1話 まだ小さいからね、後でご飯を持って行ってあげよう
パラオには、日本語由来の単語があるらしいですね。
2025/7/28 微修正
予定通り、明るいうちに町へ到着できた。
宿屋の部屋に荷物を置いて、一息つく。静かすぎるので娘の居場所を探してみると、ベッドにダイブした姿勢のまま眠ってしまっていた。
慣れない旅で、本人も自覚できないくらい疲れがたまっていたのだろう。
元気いっぱいだからついつい忘れてしまうが、保護した時にまだ5歳にも満たないだろうと言われた。
しっかりと体調管理をしてあげなくてはと、気を引き締める。
(しかし、寝ちゃったか。下で一緒に食べようと思ってたんだけど…)
宿屋には、1Fに併設されている居酒屋食堂があった。
受付で話をしている時から良い香りが漂ってきて、食べられない体にもかかわらず、お腹が空いた気分になってしまった。
(さっき涎を垂らしていたから、お腹が空いてはいるんだろうけど…。しばらくそっとしておこうかな)
あの食いしん坊が、食欲よりも睡眠を取ったのだ。余程疲れているのだろう。
食堂の用事が終わり次第、寝る前でも食べられて、消化が良くて、子供が好きそうな料理を部屋に持ち帰ることにした。
◆ ⁂ ◆
娘を起こさないように、静かに部屋を出る。
食堂へと続く階段を降りる前から、賑やかな食堂の喧騒が聞こえてきている。
「キョウアツイネ、ヒサアドウ?アジダイジョーブ」「んじゃ、2つ。あと、胡瓜の漬物と鶏肉の…」「リヨリオマタセ!サシミ、ヤサイアジダイジョーブ!」「オジサンツカレテル、カンコウダン?タクサンツカレナオス~」「注文お願いしま~す!」「は〜い、ただいま!あそこの席頼む!」「イマイクー!アタマグルグル!」「オツュリ、ドウゾー」
夕飯時だからか、席はほぼ満席のようだ。
出稼ぎと思われるガタイの良い店員さんが、忙しそうに動き回っている。
相席がてら情報収集がしたいのだが…と、キョロキョロしていると
「よう、変わった格好…というか人形、なのか?」
少し酔っぱらっている中年のおじさんが、声をかけてきた。
「事情があって木の人形になっていますが、中身は一応人間のつもりです」
「そうかい。さっき見かけた時に面白そうな奴が来たと思っていたんだが、感が当たったな。
俺は栗の林と書いて”くりりん”って言うもんだ。この街で革細工の商いをやっているんだが、旅人の話を肴に酒を飲むのが趣味でな。一杯奢るから、何か聞かせてくれないかい?」
「面白いかどうかは分からないけど、奇妙奇天烈な体験談なら」
「くっくっくっ、自分でハードル上げるじゃねぇか。かまわねぇ、話してくれ。
なに、喋りが下手でも気にしねぇからよ」
栗林と名乗った商人の正面に座る。
まだ食べ始めたばかりのようで、料理からは湯気がゆっくりと立ち上っている。
「分かりました。では、まずは自己紹介から。名前はワンダ、そしてキーワードとなる数字をみっつ。
38、3、2です。なんだと思います?」
「変わった紹介だな。38ってぇと、年齢か?」
「そうです、僕は38歳です。年齢相応でしょうか?」
「いや、その体じゃ分かんねぇよ。そもそも老けるのか?」
「さぁ、どうなんでしょうねぇ。僕もまだ分かりません。
では、次の3はどうですか?」
「んー、好きな数字か?」
「それもありますが、これは僕がこの世界に来てからの時間です。だいたい3年たったところですね」
「この世界に来てからって、あんたいったい…」
「詳しくは後のお楽しみという事で。
最後の2は先に言ってしまうと、娘と二人旅をしている。という事です」
「そうかい、予想以上だ。今夜は酒が進みそうだぜ!」
「それは良かった。ここには情報収集も兼ねて来たので、話の中で良い情報があれば教えていただけると助かります。」
情報収集と聞いて商人のプライドが刺激されたのか、お酒が入って赤みを帯び始めた顔を少し引き締める。
「俺は商人の端くれだが、情報の大切さは知ってるつもりだ。内容次第だが、色々話せると思うぜ。さぁ!早く聞かせてくれ!」
「分かりました。では、ここへ来た時の話から始めましょうか。まずは、僕の生まれ故郷の話から…」
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…