4話 夜中に独りぼっちだと、考え過ぎて悶々としますね
短いです。毎話楽しい展開にするのって難しいです。
2025/6/17 微修正
視覚と聴覚を自分なりに調整してみたが、初めての魔力の感覚に、まだコツがつかめない。
(まぁ、初日だからこんなもんかね)
二人は
「んじゃ、また明日見に来るね~」
と言い残し、どこかへ消えてしまった。
取り残された木の体の中で、身じろぎ一つできないまま、地べたに無造作に転がっている。
もし、誰かが通りがかったら――。
暗闇の中で月明かりに照らされて、不気味な影を浮かび上がらせる人形を見て絶叫するだろう。
(今後も、夜中に動くのはなるべくやめておこう)
最初よりは多少マシになったとはいえ、目に映るのは月明かりだけが頼りのピンボケ写真のようだ。
そのかすかな光の中で、木々の枝葉が揺れているのが見える――いや、風がないのに揺れている?
(猿でもいるのかな?襲われたら嫌だなぁ)
外を観察すればするほど、"動けない危険"という事実を突きつけられ、じわじわと気が滅入りそうになる。
気を紛らわせるため、今日の出来事を振り返ってみることにした。
(仕事に行くはずだったのになぁ、どうしてこうなった)
(とりあえず、現状出来ることから進めていくしかないか)
まずは、自分の体のことを整理する。
今のところ、眠気も空腹も感じない――これは素晴らしい、最高だ。
(視覚と聴覚は、昼間に確認した通り。自在に扱えるようになるには、時間がかかりそうだな)
(匂いは…木の香りと、草花、土の匂いが分かる。こんな状態でも嗅覚はあるんだな)
(味覚は不明。食事しなくていいなら、正直どうでもいい)
(触覚は…叩かれたときの振動が分かった。体の表面はともかく、内側なら色々感覚がありそうだ。)
五感は揃っているようだ――ただし、人間の体とは勝手が違う。
(髪…はもう諦めよう。苔を枯らさないように気を付けなきゃな。水だけで大丈夫かな?)
(火は気をつけないと、生木でも燃えるだろうなぁ。痛覚がなさそうだから、燃えていても匂いでしか気づけない…それは怖すぎる)
そんなことを考えながらも、時折響く獣の鳴き声や物音に、びくびくと身をすくめる。
夜なのだから、眠ればいいのに――そう思う人もいるかもしれない。
屋根も無い完全な野外だが、こんな体だから風邪をひく心配も無いだろう。
眠れないわけではなさそうだった。
眠るのが怖かったのだ。
この体で眠ってしまったら、明日起きられる保証はない。
(別れる前に、もっと色々聞いておけばよかった!)
不安を振り払うように、現実逃避もかねて魔力操作の練習を続ける。
見本も教科書もない。あるのは手探りの試行錯誤だけだ。
じりじりと、星の動きと同じ速度で時間は流れていく。
夜の静けさが、ただひたすら長く感じられた。
読んでいただき、ありがとうございました!