3話 新しい体ってワクワクするよね?
実際、”物”に精神を入れられたら、どれだけの人が耐えられるんでしょうか?
2025/8/20 加筆修正
暗闇に漂っていた意識が、何かの振動によって浮上してきた。
(おーい!)
(生きてるかーい?)
「コンッ、カンッ、コンコンカンッ!」
リズムよく叩く音が聞こえてくる。声も聞こえてはいるが、壁越しのようにくぐもっていて聞き取りづらい。
ピ「あ、気づいたみたい」
青「このまま起きないのかと思ったよ」
(洒落にならないので止めてください)
ピ「まぁまぁ、結果オーライ!」
青「音は聞こえてるみたいだし、次は外を見てみて!」
(真っ暗で何も見えないんですけど、もう体に入っているんですか?)
ピ「うん、もう入ってるよ〜!これで消滅の危機はとりあえず去ったね!」
青「選ばれし者よ!体を使いこなすためにも、五感を手に入れるのだ!」
(了解です。で、どうやって外を見れば…?)
ピ「まずは体がどんな形をしているのか、内側から探ってみて!」
青「体の中は空洞になってるから、ある程度形は掴めると思うんだけど。どうかな?」
(中が空洞…。今いる場所の、壁が体の内側の壁って事ですか?)
ピ「そうそう。今感じてる部分は胸の部分だね。で、壁を伝って頭を見つけるのだ!」
青「分かれ道は、股の所で太ももの方に分かれてる太い道と、そこそこ太い首の道。両脇に分かれてる、腕に繋がる細めの道があるよ~」
(分かれ道が…こっちは二つ。反対側は…三つ。こっちが頭ですね)
ピ「下にも、三つ目作ろうと思えば作れるよ。機能は付けられないけどね!」
青「そういう事言わない!」
ピ「え~、でも何か飲んだらおしっこした方が良いんじゃない?」
青「それもそうか。付けとく?」
(今のところ、必要ないので遠慮します。では、こっちの真ん中に入ってみます)
ピ「首を伸ばす感じが良いかな?体中に意識を伸ばすイメージでやってみよう~」
青「そうだね。最初は首を伸ばす運動から〜。始め!」
二人の賑やかな声を聞きながら、言われた通り首を伸ばすイメージで、頭があると思われる狭い穴へと意識を向ける。
狭い穴を通れるか不安だったが、実体がないおかげで抵抗なくすり抜けることができた。
(頭の中に入れたみたいです。隙間から光が入ってきてるけど、ここは口かな?)
ピ「そうだね!開けてみるよ~」
青「御開帳~!」
(うぉ!まぶしっ!)
閉ざされた口の隙間から、わずかに漏れていた光。しかし、口がこじ開けられた瞬間、目を焼くような強い光が一気に差し込んできた。
ピ「今更だけど、その状態でも視覚はあるんだね。黒いモヤモヤにしか見えないけど」
青「まるでユーレイだね!」
ピ「ユーレイなんて居ないから!」
青「あはは!んじゃ、そろそろ口は閉じるよー」
ピ「次はちゃんと目から外を見てみてね~」
(分かりました)
再び薄暗がりとなった自分の頭の中で、目玉を探し始めた。
(小さい丸い物が2つ並んでる。ここかな?)
ピ「そうそう。木材で作った目玉だから、光は透けないけどね」
青「光が入るように穴を開けるよ~」
そう声が聞こえたかと思うと、「にゅっ」と小さな穴が開き光が差し込んできた。
(外は見えました。これでどうすれば?)
ピ「その体を自分だと認識しないと、上手く動かせないからね。まずは、両目で外を見るのに慣れてみよう!」
青「片方の穴からじゃなくて、両目で外を見るように二つの目玉に意識を向けてみて!」
「言われた通りやってみます」と言いたいところだが、二つの穴に意識を向けると集中が分散してしまい、うまくいかない。
(なかなか難しいですね)
ピ「ん〜。じゃぁ、顔の位置は分かったんだし、お面を被るよう様なイメージでやってみたらどうかな?」
青「目の位置を基準にして、仮面を被るように!」
(分かりました、やってみます。目の位置を目印に、頭を合わせて…。仮面を被るように、位置が合うまでは目を瞑って…。この辺かな?)
ここだと思う場所で、目を開き、焦点を合わせるイメージをする。
(お、ちょっと視界が狭い気がするけど両目で見れたみたいです)
ピ「おめでとう!これで、その体で生きていく第一歩だね!」
青「こうやって慣れていけばすぐだよ!」
(そうですね、ゆっくりやってみます)
ピ「次は耳だ!」
青「こっちも貫通ぅ!」
キュポポッ!
時間はかかりそうだったが、悲観はしていなかった。足りないとばかり思っていた時間が、今は余るほどある。時間さえかければ、きっと何とかなる――。
期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱きつつも、ある意味では望んでいたこの体と、静かに向き合い始めた。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




