22話 信用の稼ぎ方
後書きに、挿絵があるのでお見逃しなく
2025/8/27 加筆修正
枝葉の収穫は、お昼で一旦休憩を挟むことになった。午後一番で作業を再開できるようにと、ワンダは水をかけられたあと、そのまま放置されている。
(収穫時に人権が無いのはもう諦めるか。確かに効率的ではあるし…)
問題は”楽をしている”という風に見られている事だ。
「あいつ、また美唄様に担がれてる…」「歩けるくせに、楽したいだけでしょ」「仕事も全然してないしねぇ、枝葉の収穫ったって寝てるだけだし」「あたし達ばっかり働かされて、嫌だねぇまったく」などと、雑談交じりに陰口を言われているのが聞こえてくるのだ。
(楽をしていると言ってもねぇ…。収穫中は、動くと邪魔になるから動けないんだけど。担がれるのは、むしろお断りしてるんだよなぁ)
『楽をしている』という評価は、美唄さんに担がれて移動している影響が大きいのではないだろうか。歩く練習をしたいのは山々なのだが、如何せん時間が取れない。
(晴れの日は収穫だろうなぁ。夜は…駄目だ、魔物と間違えられてボコボコにされそうだ。雨の日でも恐らく同じだし、根が生えちゃうし…。となると、朝はどうかな?早起きして朝活!前もって伝えておけば大丈夫じゃないかな)
どうせなら、歩くついでに軽い物を運ぶような仕事をしてみたい。地球では、人との信頼関係を築くうえで、仕事はとても役に立った。ここでも、仕事をしていけば信用されやすくなるはずだ。
(できる事を少しずつやっていけば、いつかは里の人たちに認めてもらえるんじゃないかな)
この里で人間関係が築けたら、他の地域に行っても生きていけそうだ。美唄さんが戻ってきたら、さっそく相談に乗ってもらおう。
◆ ⁂ ◆
「歩く練習がてら朝できる仕事、ですか…」
「こドもデもデきるヨうナかンたンなしゴとガあれバやッテみタいデす」
少し、考える様な素振りを見せる美唄さん。
「そうですね…。では、薪拾いはいかがですか?竹籠を背負って歩けるなら、大丈夫かと。最初は、小さな籠からやってみてはどうでしょうか?」
(薪拾いか。ほぼ手ぶらだったけど、小さい山を登りきれたし。なんとか出来そうだな)
「おジャまになッテしマうかモしれマせんガ、あしタかラたメしテみタいデす」
「分かりました。午後の収穫が終わったら、案内しましょう」
「ヨろシくおねガいしマす」
(子供がやるような仕事だとしても、積極的に取り組んでいれば、信頼も得られるはずだ)
里の生活に馴染むための、一歩を踏み出せた気がした。
◆ ⁂ ◆
翌朝、今日もいい天気になりそうだ。
まだ、空が白み始めたばかりの早朝。ワンダは、朝露に濡れた森の中を歩いていた。湿った森は、独特の良い匂いがして心が落ち着くから好きだ。
周りには誰もいない。少しでも歩行練習と薪集めをしようと、早めに出発したのだ。この時間は、早起きの人ならそろそろ朝食を食べているか。お寝坊さんなら、まだ夢の中だろう。
美唄さんの説明によると、引率の大人が一人付くが、あとは子ども達が来るそうだ。運動能力的にも近いので、子どもに混ざって仕事をさせてもらうのが丁度良さそうだ。
ギッシ、ギィ…、コロンカラン、ギッシ、ギィ…、カラコロン
どこに居るのか見つけやすいようにと、迷子防止用に子どもが着ける鈴を借りている。鈴と言っても金属製ではなく、細めの竹を紐でまとめてある、手のひらサイズの風鈴のようなものだ。そんなに大きな音がするわけではないが、静まり返った森の中では良く響く。
(さて、この辺で集め始めるかな)
里の近くだと枝は拾いつくされていて、ほぼ無かった。10分も歩いて、ようやく使えそうな枝がぽつぽつと見えてきた。ワンダのペースで10分なので、子供達なら5分で着く距離だろう。
昨日、試しに籠を背負わせてもらったが『枝を拾って背中の籠へ入れる』という動作が、まだ無理そうだった。なので作戦としては、籠を置いた周囲でしばらく拾い、移動してまた拾うという方法を取ってみようと思っている。
効率は悪いが、今日の目標は『荷物がいっぱいに入った籠を、一人で里へ持ち帰る』なので問題ない。初仕事に向けて、気合を入れて薪拾いを始める。
…カラカラン、…コロカラカラン
籠の底に少し枝が溜まって来た頃、里の方角から鈴の音が聞こえて来た。早くも子供たちがやってきたようだ。
ダダダダッと誰かが先行してくる。
「おはよう、ワンダさん!」
先頭を駆けて来たのは、母恋ちゃんだった。昨日、沈んだ顔で片づけをしていたのが嘘のように晴れやかな笑顔だ。
「おハヨうボこいチャん、アサかラゲんきダね」
「うん!昨日はマルベリー、ありがとね!本当はあげたくなかったんだけど、食べきれないからしょーがなく七飯ちゃんにも分けてあげたの」
おもわず『素直じゃないな』と苦笑いしてしまう。しかし、子どもの仲直りの速度には驚かされる。大人だと、もっと無駄にぐちぐち考えて時間をかけてしまいそうだ。なんにせよ、仲直りができたみたいで良かった。
「『んべっ』ッテしタ」
「やったよー!『んべっ』」
ケラケラと笑いながら舌を出す母恋ちゃん。
追い付いて来た七飯ちゃんが、母恋ちゃんの食べっぷりを話してくれる。
「ぼーちゃん、食べ過ぎて唇まで紫色だったんだよ」
「ななだって、歯に皮が詰まって変な顔になってたし!」
宴会の時の様な険悪なムードも無く、普通の友達に戻れたようだ。
(報酬を変えて良かったな。あとで昆布さんに、お礼を言わなくちゃ)
爽やかな朝に、爽やかな話題が届けられ、すがすがしい気分になれた。より一層、仕事に打ち込めそうだ。
仲直りに貢献できた嬉しさを噛みしめているワンダの元へ、薪拾い組が全員到着した。
(全員、子どもみたいだけど…保護者は?)
と思っていると、いつぞやのおじいちゃんボイスが聞こえて来た。
「やぁ、随分早く来とったようじゃの」
引率は木古内さんだった。子どもに紛れていると、見分けがつかない。
「あルくレんシュうモかねテいルのデ」
「そんなこと言っとったの。さて、皆始めるぞい。重い物はワンダさんの籠に入れとくれ。採集した物は自分で持つんじゃ。食べれるか分からん物は見せに来るように、解散!」
なんか、しれっと一番重い籠を持つことになってしまった。
(他は子どもばっかりだし、練習になるから良いけど…)
なんて事を考えている間にも、子ども達は容赦なく籠に木材を突っ込んでいる。どこで見つけたのか、数人がかりで切り株をずりずりと引きずってきた。
(いやいや、流石にそれは入らないし、重すぎて持って帰れないだろ!?)
子ども達の行動力にビビっていると、木古内さんがぼそりと一言。
「まぁ細かくすりゃ、入るじゃろ」
切り株の前で、武術の達人の様な構えを取る木古内さん。
「ホァチャーッ!」
気合の入った掛け声とともに、ゆるいチョップが切り株に当たる。
全然威力を感じられなかったのに『パカリ』と綺麗に割れる切り株。それを見て大盛り上がりの子ども達。
「うぉぉおおお!すげぇぇええええ!」「きこじぃすげぇぇ!」「めっちゃツルツル!」「もっかいやって!もっかい!」「『ホァチャーッ!』だって!俺もやってみたい!」
子ども達にチヤホヤされて、ドヤ顔の木古内さん。仕組みは分からないが、おそらく魔力でやったのだろう。子ども心をくすぐるのがとても上手い、エンターテイナー爺さんだった。
今度は2つに分かれた切り株に、一発ずつパンチをお見舞いする。
「爆砕!爆砕!」
パンチが当たって一拍置いてから、切り株が内側から派手に砕け散った。
「うぉぉおおおお!かっけぇええええ!」「爆砕!爆砕!」「ぎゃーっ!目に入った!」「ほんと、男ってバカばっか…」「あれじゃ薪にならないよ…」
男子は大盛り上がりだが、女子はジト目になってしまっている。
(木古内さん、男子受けが良いからってやり過ぎだって…)
持って帰るのが難しそうだった切り株だが、もはや原型をとどめていない。根っこの部分と、なんとか残っている樹皮をかき集めて籠に放り込んだ。
「ふぉっほっほ、少しはしゃぎすぎたわい」
若爺さん、いくつなんだか知らないが、元気過ぎである。
(もしかして、僕が混ざっても楽しい雰囲気になるように、気を使ってくれたのかな?)
盛り上げ上手なおじいちゃんのお陰で、テンションが爆上がりした子ども達が、掃除機のような勢いで森をかき回していく。枝葉の収穫の時間まで、子供たちの仲間に入れた気分で、ワイワイと楽しく過ごせた。




