7話 故郷(森)から出て、山の中へ
どんな冒険も、初めてが一番楽しい気がします
2025/6/17 微修正
ティーナカ(以下:T)「いやぁ、子供はあっという間に巣立っちゃうねぇ」
エスズキ(以下:S)「子供っていう見た目じゃないけどね」
「おとウさん、おカあさん、お世ワになリましタ」
T「誰がお父さんだ!」
S「お母さんとお母さんだよ〜?よーしよしよし」
「やめテ!かミの毛がとレちゃウ!」
T「見慣れると、苔も悪くないもんだね」
S「私達は慣れたけど、外では変な人扱いされるから気を付けるんだよ~」
「気ヲ付けまス」
ようやく自分の足だけで歩けるようになったので、外の世界を見てまわる旅に出ることにした。
チートも無い異世界生活だけど、幸い体は頑丈だし、食事も必要ないみたいなのでなんとかなるだろう。
T「危ない危ない。ふざけてて、大事なことを伝え忘れるところだった!」
S「君の体の中にある闇属性魔力なんだけど。
魔力は回復しても、魂は回復しないから気を付けてね~」
「(?)よク分からなイけド、覚えテおキまス」
二人に見送られながら、この世界の故郷を出発する。
転ばないように、杖代わりの棒切れを両手に装備した。
食料が要らないから、荷物が少なくて楽だ。
持ち物は、日除け用に二人が作ってくれたフード付きの外套を一枚のみ。
白地に茶色の模様が入っていて、マッシュルームレザーで作った物らしい。
ごわごわして固いけど、日光をしっかり遮ってくれるし、初期装備としては十分だ。
危険な生物もいると言ってたけど、この体じゃ食べる所も無いし、スルーしてくれるだろう。
…いくらキノコ製とはいえ、この外套目当てに襲われないよね?
ギッシ、ギィ…、ギッシ、ギィ…
目的も無く歩き始めてしまったが、周囲は大木が生い茂る森で、視界はひどく悪い。
見上げれば日差しを感じられて明るいのだが、何故か足元が暗いのだ。
葉がそれほど重なっているわけでもないのに、不自然な暗さに感じる。
(これも、魔力が関係あるのかな?)
ただ、日差しがあまり届かないせいか、足元の草はあまり育っていない。
歩きやすいのが、せめてもの救いだった。
しかし、このままでは出発して早々に遭難しかねない。
どこか高い所で、地形を確認してから進む方向を決めた方が良いかもしれない。
何か目印になる物はないか探していると、木の葉の合間から山が見えた。
落ち葉や枯れ枝に足を取られないように気を付けながら、見失わないように進んでいく。
◆ ⁂ ◆
歩き始めて、1時間はたっただろうか。
山の麓に辿り着けたが、着慣れないローブが何度もずり落ちてしまった。
おかげで、あちこち枝葉が生え始めてしまっている。
生えすぎると眠くなってしまうので、手が届く所は毟りながら歩く。
そうして山を登ること2時間、なんとか山頂に辿り着いた。そんなに高くない山で助かった。
山頂からの景色は、人工物ひとつ見当たらない、自然一色だった。
遠く地平線まで、幾重にも山々が連なっている。
あの二人が暮らす森は盆地だったらしく、四方を山に囲まれている。
過ごしてた頃は、明るく開けた場所だと思っていた。
――だが、今は深い緑に覆われ、詳しい位置は分からなかった。
「さテ、どウするカなぁ…」
集落のひとつでも見つかればと、期待していたんだけどーー。
そういえば、YouTubeの地理系動画で
”平野は栄えやすい”
って言ってたな。
(平野を目指すなら、川下へ向かうのが良いかな?)
そうして川の方へ下っていこうと足を出した瞬間、山頂特有の強い風が吹いてきた。
(ビュォオオオーッ!)
咄嗟に杖をつき、足で踏ん張ろうとしたが、あいにく滑りやすい地面だった。
風圧に抗いきれず、そのまま崖下へと転がり落ちてしまった。
「あアあぁぁa~!…ッ……ッ!」
(……!……♪)
落ちる間際、風に紛れて何か聞こえた気がしたが、すぐにそんな余裕は消え去った。
(ズザザザッ!ゴドッ!バキメキッ!ゴロゴロゴロ…!)
大小さまざまな衝撃が、めちゃくちゃに襲いかかってくる。
もはや方向感覚はおろか、重力すら分からない。
長い時間が過ぎ、ようやく動きが止まった。
◆ ⁂ ◆
体の回転と、ぶつかった時の衝撃で全身が揺さぶられ、頭ごとミキサーにかけれたかのように気持ち悪い。
まだ落下中なのかと、錯覚してしまいそうだ。
周りを見ている余裕は全く無かった。
ここは山のどのあたりなのだろうか。
かなり時間がたってしまったが、ひどい車酔いのような気分の悪さもようやく落ち着いてきた。
幸い、こすった跡はあるが体に損傷はなさそうだ。
残念ながら、相棒の杖2本はどこかへいってしまった。
外套は土まみれだが、片腕にかろうじて引っかかっている。
大事なプレゼントなので、失くさなくて良かった。
耳を澄ますと、近くで水の流れる音がする。
運が良いのか悪いのか、川の近くまで落ちてきたようだ。
だが、ゆっくりもしていられない。
動けなくなっている間に、湿った土に反応して根が伸びてきている。
地球にいた頃、根が伸びる所を観察したことは無かったけど。それにしても、伸びるの早すぎない…?
早くしないと、自力で脱出できなくなって森と一体化してしまいそうだ。
その時
(ガサッ!ガサガサッ!)
(キィッアッ!ソコダッ!ゴチソウッ!キィィッ!)
何かが迫ってくる。
音がする方を見ると、”緑色のナマケモノ”みたいな猿が山を駆け下りてくる。
そんなに早くはないけど、やばい、数が多い!!襲ってくる?!
読んでいただき、ありがとうございました!