21話 和解は出来なくとも――
お金だけでは計算できない物ってありますよね。
あなたはどちらが好きですか?
2025/8/26 加筆修正
情報が公開され、宴会で盛り上がった翌朝。
広場に足を運ぶと、酔いつぶれた者たちが朝日に照らされ、まるで死体のように横たわっていた。彼らをどけたり、介抱したりしながら、後片付けは少しずつ進められていく。やけ酒に溺れていた脳破壊され男たちは、案の定どけられる組である。
美唄さんや、片付け担当たちの手によって「ピシィッ!」「はぎゃっ!」「バシィッ!」「あがぁっ!」「ッパァン!」「アーッ?!」と、痛そうな目覚まし音が炸裂している。
ズボン越しなので見えないが、赤い紅葉がお尻に浮かび上がっている事だろう。自分がされている訳でもないのに、音を聞いているだけで、背筋がすっと伸びてしまう。寝ぼけ眼をこすっているところへ口に水を流し込まれ、半ば強制的に片付け組に組み込まれていった。
ワンダは水とお茶だけだったから、もちろん片付け組だ。幸いこの体ならば、人間時代に悩まされた腰痛も心配ない。
(中腰が怖くないとか、無敵だな)
張り切って、地面に落ちているゴミを手で拾い集めていく。箒はあるが、残念ながら力加減が上手くいかず、使いこなせなかったのだ。
宴会場の反対側の片づけ組の中に、ちらりと母恋ちゃんたちの姿が見えた。残念ながら、まだ仲直りはできていないようだ。二人は箒&塵取りのペアで掃除しているのだが、一言も発せず目も合わせようとしない。仲直りのきっかけとして組まされたのだろうが、どう見ても空気が死んでいる。
(なんとかできないかなぁ。余計なお世話かもしれないけど…)
周りに作業中の大人たちがいるおかげか、表面上は素直に取り組んでいるように見える。だが、明らかに作業スピードが遅く、やる気が無いのが見て取れる。
特に良いアイディアが浮かばないまま、宴会の片づけは終了してしまった。
◆ ⁂ ◆
綺麗に片付けられた広場の端、残してあったテーブルには、宴会の残り物と簡単な料理が並び、朝食の支度が整えられていた。食事を済ませた者から、日課や仕事へと徐々に散っていく。
朝食の時に雑談が聞こえてきたのだが、森小人族の一部が、エルフの里へ引っ越してくるそうだ。情報の解禁を受け、元々一緒に住んでいた者、これから共に暮らす者など、交流の輪がゆっくりと戻ってきているらしい。新たに家を建てるとなると大変だが、全員が親戚みたいなものなので、しばらくは居候しながら過ごすそうだ。
そんなエルフと森小人族の団欒の様子を眺めながら散歩していると、美唄さんに呼び止められた。これは恐らく――。
「おはようございます。ワンダ様、これから何か予定はございますか?」
「いエ、トくニありマせン」
「それでしたら、また枝葉の提供をお願いできますでしょうか。昨日の宴会で、食糧庫が寂しくなってしまいまして」
「そうデすカ、わカりマしタ」
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、昨日飲まれていたお茶の葉などいかがでしょうか?」
「デは、ほうジチャをおネガいしマす」
「かしこまりました」
(収穫は半日…だよね?それで、お茶の葉と交換か…)
この辺りの物価がどうなのか分からないので、報酬として適正なのか判断できない。まぁ、自分では特に何もせず、お任せで報酬が頂けるのであれば文句は言うまい。
美唄さんは、ワンダが承諾するや否や、お米様抱っこで運搬を開始した。もはや拒否権は無いものとして諦観しているが、視線が痛い事には変わりない。
(今日から、空き時間は歩く特訓だ!)
そう、固く心に誓うワンダだった…。
◆ ⁂ ◆
枝葉の収穫場所へ向かう道すがら、美唄さんが話しかけてきた。
「ワンダ様、一つご提案があるのですが」
「ナんデすカ?」
「ワンダ様から収穫させていただいている物、今は枝葉と呼んでいますが、味気なく有難味が感じられません。枝葉と呼ぶのはいかがでしょうか?」
(単なる植物に大げさな)と思ってしまったが、別にこだわりも無いので了承する。
「枝葉ダとなガいのデ、ふダんは枝葉にしマせんカ」
「枝葉…良いですね!では、今日の収穫班に伝えてきます」
話している間に、到着していた。美唄さんは、収穫班の面々を集めると枝葉について説明を始めた。
「今後、ワンダ様から収穫される、成長促進効果のある枝葉のことを、枝葉と呼ぶ。長いので、普段は枝葉でも構わない。恩恵に感謝して大切に扱うように。連絡事項は以上だ!作業に取り掛かってくれ!」
(こういうのは、名前が付くことで認識が変わることもあるから、良いアイディアかもしれないな。さすが美唄さん!)
さっそく、枝葉の収穫場所へと設置されるワンダ。収穫物へ良い名前が付こうとも、効率優先なのは変わらず。根を生やす為に、地面に全裸直置きなのはもちろん、口にももれなく土が入って来た。
(せめて、報酬が適性でありますように…)
報酬が手に入る事に、一筋の希望を見出しつつ、今日も作業の邪魔にならないように苗床に徹する。見えているわけではないので確実ではないが、2回目ともなると作業のルーティーンが分かって来た。
体に日光を当てる→枝葉が生えてくる→収穫→水撒き→収穫した枝葉を使いやすいように小分けする→最初に戻る
この『枝葉が生えてくる』のタイミングで、水撒き係の手が少し空くのだ。この時間を利用して、仲直りについて相談できそうだ。
タイミングを見計らって、水撒き係の方へと顔を向ける。今日の係りは…よりにもよって、昆布さんだった。
(率先して尋問してきた人か…。まぁでも、仲間のエルフに関する話題だし、流石に会話はしてくれるよね?)
急に顔を動かしたワンダを、軽く睨むようにしてじっと見ている昆布さん。
「何か?」
「母恋チャんと、七飯チャんのナかナおリにツいテソうダんしタいのデすガ」
「ぼこい…あぁ、昨日騒ぎを起こした娘ですね。なんで貴方がそんな事を気にするんです?ほんとに小さい女の子が好きですね~。このロリコン」
ロリコン扱いされてる人間が、少女に関する相談をするなんて、自分の首を絞めるようなものだ。昆布さんの、冷え切った視線が痛い。
(それでも、お世話になったから何とかしたい)
その一心で、心を奮い立たせて事情を説明する。
「なるほど、恩返しに少しでも役に立ちたい、と。事情は分かりましたが、あぁいうのは時間が解決するものです。放っておいた方が良いでしょう。少なくとも、貴方が関わるよりマシです」
「チョくセつダとこジれルのハワかりマす。ナニかかンせツてキにとカ…」
「面倒くさい人ですね。オヤツでもあげたらどうですか?あぁ、そういえば…子どもの頃はマルベリーを食べると皆が笑顔になってましたよ」
「マるベりー…?」
「桑の実を干したドライフルーツです。乾燥させれば日持ちするし、沢山取れて甘酸っぱくて、子どものオヤツに丁度良いんですよ。食べたあと『んべっ』と舌を出すと紫色になってて、それを見て笑い合ったもんです」
「なるホド、そレはヨさソうデスね」
そこで、何か思いついたような顔をする昆布さん。
「子どもはマルベリーが大好きなので、きっとたくさん食べますね。午前中の枝葉だけでは、大した量にならないかもしれませんよ?」
「エ、ジャあ…」
「今日は一日いい天気ですし、枝葉の収穫日和ですね。どうぞ、たっぷり頑張ってください」
僕に見せるには、不釣り合いと感じてしまう『営業スマイル』を向けてくる昆布さん。
一見、素敵な笑顔に見えるのだが――あれは『腹黒スマイル』だと、ワンダの本能がそう叫んでいる。そんな内面を悟られれば、どうなるか分からないので、素直にうなずいて従順な犬として振舞う。
昆布さんは、美唄さんに『午後も枝葉の収穫に協力して貰えるようになった事と、報酬をマルベリーに変更して母恋ちゃんたちに渡して欲しい』と報告した。美唄さんが渋い顔で何やら言っていたが、最終的に褒められたようでニコニコしていた。
(お茶の葉とマルベリー、安いのはマルベリーだろうな。量が多いと言っても、子どものオヤツにするくらいだし、たくさん採れるって言ってたしな…)
美唄さんに貢献できた昆布さんの機嫌が良くなって、母恋ちゃんたちが仲直りできるなら安いもんか。
自分の中で折り合いをつけると、日が落ちるまで苗床に徹する覚悟を決めるのだった。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




