41話 冬に向けて
書いてるうちに、秋に突入しました。
歩荷としての初仕事を終えて、翌日。薪拾いを終えて、昆布さんと合流した。母恋ちゃんへのお土産は昨日のうちに渡したが、昆布さんへの昆布は、里へ寄った時に渡そうと考えている。
(昆布さんに昆布。安直だけど、喜んでくれるのかな?)
「昆布さん、ロンニヒワ」
「ワンダ様、ロンニヒワゥ。昨日は千歳さんの所でしたよね?」
「えぇ。またおミヤゲヲ買ってきたので、サトヘモドッたラワタシます」
喜んでくれてはいるようだが、少し困惑している様子の昆布さん。
「ありがとうございます。でも、毎回じゃなくても大丈夫ですよ?…もしかして、千歳さんに買わされました?」
「ハッハッハ…。まぁ、そンナトこロです。でも、かンシャいるのはホントウですから。こンカいハ、美唄さんにもカッテきました」
「千歳さんは口が上手いから、皆よく買わされてますよ。要らない物って訳じゃないんですけど、ちょっと買い過ぎちゃうんですよね」
「そうなんですよ。ちょっとしたザツダンかラどんどんとせンタくシガナくナッテ、いつの間にか…」
「そうそう。前なんて…」
昆布さんにも経験があるのか、共感してくれて話が盛り上がった。キリがいい所で、猫草の情報を伝える。
「そうそう。猫草なんですが、にワにうえラレテメガ出てます。テンきシダいデすガ、五日くらいで出てくるそうです」
「五日後ですか。ちょうど曇ってくれれば一緒に行きたいですね」
「そうですね」
そう都合よく曇りになることは無いだろうが、お祈りするだけならタダである。
(猫草が育つまでは晴れて、土から出てくる日だけ曇りますように。流石に欲張りすぎかな?)
そんな事を考えつつ歩いているうちに、里へ到着。昆布さんが薪を置きに行っている間に、お土産を取りに行く。少ない方を選んだので、片手に収まるくらい小さな木箱だ。海のある地域で作られたのだろうか、この辺りでは見ない木材で作られており、少し磯の香りがする気がする。
「お待たせしました、おミヤゲです」
「ありがとうございます。前回はお茶でしたが、今回はなんでしょう…。っ!昆布ですか!」
昆布を見つめる昆布さん。その表情から喜怒哀楽を読み取るのは難しい。
「…キライでしたか?」
「いぇ、名前にするくらい大好きなんですが…。子供の頃よくからかわれたので、それ以来あんまり食べてなくて。自分で買いに行くと、またからかわれるんじゃないかと心配で、なかなか手が出せなくて。だから、ありがとうございます!」
複雑な感情が心の内に渦巻いた結果、喜びが表に出てくるまで時間が掛かってしまったようだ。最後には、はにかむ様な笑顔を見せてくれたので、喜んでもらえたようでほっとした。
(高いから並サイズは難しいけど、少なめサイズなら母恋ちゃんのと同じタイミングでまた買ってこようかな)
無事にお土産を渡せたので、美唄さんへのお土産を昆布さんに持ってもらって、枝葉の収穫場へと出発した。
ギッシトン、ギィトン、ギッシトン、ギィトン
◆ ⁂ ◆
時間通りに収穫場へ到着。昆布さんに速度を合わせてもらわなくても、並んで歩けるくらいになってきた。まだまだ杖は手放せないが、順調に成長しているのが実感できてうれしい。
「美唄さん、ロンニヒワ」
「ワンダ様、ロンニヒワゥ。…これは、私にですか?」
「ショうテンデかッタおミヤゲです。千歳さんが『美唄さんのおキニいリだよ』と言っていました」
「また高い物を売りつけて、まったく…。いや、頂き物にケチをつけるのは失礼ですね。ありがたく頂戴いたします。ところで、前回よりも重かったと思いますが、大丈夫でしたか?」
「もう少しおモクてモダいジョうブそうです」
「分かりました。今回の量であれば、月に三回の納品になります。次回は月に二回で済むくらいにしてみましょう。重すぎたら減らしますので仰ってください」
「了解です」
(美唄さんは今まで月に一回行ってたんだよね?って事は、一回で百キロくらい運んでたのか…)
たとえ百キロの荷を走って納品していたとしても、美唄さんだからと納得できてしまう。山のようにうず高く積まれた荷物が、高速移動している姿を幻視して身震いするワンダ。
(現実離れしてるけど、この世界ならあり得るんだよな…。身体能力が人間離れしてて恐ろしい…エルフコワイ)
いくらこの体が頑丈でも、一度に百キロの荷を担ぐのは、さすがにバランスを崩しそうだ。五十キロを二回の方がちょうど良いだろう。幸い、筋肉疲労が起きるような体ではないので、運動量に制限がないのは強みとして活かしたい。それでも、長時間体を操作すると、車の運転と同じように精神的に疲れてくるので、どうしても休憩は必要になる。商店まで四十分ほどで着けるようになったことだし、休憩を挟みつつ午前と午後の、一日に二回納品を考えても良いかもしれない。
(二回に分けた方が、調整できて良いかな?その辺は千歳さんと相談してみよう)
自分だけで考えていても仕方ないと思考を切り替えて、千歳さんからの『納品依頼書は次回』という伝言を伝える。
「分かりました。今はこのくらいの量ですが、これから冬ごもりに向けて、外との取引が大幅に増えてきます。帰りにもたくさんの荷物をお願いすることになるかと思いますが、よろしくお願いいたします」
「はい、がんばります!」
往路だけでなく復路でも運搬料が入ってくるのだとすれば、良い稼ぎになりそうだ。五十キロと言わず、もっと運べるようにしておかないといけないかもしれない。冬ごもりへ向けて、枝葉の収穫の重要性も上がってくるだろう。
(たくさん運んで、たくさん稼ぐぞ!)
忙しくなりそうな予感とともに、書き入れ時の到来にワクワクしてきたワンダだった。
今回のまとめ
・お土産を喜んでもらえてよかった
・これから歩荷の繁忙期!
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




