記入者1:海棠美百合
・旧音楽室にて
置いてある机を3つくっつけてお喋り
夕子「……」
舞「落ち込まないで〜夕子ちゃん〜」
夕子「苺が……苺が……」
夕子が白くて小さなケーキ箱を懇切丁寧に開けたのはいいけど、学校まで真っ直ぐ持ってこなかったせいか中では苺が転がっていた。
美百合「苺が転がったくらいでうるさいな」
夕子「い、苺が転がったくらいで!?ショートケーキは苺が主役なんだよ!?〝ソレイユ〟の苺は特に大きいのに!」
たかだか箱の中で苺1つ転がっただけなのにこんなにも悲劇のヒロインみたいに騒げるのも凄いよな。
舞「夕子ちゃんチャリ通でしょ〜?カゴに入れて持ってきたから転がっちゃったんだよ〜」
美百合「そんなに言うならほら」
夕子「きゃー!!!!!????」
あんまりうるさいのでその苺を手で摘んでショートケーキのてっぺんの元の位置に戻してあげると、夕子は悲鳴をあげて私の手を思い切り叩く。
美百合「いった……」
夕子「ゆりのバカ!手で触んないでよ!苺は私のなんだよ?せっかく3人で食べようと思って昨日買ってきたのに!!」
美百合「え、昨日の?賞味期限やばくない?なら私いらない」
夕子「……デブほど賞味期限気にするんだから。そんな事言うならもうあんたには一口もあげない。ねー?舞、ほら一緒に食べよ?」
恨みがましく睨まれるけど私別にデブじゃないし。
夕子は肩の上の緩いウェーブがかった髪を揺らしながら大きな目を釣り上げて睨むけど、とびきり可愛い顔が台無しだ。
舞「あ〜……私も大丈夫かも〜」
夕子「え?まったり部開設を祝おうと思ってわざわざ昨日本山のソレイユまで行ってきて買ってきたんだよ?」
美百合「どこのでもいいけど昨日のなんだから楠木も嫌なんでしょ」
夕子「き、昨日って言っても夜の閉店間際に買ったやつよ?」
こけしみたいな髪型の舞はオン眉なのもあって丸見えの眉を困らせてる。
山王女学園に入学してから2週間。
同じクラスの出席番号の近いこの2人に私は無理やり謎の部活に所属させられている。
それは買ってきたケーキを食べたりしてただ自由に過ごすだけの……
〝まったり部〟
思春期で多感ストレスフルな高校生はケーキを食べることで幸せになるという夕子の謎自論に基づき作られたそれはもう適当な部活。
部員は夕子ここと木下夕子と緩いタヌキみたいな楠舞そして私、海堂美百合のたったの3人しかいない。
舞「大体これさ〜どこに隠してたの〜?」
夕子「調理室のおばさんに頼んで冷蔵庫に入れて貰っておいたの。いただきまー……」
突然夕子の食べる手が止まる。
美百合「……何?」
夕子「しょうがないわね……苺はあげないけど」
美百合「は?」
夕子「ほら、あーん」
美百合「いらないって」
夕子「あーん、あーんしてよ!!」
夕子は銀のフォークでショートケーキを掬い、無理やり私の口に押し込んだ。
同じフォークとか、そういうの気にしない子なんだな。
夕子「どう?美味しい?」
美百合「……普通?」
夕子「二度とあげないから」
頬を膨らませる夕子はリスみたいで可愛かった。
4月22日(火) 晴れ
今日は〝まったり部〟の歓迎会をしました。
夕子が入りたい部活がないからって勝手に作った
〝まったり部〟に無理やり入部させられたけど、
本当はバレー部も見たかったです。
夕子が部員を増やそうとか言ってるけど増えるわけないと思いました。
大体この旧音楽室って勝手に使っていいんですか?
ショートケーキの味は普通だけどなんか異常に甘く
感じました。
やっぱり昨日のものだったからだと思いました。
1年A組6番 海棠美百合