8話 初めてのエンカウント×2
誰かさんが毟ってポイ捨てしてたから、来ちゃいましたね。
2025/6/17 微修正
慌てて根っこを引き抜き、精一杯の四足ダッシュで逃げる。
間抜けな格好で逃げるワンダをあざ笑うかのように、緑猿が背中に取り付いてきた。
一匹、三匹、五匹と、次々のしかかられて動けなくなってしまう。
(ボキッ!ブチッ!パキッ!ムッチャムッチャッ!)
どうやら草食だったようで、体から生えている枝葉を毟って食べ始めた。
(頼むから、髪だけは勘弁してくれ~っ!)
(ブチブチブチッ)
そんな心の叫びもむなしく、頭の苔は無慈悲にむしり取られた。
しかも匂いを嗅いだだけで食べるでもなく、そのままポイ捨てされてしまった。
「タべなイなら、トるなァッ!」
(キィヤアシッ!ヤベッタァッ!ギャアッ!)
驚いて離れてくれた。が、その目つきはよろしくない。
完全に敵対してしまったようだ。
(先に襲ってきたのはそっちだろ?!)
(ギャガァアッコッ!ロセッ!ギャガァアッ!)
また4足ダッシュで逃げ始めたのだが、猿共は蹴りや揺さぶりといった攻撃を仕掛けてきた。
(揺さぶりはまずい!酔ったら、動けなくなってボコボコにされる!)
吹っ飛ばされ、転ばされながらも何とか逃げようともがいていると――。
(ピーッ!ピッピーッ!)
シュッーー・・・カーンッ!
口笛が聞こえた後に、鋭い音と共に弓矢が飛んできて岩に突き刺さった。
(ァエッ!ルフッ!テッタアッ!イッギィッ!)
弓矢に驚いた猿の群れは逃げていった。
初めての冒険の危機に、颯爽と現れた救援!?
この流れは、美少女達に助けてもらって仲良くなるという王道パターンじゃないか!
(異世界万歳!)
向かいの山から、3人の耳の長い女性達が下りてきた。
(まさか、あの山頂から弓矢で撃ったのか…?何百m離れてるんだ…)
「ロンニヒワゥ、大丈夫か~?」
「ロンニヒワ、タすけてクレてありがトう。タすかリましタ」
カゴをしょった大人が二人に、弓矢を持った子供が1人。
もしかして、二人に教わったエルフかな?
「モザルがあんなに騒ぐなんて珍しいから来てみたら、もっと珍しいのが居たな」
「人間じゃない?全身が木でできてるのか…?」
「バケモノ?倒す?」
旅に出る前から覚悟はしていたが、やはり見た目のせいで警戒されてしまった。
せっかく助けてもらったのだから、なんとか仲良くなりたい。
(さっきの弓は凄かった。褒めたら、好感度が上がらないかな?)
「かラだハ(体は)”木”だケど、なカみはにンげン(中身は人間)のつモりです。あナたがタはエルフですカ?」
「あぁ、そうだ。山の向こうのアマリィキロウリェンから来た。」
「あラためテ(改めて)、タすけテくれテ(助けてくれて)あリがとウござイましタ。まだちイさのに、さっキのゆミ矢はすゴかったネ!」
「ふふん♪当然よ、たくさん練習したんだから!でも、子ども扱いしないで!あたし、91才なんだからね?」
頑張っている子供を褒めるのは、良いことの筈だ。
小さいは余計だったが、努力を認められて喜んでいるように見える。
(喜んでもらえているみたいだし、もう一押し!)
「さスがエルフ!ユみはウまいシ、わカくテきれイだね(若くて綺麗だね)!」
――少女に声をかけたこと自体が、そもそも間違いだったのだ。
あの時、大人二人の冷たい視線に気づけていたら、結果は変わっていただろうか。
(ゴッ!ドカッ!)
突然の衝撃。
激しく体が地面に押し付けられたと気付いた時には、大人組の二人に拘束されていた。
「最初から怪しいと思っていたんだ。てめぇ、ロリコンか!」
「まだ二桁の幼女を口説くなんて!…こいつは戻って処刑しましょう!」
「え…?A…。エ?」
二人の目からは、先ほどまでほんのわずかに感じられていた友好の色が、跡形もなく消えていた。
押さえつけられた肩越しにチラリと見えたその瞳に宿るのは、まさに絶対零度の拒絶、侮蔑。
残念ながら、完全に敵対してしまった。
唯一、弓を褒められてニマニマしていた少女だけが、突然の事態に付いて行けずにあわあわしている。
(せめて彼女だけでも、仲良くなりたいけど…。近づくなって言われそうだな)
(異文化コミュニケーション失敗…。難しいなぁ)
どこかズレた感想を抱きつつ、ボロ雑巾のように扱われながら運ばれていくのだった。
読んでいただき、ありがとうございました!