23話 信を欲する者は、童心を射よ
エピソードタイトルを変更しました
2025/8/27 加筆修正
「うォォ?おもイィイ!」
子ども達が無邪気に隙間へ押し込み続けた結果、伸縮性が無い筈の竹籠が歪に膨らみ、悲鳴を上げているように見える。なんとか持ち上げようと試みるも、重さで負けてしまってびくともしない。
「早く運べよ~」「運べよ~」
近すぎる場所から声が聞こえるのを不思議に思い、籠の方を振り返る。
なんと、以前にワンダの髪の毛を毟り取ろうとしたクソガキ1号&2号が籠によじ登っているではないか!子どもとはいえ、二人もいればそれなりの重さだ。籠の中身と合わせれば、そりゃあ動くわけがない。
「かゴガこワれルカら、はナれテ!」
「うるせー、早く運べ―!」「運べー!」
その時、ぬるっとクソガキ達の背後に、木古内さんが現れた。低い声で、脅すように耳元で囁く。
「籠を壊したら、訓練場じゃぞ」
訓練場の”く”を聞いた時点で、籠から手が離れ、気付いた時には直立不動の姿勢を取っていた。
(こんな幼い頃から『教育』されてるのか…。悪ガキだからかな?)
木古内さんは、直立不動のクソガキ達の周りをゆっくりと歩きながら教育を続ける。
「最近は、少し大人しくなったと思っとったんじゃが。儂の勘違いかのう?」
「いいえ!大丈夫です!」「大丈夫です!」
まるで「サーイェッサー!」と聞こえてきそうな雰囲気だ。
「何が大丈夫なんじゃ?」
「もう悪い事はしません!」「しません!」
「そうかい、そりゃ安心じゃな。じゃが、何かあればすぐに昆布が飛んでくるぞ」
「来なくて良いです!」「良いです!」
いつの間にか、背後から近づいてきていた昆布さんが、クソガキ2名の頭にアイアンクローを食らわせる。
「誰 が 来なくて良いって?」
「あがぁっ!止めろ怪力おんっあがががが!」「兄貴に何するんっがあああ!」
「メリメリッ」と、頭蓋骨が陥没しそうな迫力で、お仕置きをする昆布さん。頭を押さえてもだえる二人を他所に、ワンダの方へ向き直る。
「まったく、ほんと成長しないんだから。ワンダ…様。弟がご迷惑をおかけしました」
ワンダに対して頭を下げるのに抵抗があるのか、昆布さんは会釈をしてくる。
「ゲんきガあッテいいジャないデすカ」
「元気があって、素直で言うこと聞く良い子なら良いんですけどね。ほら、あんたたち!ちゃんと、きこじいの言うこと聞きなさいよ!」
「へーぃ」「へーぃ」
「返事が聞こえないわねぇ」
「はい!」「はい!」
「まったく、すぐふざけるんだから…。きこじい、この籠持って行くね。ワンダ、様。遅くなってしまうので、先に行きましょう」
昆布さん、昨日と比べて対応がかなり柔らかくなっている。
(昨日、美唄さんに褒められたからかな?)
「よっと」
昆布さんが軽く力を込めて籠を持ち上げると『モゴッ』という音と共に、籠の底を突き破っている棒が現れた。
「あんた達ねぇ…」
「俺じゃないって!」「やってないよ!」
恐らくだが、彼らがよじ登る際に体重をかけてしまったのだろう。再度お仕置きされ、ピクピクと痙攣しながら転がる昆布さんの弟達。何事もなかったかのように歩き始めた昆布さんが、ジト目で先に牽制してくる。
「籠を背負っているので、私は担げませんよ」
「ダいジョうブデす、ジブんデあルけマす」
ギッシ、ギィ…、コロンカラン、ギッシ、ギィ…、カラコロン
昆布さんを追いかけるように歩き始める。重そうな籠をしょっているにも関わらず、歩く速度はワンダと変わらない。
(いや、歩調を合わせてくれているのかな?)
子ども達から少し離れたところで、昆布さんが話しかけて来た。
「あの子たちが懐いているみたいで、驚きました」
「オモチャにさレテるダけデすヨ」
「それでも、子どもは大人が気付かない事に気付いたりしますから。懐くという事は『安心できる人』だと思います。今までの失礼な態度、お詫びいたします。ごめんなさい」
昆布さんは振り返ると、籠の中身がこぼれない程度にお辞儀をしてくれた。
(実際は、いたずらされてるだけだけど。『安心できる人』か…)
「コんなミためナら、ケいカいするのハトうゼんデす。きニしナいデくダさイ」
「そうです、見た目が怪しいワンダ様が悪いんです」
澄ました顔でそう言ったあと、ぷっと吹き出した昆布さんは柔らかく微笑んだ。
最初に顔を合わせたのが尋問だったので、第一印象は(お互いに)最悪だった。そんな彼女と、ここまで打ち解ける事が出来るようになる日が来るとは――。
(予想とは違ったけど、仕事が役に立ったな。やはり、仕事は全てを解決する!)
薪拾いを始めたことで、全てが良い方向へ向かっている気がしてきた。達成感を噛みしめながら、朗らかな気持ちで里へ向かうワンダだった。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…
あの昆布さんがデレた…?作者も予想外です




