25話 ある日 森の中 商店に 出会った
後書きに、挿絵があるのでお見逃しなく
2025/8/27 加筆修正
日が暮れてきたので、今日の枝葉の収穫は終了となった。
昆布さんが拾ってきてくれた手ごろな大きさの棒を両手に装備して、美唄さんと里のはずれにあるという商店を目指して歩いている。ちょっと頼りない細枝だが、2本足の時よりも安定していて速度が上がっているように感じる。
出発準備が整うや否や、美唄さんにひょいと担がれてしまったのだが、昆布さんが『ワンダ様は、杖を使って練習したいそうです』と説明してくれたのだ。美唄さんも納得して『暗くなってきたら担ぎますからね』と言って、優しく降ろしてくれた。
手で上半身を支えられるようになったので、なるべく大股で速度を意識しながら歩く。
ギッッシィ、ギィ…、ギッッシィ、ギィ…
(歩幅は美唄さんと同じくらいかな?あとは速度が合わせられれば、担がれる事はなさそうだね。これで、白い目で見られることも減る…はず!)
希望が見えはじめて、やる気が湧き出てくる。
「あト、ドのクらいデつキマすカ」
「この速度だと、日没を少し過ぎたくらいかと。帰る頃には真っ暗ですね」
(ん~…。流石にここで我儘は言えないな。暗い森なんて危なそうだし、練習はまた明日にしよう)
「スみマせン、かツいデもラッてモいいデショうカ?」
「かしこまりました」
ワンダを軽々と担ぎ上げた美唄さんは、杖代わりの棒を器用に片手で持ち、駆け足で移動し始めた。次第に速度は上がっていき、しまいには競走馬も顔負けの全力疾走を始めた。
人の走る速度にしては早すぎるそれに疑問を感じ質問してみるが、担がれている振動で上手く喋れない。
「ビビぶぅアいさンン、あアしヌィにまりリョくゥおヲつかカカッてテェいルゥんデすかカァ?」
「すみません、何を仰っているのか分かりません。到着したら伺います」
体感で数分、悪路を走行するトラックの荷台で揺られるような振動の後、ゆっくりと美唄さんが停車した。
「お疲れ様です、到着しました。少し本気で走ってしまいましたが、大丈夫でしたか?」
『本気を出した』と言っているが、顔色も変えず汗もかいて無い。普段から鍛えているのだろうが、恐るべき身体能力だ。
「えェ…なンとか。ビバいサん、はシるとキにまリョくをつカッていマすカ?」
「そうですね。特に意識していないのですが、力むと魔力が補助してくれているようです」
(なるほど。僕も歩く時に、魔力を意識したら早く動けるようになるかな?)
酔って気分が悪くなったのを落ち着かせるために座り込みつつ、魔力を使った歩行について考えていると、背後から木が擦れる様な音と声が聞こえて来た。
ギィィィィ…、ギギギィィ…
「おや、美唄ちゃんじゃないかい。大きくなったねぇ」
「千歳さん、お元気そうで何よりです。それと、先週も来ましたよ」
「おや、そうだったかねぇ」
そこにいたのは、女性のようなフォルムだが、木が変形して人型となったような、動いて喋る植物という奇妙な存在だった。
(人のこと言えないけどね)
足に当たる部分が木の根になっており、見上げてもてっぺんが見えないほど大きな大樹と繋がっている。
「ワンダ様、こちらドリアード族の千歳さんです。エルフの里の余り物を、外の商人と交易してくれているのです。千歳さん、こちらワンダ様です。奥の森に住んでいるという精霊様の遣いです。」
「ロンニヒワ、ワンダデす」
「ロンニヒワン、千歳です。ふむ?体が木だけど、同族という訳ではないみたいだねぇ。中に何か…闇属性の魔力かい?変な体してるねぇ。おや、その体まだ生きてるのかい?」
「そうなんです、それに体から生えてくる枝葉には…」
美唄さんが枝葉の説明をしてくれる。
「ほ~、大樹では聞いたことあるが、こういう状態でも効果があるとはねぇ。きっと優しい子だったんだねぇ」
千歳さんは、愛おしそうにワンダの体を撫でる。ワンダの体になった元の樹を労わっているのは分かるが、自分のことのように照れ臭く感じてしまう。
「あノ…」
「おや、すまないねぇ。遠い知人にあったみたいで、嬉しくなっちゃってねぇ」
「ボくも、キのカらダのひトにアッたのハこれガはジめてデ、すゴくうレしいデす」
(まさか、こんな体になってから同類に出会うなんて思ってなかったな)
「同じ植物のよしみで、仲良くしてねぇ」
「こちラこソ、よロしクおネガいしマす」
挨拶が終わったところで、美唄さんから帰宅を促される。
「ワンダ様、そろそろ日が暮れます」
「わカりマしタ」
(同じような体だし、千歳さんの近くに住むのも良いかもしれないな)
降ってわいた思わぬ出会いに、親近感が湧いたワンダ。近いうちにまた来ると約束して、美唄さんに担がれて商店を後にする。
(あ、時間が無くて買取してもらうの忘れてた!)
もう少し、色々な物を報酬で貰ってから行こうか。お金が貯まったら、何を買おうか。帰り道でも激しく揺さぶられながら、買い物できる日を待ち遠しく思うワンダだった。




