40話 野生の商人がバトルを仕掛けてきた!
お買い物、得意ですか?日本だと、買い物時にやりとりって一部の地域でしか無いイメージです。
納品と査定が無事に終了した。
「さて、こちらが今回の買取金額です。確認してねぇ~」
「ありがとうございます」
期待が膨らむその金額は果たして――。
(¥6,600…!?随分と少ないな…)
「ん~、何か不満でも?」
予想外に少ない金額に驚いていたら、胡乱な目つきで見られてしまった。
「あぁ、すみません。ゼンかいよりもおモタいから、もう少しタかイトオモッテいたので」
「確かに、今回は重たい荷物ばっかりだったねぇ。まぁ、重さで金額を変えてるわけじゃないんだけど。内訳はこんな感じだよ」
査定金額を計算した時の紙を見せてくれた。
・液肥(安)8本+(高)2本…1800円
・食器(皿、スプーン)30組…4,500円
・運搬料…300円
・合計…¥6,600
「あぁ、そうか…。カうトきノきンガくデケいサンしちゃってました」
「あっはっは、そりゃ流石に勘弁して欲しいねぇ。これでも商売だから、利益を出さなきゃ潰れちゃうよ。まぁ、買う時の半額くらいと思っておけば大体合ってるんじゃないかねぇ?」
前回買った時の値段に引っ張られてしまったようだ。
(なるほど…。でも、軽いからってお茶の葉ばっかり納品するわけにもいかないよね。あんまり気にしてもしょうがないか)
雇われ歩荷になったのだから、運ぶ荷物の種類は指定できないのだ。それに、次回は50kg近い荷物になるだろう。
(運べる重さが増えれば、自然と買取価格も上がるだろうし。訓練をもっと頑張ろう!)
どのみち言われた通り運ぶだけなのだからと、難しいことを考えるのを放棄したワンダだった。
「金額が確認できたなら、これは回収するねぇ。ツケの残りは…¥2,300だねぇ。さて、何か買っていくかい?」
千歳さんが良い笑顔で『買ってくれるよね?』と無言の圧をかけてくる。
(まったく、いい性格してるな)
商売人としては正しいのだが、このままではお金を貯められる気がしない。そして始まる、怒涛のセールストーク。
「そうそう。猫草は種ができてたから、昨日庭に埋めたところだよ。早く発芽させたいなら、液肥を買うと良いかもねぇ?」
(自分家のペットの餌を買わせるつもりか!)
「昆布ちゃんと仲が良いんだろ?早く猫草に会いたいんじゃないかねぇ?」
(ぐぬぬ、しょうがない…)
「ワかリました、カイます…」
「毎度あり~!ちなみに、猫草は高いほうの液肥に目がなくてねぇ。こっちで良いよね?」
「あ、はい」
さらっと高い方を選ばされてしまった。
(商人怖い…。選択肢が『はい』しかないよ!)
「仲良くしてる女の子の…母恋ちゃんだっけ?今回のお土産はどうする?」
(よく覚えてるなぁ。前回の雑談でちらっと話しただけなのに…)
「昆布ちゃんにも買っていくでしょ?…片方にだけ買っていったら、かわいそうだよねぇ?」
(そんなこと言われたら、買わざるを得ないじゃないか!言い方が卑怯!)
「そうそう。美唄ちゃんは、納品に来た時は毎回干した小魚を買って帰ってたよ。世話になってるんだから、たまにはお土産渡したほうがいいんじゃないかい?」
もはや、言われるがままに商品を選び続けるワンダ。買い物の勉強代と諦めて、素直に従うことにする。
「あ…、はい。じゃぁ、コレとコレと、美唄さんのこザかナヲおネガイします…」
母恋ちゃんには、甘味が好きそうなので干しミカン。昆布さんには昆布を選んでみた。名前からして昆布が好きなのではないかと、前から気になってはいたのだ。どんな反応をするのか、今から楽しみだ。
「毎度あり!払いが良い男は好きだよ!」
「どうも…。ちなみに、コザかナと昆布はオいクラですか?」
「この量で2000円だねぇ。産地が遠いから、加工と輸送でちょっとお値段がねぇ」
(高い!昆布さんには申し訳ないけど、昆布は少なめのにしよう…)
お会計は、干しミカン1,000円、干し昆布(少なめ)1,000円、干し小魚(並)2,000円、液肥600円。合計で4,600円となった。
「んーと…、これでツケは¥6,900だね。このくらいなら、一生懸命働けばすぐ無くなるよ。頑張ってねぇ~?」
ホクホクといった様子で、満足そうな千歳さん。ギリギリプラスにはなったが、千歳さんの手のひらで踊らされた気分だ。歴戦の商人にとっては、お金を稼いだばかりのワンダなど、良いカモだったに違いない。
(ギリギリプラスになったのも、もしかしたら計算尽くしなのかもなぁ…。これからは雑談レベルでも、気を付けないと搾り取られそうだ…)
少なくとも、骨までしゃぶりつくされるような悪徳商人では無いので、いい勉強になったと思うしかない。次からはもう少し緊張感を持って取引に臨もうと思う。隙を見せたら、あっという間に買わされてしまうだろう…。
◆ ⁂ ◆
液肥を猫草に与えに行くと言うので、庭を見に来た。
「ここだよ~」
ちゃぱちゃぱと液肥をかけている地面は少し盛り上がっており、植物の芽が小さく顔を出していた。
「いツゴロ、ツチかラデテきますか?」
「んー、液肥があるから…。天気次第だけど、5日くらいかねぇ」
「ケッコうハヤいですね」
「まぁ、出てくると言っても本当に小さいけどねぇ。しばらくは、液肥を飲んではお昼寝の繰り返しだねぇ。元の大きさに戻るには、時間が掛かるよ~」
動物と植物の違いはあるが、幼体の行動は似るのかもしれない。昆布さんが会いたがっているので液肥を買ったが、猫草の新芽を見たことで、ワンダも待ち遠しく感じ始めた。
(人の赤ちゃんすらあんまり近くで見たことないから、成長が楽しみだな)
猫草を挟んでしばらく雑談をしているうちに、太陽が傾いてきた。あんまり暗くなってしまうと、足元が見えなくて転んでしまう。また泊まるのも悪くはないが、雨でもないのに泊まって変な噂が流れても困る。猫草の芽を軽く突いて「また来るよ」と挨拶してから庭を後にする。
「猫草ガデてクルこロニ、また来ます」
「しっかり世話しておくから楽しみにしててねぇ。美唄ちゃんに会ったら、納品依頼書は次回渡すって伝えておいて~」
「ワカリました。では」
ギッシトン、ギィトン、ギッシトン、ギィトン
帰りの荷物は軽くはなったが、気持ちは軽くも重くも無い。『一歩進んで半歩下がる』そんな気分だった。
(お土産の反応は楽しみではあるけど、毎回買ってたらお金がいくらあっても足りないよなぁ…。借金は多少減ったけど、完済するにはまだまだ時間がかかりそうだ…)
買い過ぎを防ぐにはどうすればいいのか――。思案を巡らせつつ、暗くなる前に帰らねばと、里への帰り道を急ぐワンダだった。
今回のまとめ
・たくさん運んだのに…まぁしょうがないか
・商人千歳の手のひらで踊るワンダ
・お財布が軽くなっちゃったけど、お土産の反応が楽しみ!
・猫草が出てくるのが楽しみ!
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




