6話 新しい世界の、新しい知識
お勉強回。学校の勉強は嫌いです。仕事の為に学ぶのは好きです。
2025/8/21 加筆修正
※魔力については、後から設定や表現を変更する可能性があります
新しい体に慣れる訓練を続けていたら、気づけば数ヶ月が経っていた。夢中になって取り組んでいたせいか、体感ではまだ1ヵ月くらいしか経っていない気がする。
目と耳の訓練が一段落した後、次は首を動かす練習と発声練習を始めた。最初は、どうすれば音が出せるのか、見当もつかなかった。二人に相談したら「喉に膜を張ってみたら?」と助言をもらった。シャボン玉をイメージしながら薄く広げてみたら、なんとか膜を張ることができた。
しかし、思い通りの音を出そうとすると、なかなか上手くいかない。場所が近いので、首を動かす練習のついでに音を出していたんだけど…。
ピ「なんか変な音がすると思ったら…え、何っ!怖いんだけど!?」
青「あっはははは!いやいや、なんで変な音を出しながら首動かしてるの!?『ァ…A…』とか、完全に魔物じゃん!ほんと、君って変な人だねぇ〜!」
と、怯えられたり、大笑いされたりと散々な反応をもらってしまった。
(距離が近いし、効率良いと思ったんだけどなぁ)
何日か経った頃には、片言ながら喋れるようになった。今更だが、二人の名前を知らなかったので、改めて自己紹介をすることにした。ピンクっぽい方が『ティーナカ』、青っぽい方は『エスズキ』という名前らしい。その時に「この世界では13歳になると、自分で名前を決める習わしがある」と教わった。
せっかくなので、ネットで使っていた”ワンパ”というハンドルネームを使う事にした。この世界の言葉に直すと”ワンダ”になるそうだ。これでせめて名前くらいは浮かずに済むだろう――そう思っていたのに。
ティーナカ「見た目ですでに浮いてるんだから、名前をどうこうしてもねぇ…」
エスズキ「努力は認めるよ?」
と言われてしまった。
(見た目に関しては、お二人のクリエイティブ力の結果なんですが…?)
少し動けるようになってきたおかげで、いくつか気づいたことがある。まず、この体は倒木から作られたはずなのに、まだ”生きている”らしい。目と耳の練習で手こずっている間に、気づけば根が張り、動けなくなっていた。さらに、日光を浴びると体のあちこちから枝葉が生え始め、妙に眠くなるのだ。
いつの間にか眠ってしまい、夕方に目覚めると全身が植物に埋もれていた。森の動物に拉致されたのかと警戒したが、場所は変わっておらず、ただ周囲の植物が成長して覆いかぶさっていただけだった。
(徹夜のせいで寝不足だったのかと思ったけど…なんか違う気がするんだよなぁ。そんなに長く眠っていたのかな?)
◆ ⁂ ◆
首がそこそこ動かせるようになったので、今度は腕と足の動きを試すことにした。肩と太ももが動くなら何とかなるかな――と四足歩行に挑戦してみたが、あっさり転倒。転んだ拍子に床ペロした結果、土の味をしっかり堪能してしまった。
(「今度は土を食べ始めた!」って笑うのは良いけど、もっと早く助けて欲しかったなぁ)
助け起こしてもらうまで、ずっと土を味わう羽目になり、お風呂で全身洗い流したい気分だった。
(味覚があったのは良かったけど、消化出来ないから使うのは飲む時くらいかな?)
また転んで土の味を噛みしめるのはごめんなので、慎重に練習を続けていく。それに、転ぶデメリットは他にもあった。転倒の激しい振動が体に伝わった瞬間、頭を激しく揺さぶられたような感覚に襲われ、車酔いのように気持ち悪くなってしまったのだ。
(慣れるまでは、激しく動いたり、乗り物に乗るのは無理そうだな)
こんな感じで、二足歩行が難しいから四足歩行の練習をしているのだが、ワンダのもがいている様子を見た二人からは「なんか夢に出てきそう…」「人前に出たら討伐されそうだよ?」と言われてしまった。
(絵面が酷いのは分かってるよ!とりあえず動けるようになってるから、これで良いんだ。良い筈なんだけど…。別に、化け物を目指してるわけじゃないんだけどな)
◆ ⁂ ◆
体を動かす練習だけではなく、この世界についての勉強も、少しずつ進めてもらっている。使われている言語は、種族によって多少訛りがあるものの、基本は共通語が通じるらしいので助かる。
『ロンニヒワ』
これが、この世界の『こんにちは』だそうだ。
文字も教わったが、形はローマ字に似ているので覚えやすい。だが、木の手のままではペンが滑るので、持つことも難しそうだ。
(肉体労働は無理そうだから、事務作業が出来るように何か考えておかないとなぁ)
種族は大まかに、ゴブリン族、オーク族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魚人族、鳥人族、鬼族、人族。コミュニケーションを取れない生き物は、動物や魔物というくくりだが、中には龍など知性の高い者たちもいるようだ。
魔力については、簡単にしか教えてもらえなかった。「最初から全部分かってたら、つまらないでしょ?チートは甘え」というエスズキさんの意見である。
まず、魔力は熱などのエネルギーを伝導することが出来るらしい。
例えば、AからBへと熱を移動させることで加熱、逆で冷却することが出来る。
(蓄熱、蓄電池みたいな感じかな?)
また、魔力は想いを伝導することが出来るらしい。
例えば、土に対して「圧縮されろ」と意識を向けると、土の密度が上がり圧縮されて固くなる。建築でよく使われる魔力の使用方法だそうだ。
熱の伝導も大まかにいうと、”熱よ移れ”という想いを魔力が伝導するから移っている。だから、『魔力で何かする=想いを伝導させる』という理解で大体合っているそうだ。便利そうではあるけど、癖が強い。魔力さえあれば、何でも出来るわけではないらしい。
エスズキさんによると「君の世界の漫画やアニメみたいに、何もない所から水や石を生み出して発射することは出来ないよ」だそうだ。
魔力の性質として、伝導する際に心拍のような波が生じるらしい。魔力に敏感な人なら、その波から緊張やリラックスといった情報を読み取ることができるそうだ。初めて出会った時に交わした念話のようなやり取りも、この能力によるものなのだろう。
さて、今日も体を使いこなす練習だ。
なんだかんだ、この世界が楽しくなってきたワンダだった。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




