと疑いたくなる空気が
漂っていた。
それは夕子も同じことを考えたみたいで。
夕子「こんなところで2人で何して___」
夕子がさらに追及しようとするけど、
一子「わ、私用事があるから!!」
そう言って櫟先輩は男女をそっと膝から下ろし、慌てて靴を履いてお弁当袋を掴んで一目散に走り去ってしまった。
よく見れば足元にはレジャーシートが広げられまるで
ピクニックのようで……。
何なのこれ?
こいつらいつもこうやって飯食ってんの?
夕子「……い、いちい先輩め……ゆりどう思う!?」
美百合「どうって……事後かなとか?」
夕子が興奮冷めやらぬ様子で詰め寄ってくるので思わず口を滑らせてしまう。
夕子「事後ぉ!?!?」
夕子の声が屋上に響き渡り澄んだ秋空に吸い込まれていった。




