5/14(水) 檪一子の見た日常
・屋上にて
昼放課に志保とお弁当を食べる一子は突然の放送にびっくり……
〝立ち入り禁止〟
辺りを見渡してから屋上に向かう唯一の階段前に張られているロープを越えて音を立てないよう駆け上がる。
壊れた鍵を無視して扉を開けると、
志保「一子」
屋上で輝く青空をバックに微笑む志保ちゃんがコンクリートの床に座ったまま私に手を振っている。
この瞬間が、私は限りなく好きで大切だった。
一子「ふふ……あ、また地べたに座って……レジャーシート引いてお弁当食べよ?」
志保「一子も悪に染まったね」
一子「だって志保ちゃんが……」
2年生になって、また同じクラスだった時は本当に嬉しかった。
入学してすぐ、あんまりクラスに馴染めなかった私に前の席にいた志保ちゃんが話しかけてくれて仲良くなって……。
教室で食べると息が詰まると1年生の5月に2人で見つけたこの屋上は秘密の場所なの。
志保「今日は何?」
一子「今日はお子様ランチ風お弁当!」
志保「ふふ……何それ可愛い、一子はお子様なの?」
一子「もー、志保ちゃんはすぐからかうんだから。ランチルームにね?〝大人のお子様ランチ〟ってメニューがあるって姫奈先輩が言ってたの。だから作ってみたくて___」
お弁当の蓋をカパっと開けてみせると、
志保「オムライスにミニハンバーグ…あ、タコさんウインナーもあるし……卵焼きがハートになってる」
一子「卵焼きはね、斜めに切ってくっつけるとハートになるの。あとオムライスのケチャップは後がけできるように、はい!」
志保「ふーん。一子、ケチャップでハート描いてよ。志保ちゃん大好きって」
一子「もう……からかわないで!」
じっと見つめる志保ちゃんに根負けして、結局ケチャップでハートを描いてしまう私は意思が弱い。
でも志保ちゃんは満足そうに笑うとスプーンで1口オムライスを食べた。
志保「……美味しいよ。また腕上げたね」
一子「ほんと?嬉しい……私志保ちゃんのために……あっ」
志保「私のために?何?」
一子「そ、その……」
志保「言ってよ一子。タコさんウインナーみたいに顔真っ赤にしてないで教えて?」
からかってばかりの志保ちゃんに一言言わないとと口を開こうとすると、
『はぁ……志保様ってどんなお弁当食べてるのかしら』
一子「夕子ちゃん?」
突然校内放送で夕子ちゃんの声が聞こえてきた。
ただ屋上の放送機は古くて、上手く放送が聞こえたことなんて一度も無かったからつい驚いてしまう。
『___それか檪先輩の手作り弁当つまむとか』
『いちい先輩って美人で料理も上手くて……正直__』
夕子ちゃんと美百合ちゃんの声だ。
2人は放送委員なんだと気づくけど、ぶつ切りで聞こえてくる会話の中に私の名前が上がって心臓が跳ねる。
しょ、正直……?
一子「……し、志保ちゃん、これ多分私のことだよね」
志保「そうね。一子のことだろうね」
次の言葉を構えて待っていると、
『最高よね!!私も料理___あーん♡とかしようかな』
『邪、てか__大体悪口になるのに__ポジティブね』
志保「何の話してんのか分かんないけど想像と違うわね」
一子「……う、うん」
悪口を言われるのかと身構えたけど、全く違って私はなんか少しホッとした。
以前問題が起きた時みたいに本当はみんなから色々思われていて、嫌われていたらどうしようって不安が過ぎったけどやっぱり1年生はみんな優しくて。
志保「一子、早くあーんやってよ」
一子「えっ……あ、あーん」
口を開けて待つ志保ちゃんにウインナーを食べさせて、私もオムライスを1口食べる。
……。
良かった。
誰も彼もが私の事悪く言うわけないじゃない。
私ってばいつも考えすぎで落ち込んじゃう……。
そんな風に俯いた時、
『言うわよ、いちい先輩は絶対悪くないの。元はと言えばその彼氏が悪いのにいちい先輩に言いがかりつけるなんて愚かよ!最初からいちい先輩が美人で嫉妬してたのね……彼氏うんぬんはいちい先輩をハブるちょうどいい理由でしかないのよ』
突然古びた屋上の放送機の調子が良くなったのか、またいつもみたいにいっぱい話す夕子ちゃんの声が聞こえてきた。
でもよくよく考えたら何でマイクがオンなんだろう?
志保「これまさかマイクつけっぱなしにしてるんじゃないの?」
一子「あ、あー……」
志保「わざと聞こえるように言ってるとか」
一子「ま、まさかぁ……」
先生が放送室に入ってきたのか、ものすごい悲鳴と共にブチッと音は途切れる。
志保「……夕子ちゃんって面白いよね」
ふっと笑う志保ちゃんは笑顔で、その自然な姿も素敵で困ってしまった。




