43話 金で信頼を買う?
急激な気温の変化で自律神経がやられてしまい、なかなか作業が進みません…。
皆様も、体調を崩さないように暖かくしてお過ごしください。
入浴や暖かい飲み物、運動が効果的だそうです。
2025.10.02 加筆修正
悲報、ワンダの借金が激増してしまった。
「毎度あり~!この調子でどんどん稼いで、じゃんじゃん買い物をして欲しいねぇ!」
にっこにこの千歳さんと対照的に、稼いだはずのお金が消え、借金が増えてしまったワンダは愕然とした。
(前回、あんなに余計な物を買わないようにって誓ったはずなのに…。千歳さん、怖い!!)
今回の運搬による稼ぎは、諸々合わせて¥8,500だった。運べる量が増えたことで、右肩上がりで順調だ。そして、ツケの残りが¥6,900。購入した服が22,000円。差し引きで、借金の残りは…¥20,400だ。
(おかしい!稼げば稼ぐほど借金が増えていく!商店に来る回数自体を減らさなきゃダメか!?いや、一回で高額の支払いになれば意味がない。今回は必要な物だったんだし、経費と考えれば。いや、でも…)
元々、服を買うつもりではあったのでそこは良いのだ。問題は、完全に予算オーバーとなる高級品を買うことになってしまったことだ。こんな事になるのであれば、ズボンも含めて安物で揃えた方がむしろ安上がりだったかもしれない。
(まさか、恵庭さんと千歳さんがグルで、最初から計算されて…!)
疑心暗鬼になって、ありもしない事を考え始めたのが雰囲気で伝わったのか、はたまた魔力から考えが読み取られたのか。服を点検していた千歳さんが、呆れたような表情で言ってくる。
「何を思いついたのか知らないけどねぇ。安い方は食器と同じで、子供が練習で作ったやつだから長持ちはしないんだよねぇ。大人の作品、それも恵庭ちゃんが作ったものなら、高くても丈夫で長持ちするから、結果的にはお買い得だと思うけどねぇ?」
確かに、地球でも”安物買いの銭失い”と言ったものだ。ぐうの音も出ない。それでも『千歳さん以外の大人が作ったものであれば、丈夫でもう少し安い物が』とグダグダ考えていると、千歳さんから服を渡された。
「ほい。虫食いもほつれも無いし、状態は申し分なかったよ。相変わらず恵庭ちゃんは良い仕事するねぇ。…商品を見つめてそんな不景気な顔をするのは、流石に失礼じゃないかねぇ。物は確かだよ?」
「あ…、ごめんなさい」
「それに、しっかりした物を身に着ければ、周りの見る目も変わるかもしれないしねぇ。しばらく着てみて、それでも気に入らなければ返品してくれればいいよぉ」
ワンダのあんまりな態度を見かねてか、そう申し出てくれた千歳さん。周りの見る目の事を指摘されて、噂の件を思い出したワンダは『多少でも効果があるなら』と、期待することにした。さっそく服を着てみると、丁寧に作られており、それでいて体に合わせて立体的に作られている。随所に着る人への気遣いが感じられる、作り手の誇りを感じるような上質な服だった。
(手作りでここまで作りこむのは大変だっただろうなぁ。高いだけはあるね)
値段だけで落ち込んでいたのが、少し申し訳なく感じてきたワンダ。千歳さんからも、お褒めの言葉をいただいた。
「うんうん。”小鬼に王冠”じゃないか、見違えたねぇ。昆布ちゃんにも見てもらったらどうかねぇ?」
(小鬼に王冠?馬子にも衣裳的な諺かな?)
「そんなにカワリますか?分かりました、ちょっとミテもらいます」
到着してからずっと猫草に付きっきりだった昆布さんに声をかけると、ワンダが居たことにすら気づいていなかった。
「あ、ワンダ様!もう来てたんですね。あら、いつの間に服を…。おー、なかなか良い作りの服ですね。凄く印象が良くなりました。やっぱり、肌が隠れたのが良いのでしょうか」
(肌が隠れた…。千歳さんみたいな存在もいるのに、木の肌は異質なのかな?単純に露出が減った的な意味かな。なんにせよ、印象が良くなったなら良かった!)
服を買ったかいがあったと喜ぶワンダ。外套を羽織っていたことで気にしていなかったが、そもそも上半身が裸という時点で印象が悪いのは当たり前だったのかもしれない。おまけに、異世界でも木の肌が異質なのであれば、言わずもがな。
(あんまり意識してなかったけど、僕って地球にいた頃から常識がなかった…?)
異世界にきて衝撃の事実。今となっては分からないが、もしかしたら地球にいた頃から変人扱いや顰蹙を買っていたのかもしれない。これからの生活に、これ以上の悪影響が出ないように気を付けたい。
(ただ、肝心の”何に気を付ければいいか”が分からないんだけどね)
そもそも”一般常識について異世界の人に聞く”というのは妥当な判断なのだろうか。
(昆布さんや美唄さん、倶知安さんなら常識人枠だけど、あの人たちは忙しいからなぁ。他の森小人族組は論外。となると…。やっぱり母恋ちゃんかな)
親子ほど年の離れた女の子に、常識を教えてもらうというのは傍目にも外聞がよろしくなさそうだが、この世界で上手く生きていく為には必要なことだと割り切る。
(それに、母恋ちゃんは九十代で、僕より年上だしな。エルフの中では子ども扱いでも、僕にとってはおばあちゃ…。あぁ、こういうのも、もしかしてダメかな?)
エルフの里へ来るきっかけとなった尋問の事を思い出して、そっと地雷原から離れるワンダ。この世界においては、何を考えているのか察知される場合もあるので、頭の中の独り言であっても気を付けなければいけない。
それにしても、ワンダが到着してからかなり時間がたっていると思うが、昆布さんの時間は大丈夫なのだろうか?そろそろ戻って仕事をしないと、怒られてしまうのではないだろうか。
「昆布さん、ジカンは大丈夫ですか?」
「時間…?っ!やだ、戻らないと!あ、千歳さん、納品依頼書ください!それと、これ里からの購入依頼書です!」
雲の隙間から覗く太陽の傾きから、かなりの時間が過ぎていたことに気づいた昆布さんは、慌てて支度を始めた。里からの購入依頼のうち、在庫からすぐに持ち帰れる物をバタバタと梱包すると、いつの間にか眠っていた猫草をそっと撫でてから里へ走って戻っていった。
(あの様子じゃ、猫草のことを聞かれたらベラベラ喋っちゃって、楽しんでたのはすぐバレそうだけど)
休日という概念が無さそうな里の人たちなので、楽しい話には飛びついてくるだろう。自分だけ楽しんできてずるいと責められなければいいのだが…。昆布さんが夢中になるのも分かるくらい、あどけない寝顔を見せてくれている猫草を見ながら、そう思ったワンダ。そして、先程のやりとりを思い出して、ふと疑問が浮かんだ。
(ん…?そういえば、昆布さんと千歳さんは、お金のやり取りしてなかったな)
「千歳さん、昆布さんとのシハラいはどうやっているんですか?」
「あぁ、昆布ちゃんの品物は、里で共同購入するものだから帳簿上で計算しているんだよ。お金を持ち歩くのも重たいからねぇ」
(なるほど、ここまでの距離もそこそこあるし、その方が効率的か)
もう少し商店が近かったら、違っていたのかもしれないが、その場合は外の商人が訪れ辛くなってしまって取引が減ってしまうかもしれない。なかなか良いバランスの上で成り立っている商店のようだ。そういうことも見越してここに本体を植えたのだとすれば、千歳さんの先見の明は人並外れた物と言えそうだ。
「ふふん、もっと褒めても良いんだよ?」
何も言っていないのに、千歳さんがドヤ顔をし始めた。
(考えが読まれ過ぎて怖い。長居するのは止めよう)
猫草も寝てしまったことだし、午前中はこれでお暇することにする。昆布さんが持ってきた購入依頼書から、ワンダが持ち帰れそうな商品を見繕ってもらって、背負子に積み込む。
「後でもう一回来るんだよね?往復の運搬料は、戻ってきた時に計算するからねぇ」
「ワカリました、また後で」
ワンダの休憩時間も十分取ることができたので、荷物の積み込みが終わり次第出発する。
ギッシトン、ギィトン、ギッシトン、ギィトン
帰り道の荷物も50キロ近くあるようだが、重さに慣れたので40分くらいで到着できそうだ。
(里へ戻って小休憩を挟んだら、もう一往復。暗くなる前には、なんとか帰ってこられそうだね)
2回目の荷物は、枝葉の収穫による報酬は無いので純粋な運搬料のみとなるが、疲労に対して報酬は割に合うだろうか。そんな事を考えながら黙々と荷物を運ぶワンダだった。
今回のまとめ
・膨れ上がる借金
・買ったかいはありそうな高級服
・一般常識の先生を探しています
・一日二回行動スタート!
※小鬼に王冠 - みすぼらしいゴブリンが王冠を被ったことで、威厳を感じられるように見違えた。という異世界の諺。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




