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46話 短い関わりも、貴重な縁

出会いと別れ。次の町では、どんな物語が紡がれるのでしょうか?

 ギッシギィ、ギッシギィ


 子供たちと一緒に、もはや慣れ親しんだ薪拾いの道を歩いていく。ここに来た当初はおぼつかなかったワンダの歩みは、杖が無くてもしっかりした足取りに成長している。竹籠の中に、昆布(こんぶ)兄弟(ブラザーズ)がいつの間にか忍び込んでいたが、構わず背負って歩ける程だ。


(なんか、後ろでこそこそやってるな…。きこじいに怒られても知らないぞ?)


 相変わらず、悪戯(いたずら)ばかりしては怒られているこの二人。いつの間にか側にいるのが当たり前になっていた。今では、年の離れた従弟(いとこ)の遊び相手をしている気分だ。


「よし、今日はここでやるぞい。落ち葉で足元が滑るから気を付けるんじゃぞ~、始め!」


 木古内(きこない)さんの号令で、一斉に子供たちが散っていく。昆布(こんぶ)兄弟(ブラザーズ)は、木古内(きこない)さんの目を盗んでこそこそと籠の中から出てきた。


(まったく、何をしていたんだか)


 呆れてジト目で二人を見ていると、頭を指さしながらよく分からないことを言い残し走っていってしまった。


「お土産を入れておいたから後で見ろよ!」「後でね!」


 またぞろ、虫でも入れられたのかと苔の中を探ってみると、ドングリがいくつか出てきた。


(子供はこういうのよく集めるよね…虫が出てきたら最悪だ。また悪戯かな?しかし、お土産…?)


 もしかしたら、餞別(せんべつ)的な意味合いでくれたのかもしれない。そこらへんで拾ったにしては艶があり、サイズも大きい気がする。彼なりの信愛表現なのだとすれば、ありがたく貰っておくべきだろう。


千歳(ちとせ)さんの近くに植えてみようかな?鼻を添えておけば、一つぐらいは芽を出すかもしれないし)


 落ちないようにと大切に苔の中に埋め戻すと、ワンダも薪拾いを始めた。


(たかが薪拾いと言えど、これが最後となると感慨深いね)


 子供たちが遊び半分で採集する風景を覚えておこうと、いつもよりも辺りを見回しながら作業を行うワンダだった。


 ギッシギィ、ギッシギィ


◆ ⁂ ◆


 薪拾いが終わり、いつもの解散場所。子供たちと会うのは、ここで最後になるだろう。昆布(こんぶ)兄弟(ブラザーズ)は、ワンダとお別れするのが分かっているのか、いつもと違う挨拶をしてくれた。


「じゃーなー!元気でなー!」「元気でなー!」


「二人も、悪戯はほどほどにね~」


 手を振って別れると、迎えに来てくれていた昆布(こんぶ)さんと移動を始める。歩きながら、残念そうに昆布(こんぶ)さんが話しかけてきた。


「せっかく弟達があんなに懐いたんだから、もう少し居ればいいのに…」


「仲良くしてくれて有難いです。これ、お土産って言ってました。餞別の意味だと思うんですけど」


 そう言って、髪の毛()の中からドングリをほじくり出して昆布(こんぶ)さんに見せると、申し訳なさそうに言ってくる。


「まったく、あの子たったら…。すみません、こんな物を」


「いえいえ、立派なドングリですよ。きっと彼らのお宝なんでしょう。千歳(ちとせ)さんの近くに植えてみようかなと思っています」


「あの辺りは動物が多いですから、良い餌場(えさば)になるかもしれませんね」


「えぇ、成長した時が楽しみです」


 里に来た頃は想像もできなかった、穏やかな会話。居心地が良くて少し名残惜しい気もするが、もっと外を見てみたいという気持ちは抑えられない。


(また、いつでも戻ってこられるだろうし、今この時間を大切にしよう)


 枝葉(グローリー)の収穫場へと向かう道すがら、昆布(こんぶ)さんと思い出話に花を咲かせるのだった。


◆ ⁂ ◆


 枝葉(グローリー)の収穫も終わり、夕方。支度を整えて里の出口へ向かうと、見送りの人達が集まっていた。軽く雑談をしてから、最後の挨拶をする。


「それでは、皆さん。短い間でしたが、お世話になりました」


 頭を下げるワンダに、様々な声をかけてくれる。


「今年は雪がたくさん降るかもしれないって言うから、道中きいつけてな」「魔法の練習も、さぼるでないぞ~」「いつでも戻って来てください、歓迎します」「春の収穫の前に是非!」「モザルに襲われないように気を付けてね~」「町に着いたら手紙を送ってくださいね」


(本当に、短い間だったけど貴重な縁が築けて良かった)


 再度頭を下げ、手を振りながら出発する。恵庭(えにわ)さんお手製のズボンと服に、マッシュルームレザーの外套を羽織ったいつものスタイル。そして、腰には小さな巾着。これは恵庭(えにわ)さんからの餞別だ。財布がないと不便だろうと、わざわざ作ってくれたのだ。貨幣がカチャカチャ音を立てないようにと、竹布のクッションまで添えられた逸品だ。


(財布の事なんて全然考えてなかったから、本当に助かった…)


 木古内(きこない)さんからは、(さや)付きの小刀をいただいた。枝葉(グローリー)が生えてきたら、これで切り落とせるようにという配慮だ。


(僕が気づかない所まで気を使ってくれて…。ありがとうございます)


 昆布(こんぶ)さんからは、竹の水筒をいただいた。もちろんお古ではなく、手作りだそうだ。水筒の脇には『ワンダ』とこちらの世界の言葉で彫ってある。


(お腹に多少は貯められるけど、これも助かる。大切に使わせていただきます)


 美唄(びばい)さんと倶知安(くっちゃん)さんからは、何やら精巧に作られた小さな木彫りのアクセサリー付きブレスレットをいただいた。ここには居ないが、長万部(おしゃまんべ)族長の指示で作られた、エルフの里出身者の身分証のような物らしい。


(見た目で怪しまれないように、身分証が貰えるのは助かるね!あんまり関わりは無かったけど、長万部(おしゃまんべ)族長、ありがとうございます!)


 母恋(ぼこい)ちゃんからは、物ではなく情報を貰った。ここから少し南の方に進むと”オパワカ”という、そこそこ大きな町があるという。ワンダから事務仕事をしようと思っていると聞いて、調べてくれたらしい。


(地理に疎いから、向かう方針が立てられて助かる!)


 そして、髪の毛()の中にはドングリがいくつか入っている。これも、大切な餞別の一つだ。


 たくさんの人に暖かく送り出され、まずは商人を待つ為に千歳(ちとせ)さんの元に向かうワンダ。――その心には、貰ったもの以上に貴重な物が詰まっている気分だった。


今回のまとめ

兄弟(ブラザーズ)からお土産

・思い出話ができるくらい、お世話になりました

・お見送りと、頂いた物と頂いたもの(気持ち)

 読んでいただき、ありがとうございました!

貴方に、満月の祝福がありますように…


私生活の事情により、しばらく更新が滞りがちになります。

11月後半には落ち着く予定です。

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