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45話 冬ガ来テ、動ク物語

後書きに活動報告的な事を書いてあります!

 冬が到来するまでの繁忙期は、非常に忙しいものとなった。例年よりは楽になったと昆布(こんぶ)さんは言っていたが、腐葉土だけとはいえ、ほぼ毎日運んでいたようだ。勿論(もちろん)猫草(グラ)に会うのを楽しみに通っていたのは言うまでもない。


 ワンダも、一番忙しい日には三回出撃したほどだ。乾燥食料がかさばって運びきれないので、母恋(ぼこい)ちゃんまで駆り出されていた。(なお)母恋(ぼこい)ちゃんのお駄賃はワンダのお給料から天引きされた。


(確かに助かったけどさ!理不尽じゃない!?)


 朝の薪拾いの時間は、腐葉土集めも追加されたことで、子供たちが大活躍だった。木古内(きこない)さんが、風を操って近場の腐葉土をかき集めると、こんもりと山になるのだ。その落ち葉のクッションに、我先にと頭から突撃していく子供たち。両手を真っ黒に染めながら、竹籠にこれでもかと詰め込んでいた。発酵が進んだ腐葉土だけでなく、落ち葉なども普通に混ぜられていたので、心配になって聞いてみたら『緑魔力でその辺は調整できるから問題ないのぅ。ふぉっほっほ』という事らしい。樽に詰めた後でも発酵が進み、畑に()く頃には丁度いい塩梅(あんばい)になるのだそうだ。


 そんな調子で集められた腐葉土は里で加工され、樽三つ溜まったら昆布(こんぶ)さんが出荷するという流れだ。子供たちだけで、毎朝一樽以上集まり、枝葉(グローリー)の収穫ついでに一樽くらいは集めていたようなので、毎日二樽ずつ生産する計算だ。寒くなって需要が落ち着くまで、里が一丸となって生産工場のように動いていたのが印象的だった。


 そして、ワンダの借金だが、気づいたら完済(かんさい)されていた。初めての環境で体験する繁忙期ということもあり、時間に押し流されるように働き続けていたら、いつの間にかお金が貯まっていたのだ。途中でお土産などの出費も何回かあったが、それを上回ることができたようだ。


(まぁ、あれだけ働いてマイナスだったら燃え尽きちゃうよね。はっはっは…)


 今現在の貯金額は、(ニェン)53,000だ。二ヶ月くらい働いた結果としては少ないかもしれないが、借金を返済してお土産も買ったうえでなので満足している。


 それと、里の人たちのワンダへの接し方にも変化があった。服を買ったおかげで対応が柔らかくなったのもあるが、繁忙期を経た今では、なんというか…普通になった。大変な時期を共有したことで、里にいるのが当たり前という、仲間に入れてもらえたような感覚なのだ。とはいえ”生理的に受け付けない”というような、相性が悪い人はもちろんいる。そこは地球でも同じだから、仕方ない部分だろう。


(合わない人はどうしてもいるから、距離を取るしかないよね。こういう閉鎖的な環境なら猶更(なおさら)ね)


 この里も悪くはないのだが、定住する場所を決めるのはもっと外を見てからでも遅くはない。少し大きめの町へ行く旅費くらいは稼げたし、雪で商人が来なくなる前に里を出ようと考えている。ここでの生活に馴染む為にたくさん喋ったおかげか、発音もかなりネイティブに近くなった。身だしなみを整えて会話も普通にこなせるとなれば、いきなり尋問されるような事態には(おちい)らないだろう。これで、旅の支度を整えたらいつでも出発できる。


(その前に、お世話になった人達には、お礼の品を贈りたいな)


 族長や美唄(びばい)さん、昆布(こんぶ)さん、倶知安(くっちゃん)さんは勿論(もちろん)母恋(ぼこい)ちゃんに、千歳(ちとせ)さん。他にも、深い付き合いにはならなかったが、世間話くらいはできるようになった人たちが何人もいる。


 木古内(きこない)さんのおかげで完成した竹馬は、収穫や悪路を渡ったりするのに使われるようになった。里の中にいきわたったら、商店でも販売する予定らしい。ワンダの竹馬については、流石にこれからの旅に持っていくには重すぎるので母恋(ぼこい)ちゃんにプレゼントしておいた。低いので練習して、もう少し大きくなったら収穫に使うような高い竹馬の練習を始めると言っていた。


木古内(きこない)さんは、年を考えてもう少し自重して下さい!)


 恵庭(えにわ)族長は、最初の頃の威厳はどこへやら。今では、世話好きなおばあちゃんとしか思えない。雨の日に少しずつ教わった魔力操作はそこそこ上達して、動きは遅いが水を腕に這わせるくらいは出来るようになった。これが今後の人生にどう役に立つのかわからないが、魔力操作の基礎が身についたのではないだろうか。ワンダが買った服は上下とも恵庭(えにわ)さんの作品だったわけだが、本人はそっけない態度で『そうかそうか。痛んだら格安で繕うでの』と言われただけだった。


(そっぽを向きながらだったし、もしかしたら照れ隠しだったのかな?)


 美唄(びばい)さんと倶知安(くっちゃん)さんは、お互い族長の右腕として忙しく動き回っている。という話を母恋(ぼこい)ちゃんから聞いている。まだ会ったことは無いが、そろそろオークなどの他の種族が食料を求めて出稼ぎに来るので、その準備で忙しくしているらしい。


(次に来るときには、二人そろって族長になっててもおかしくないね)


 母恋(ぼこい)ちゃんからは、里を出る前に一般常識についてレクチャーを受けた。やはり、ワンダの木の肌はあまり目にするような物ではないので、なるべく服で隠しておいた方が良いだろうと言われた。あとは、種族特有の注意点をいくつか教えてもらったが、こればっかりは個人差もあるので参考程度だ。実際に接してみて、一人ひとり理解するしかないだろう。


母恋(ぼこい)ちゃんも、本当にお世話になったなぁ。それにしても、エルフも森小人族(フォレストピクシ―)も、色んな人がいたね)


 森小人族(フォレストピクシ―)の渋い(おとこ)代表、蔵王(ざおう)さん。彼のカッコ良さを学ぼうと、隠れ里に行く度に観察してみたが『とりあえず落ち着いて行動する』という事くらいしか身につかなかった。外の世界でカッコ良さを磨き、里へ戻った暁には彼と語り合いたいものだ。


蔵王(ざおう)さんは、心の師匠。押忍!)


 昆布(こんぶ)さんは、第一印象こそ最悪だったが、エルフの里の中では一番お世話になった人だろう。新しい事を始める時は、いつも(そば)でサポートしてくれて助かった。美唄(びばい)さんに憧れて仕事を頑張っているらしいので、そのうち美唄(びばい)族長、昆布(こんぶ)族長補佐なんてことになっているかもしれない。里に戻る時の楽しみにしておこう。


(そういえば昆布(こんぶ)さん、猫草(グラ)がすっかり大きくなったのに、まだ液肥を手で飲ませてるんだよな。子離れできないお…。いや止めておこう)


 そして、千歳(ちとせ)さん。会ったのは里に来てから後半だったが、植物同士ということでとても話しやすかった。エルフ達と違って、第一印象の悪さが無かったからだと思うが、雑談から相談まで色々と話し相手になってもらった。千歳(ちとせ)さんは本体の樹から離れることが出来ないため、人の話を聞くのが好きで、とても聞き上手だった。里に戻る時には、たくさんお土産話をしたい。


(長命種らしいし、長い付き合いになりそうだな。千歳(ちとせ)さんに会いに、定期的に里帰りしそうな予感)


◆ ⁂ ◆


 明日はいよいよ里を出発する日だ。


 ひょんなことから、しばらく暮らすことになったエルフの里。最悪の出会いも、今となっては笑い話となって…いるのか怪しいが、深く考えると余計な記憶が蘇りそうなのでそっとしておく。


 お世話になった人達への挨拶回りも終え、あとは商人が来るまで千歳(ちとせ)さんの商店で待たせてもらう予定だ。馬車で近くの町まで乗れればいいが、振動で酔ってしまうので、道を教えてもらって歩いたほうが良いだろう。


 所持品は、ティーナカさんとエスズキさんの森を出発した時と比べると、少し増えた。貰ったズボンと、買った服。使い古した背負子(しょいこ)を持って行ってもいいと言われたが、積むほどの荷物が無いので気持ちだけありがたく頂いた。竹馬は母恋(ぼこい)ちゃんにあげたし、相棒の杖である栗毛(くりげ)も卒業した。この繁忙期に、重い荷物をしょって商店まで何往復もするというハードトレーニングを行った結果、歩くだけなら補助なしで問題なくなったのだ。まだ使えるが、酷使してしまったので痛んできており、千歳(ちとせ)さんには買取は難しいと言われてしまった。捨てるのは忍びないので、千歳(ちとせ)さんの近くの使っていない(うろ)で保管してもらうことにした。


 里での思い出に浸っていると、物と別れるのは寂しいが、人との別れにそういった感情が動かないことに気づいた。


(物には愛着が湧くけど、人には湧かない…のかな?人との別れは当然って思っちゃうな。冷たい人間…僕はまだ人間なのか?)


 これも、木の体に入った影響なのだろうかと思ったが、それほど興味は持てなかった。自分が人間であろうとなかろうと、あまり違いは無い。そんな感想しか浮かばなかった。


(さて、そんな事よりも。明日は、最後の薪拾いと枝葉(グローリー)の収穫だ。日が暮れる前に千歳(ちとせ)さんの所へ向かって、あとは…)


 やり忘れたことは無いか、挨拶を忘れている人はいないか、最後の点検をするワンダ。――頭の上には、明るく森を照らす満月が、ワンダの門出を祝福するように輝いていた。


今回のまとめ

・繁忙期の回想

・そろそろ里を出ようと決意

・出会った人達との思いで

・出発を明日に控えて…

 読んでいただき、ありがとうございました!

貴方に、満月の祝福がありますように…


 次回が栗林回と娘との旅の再開となり、一章が終了となる予定です。思ったよりも長いチュートリアルとなってしまいました。そして二章からはいよいよ、ギルドを舞台とした物語が動き始める…予定です。おおまかなプロットはあるのですが、書いているうちにキャラクターが勝手に動くから、話が全然進まない。


 ということで、今後もどうぞお楽しみに!


暫定ですが、千歳商店のラインナップです。

◆◆◆千歳商店◆◆◆

(販売価格)※買取価格は半額

安価で高品質な商品を取り揃えて、ご来店を心よりお待ちしております。


・紙(50円/枚)

・圧縮木材皿(100円)

・竹水筒(150円)

・圧縮木材スプーン(200円)

・液肥【安い】(300円/本)

・防虫剤(500円/本)

・安い大樽(500円※圧縮無し、隙間あり)

・液肥【高い】(600円/本)

・乾燥マルベリー(700円)※豊作につき値下げ


(1,000円)

・エルフの里産お茶各種

・干し柿

・干しミカン

・干しイモ

・干し昆布【少】

・干し小魚【少】

・塩【少】

・防虫剤【高い】


(2,000円~)

・干し昆布【並】

・干し小魚【並】

・塩(並)

・インク壺【小】

・腐葉土【安い大樽】(約六〇キログラム)

・小樽(2,000円)(圧縮、防水)

・中樽(4,000円)(圧縮、防水)

・大樽(1,000円)(圧縮、防水)

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