16話 強制クエストを受注しました
恋心で発電出来たら、エネルギー問題が解決しそうですね
2025/8/26 加筆修正
!新クエストを受注しました
《強制ミッション:年の差なんて気にしない!》
依頼主:母恋
目的地:エルフの里
メインターゲット:倶知安
制限時間:8時間
内容:倶知安さんに母恋ちゃんを紹介して、想いを伝えるお手伝いをする。
【クエスト条件】
・恋愛経験(不足しています!)
・空気を読む能力(不足しています!)
・会話能力(習熟度が規定値に達していません!)
【成功条件】
・倶知安さんに、母恋ちゃんの気持ちが伝わる
・俱知安さんに、母恋ちゃんを認知してもらう
【失敗条件】
・俱知安さんに、母恋ちゃんが認知されないまま終了
・邪魔が入る
・時間切れ
【報酬】
・ピンチの救援(受け取り済みです)
・お茶(クエストを受注したら宴会場で受取可能)
◆ ⁂ ◆
…とんでもない依頼を受けてしまった。
恋愛経験がほぼない自分に、果たして上手くできるのだろうか。せめてもの救いは、今回は『告白』ではなく『紹介』だということだ。それだけでも、少しは気が楽だ。
(仕事の顔繋ぎ、と考えればなんとかなりそうかな?2人のことをろくに知らないのが、不安でしかないけど。こういうのはタイミングが命、というのは変わらないはず。それならば…)
「俱知安サンは、ジュんビデいチバんいそガしいジかンダとおモうカら、えンかいガはジマってカらデもイイかナ?」
「んー、まぁそれはしょうがないよね。分かった!じゃぁ、くー君がいつ来てもいいように、あなたのそばで待つわ!」
そんなわけで、母恋ちゃんは宴会中の『ワンダのお世話係』に立候補した。もともと希望者もなく、やることといえば飲み物を注ぐくらい。子どもでもできるだろうと、彼女の希望はすんなり受け入れられた。
さっそく広場へ向かうと、すでに宴会場として模様替えされていた。整然と並べられたテーブルが、料理の到着を今か今かと待っている。ワンダの席は、長万部族長、恵庭族長、そして美唄さんが並ぶ一角の、一番端にあった。一応、客人として迎え入れられているようで、ひとまず安心した。
(これで、一歩前進。恵庭さん、長万部さん、美唄さん、ありがとうございます!)
腰を下ろしてみると、クッションこそ無いが、広場全体を一望できるなかなかの特等席だった。改めてエルフの里を見渡してみると、そこかしこに植物を活かした装飾や家具が配置されており、暮らしの中に自然が息づいているのが伝わってくる。
(元人族と聞いたけど、こういうところは『物語に登場するエルフ』そのままって感じだな)
地球にも、自然と共に暮らす人々はいた。けれど、多くの人間は都合よく自然を開発し、そして消費してきた。自分もまた、その一人として消費に加担し、一抹の罪悪感を抱えながら生きてきた。
日本は豊かな国だ。都会で暮らしていると、いつの間にか犠牲にしている自然の存在を忘れてしまう。かといって、発達した科学技術の恩恵をすべて手放すのは現実的ではない。
(せめて、エルフたちにはこの素晴らしい暮らしを守り続けてほしい――)
それがエゴだと分かっていても、地球と同じ道を辿らないようにと、願わずにはいられなかった。
(よそ者だけど、これも何かの縁だ)
この里が、これからどう変わっていくのかは分からないが、少しでも貢献したいという気持ちが芽生えたワンダだった。
◆ ⁂ ◆
「エルフハ、しゼんヲタいセつニシテいるンダネ」
「ふーん、そうなの?まだ別の里に行ったことないからよく分かんない。でも、植物は食べ物を分けてくれるから好きよ!お肉も美味しいけどね」
『食べ物を分けてくれる』という表現に、彼らの自然観が垣間見えた気がした。
雑談をしながらも、さっそくお世話係として働いてくれている母恋ちゃん。慣れない手つきながらも、木製の水差しから木のコップに注いでくれた。
(…ちょっとこぼしたけど、初めてのお仕事にしては上出来だね)
彼女に気付かれないように、そっと布巾で拭っておく。持ってきてくれたお盆には、他にも小ぶりな水差しがいくつも載っていた。
「水だけじゃ飽きちゃうでしょ?お茶も持ってきたから飲んでみて。お母さんが作ったお茶、美味しいんだから!」
(良い子だなぁ~!ご両親の育て方が素晴らしいんだろう)
「キガキくネ、ありガトう」
「これが柿の葉茶、こっちはクマザサ茶、これが…」
彼女が順番にお茶を出してくれるのだが、その中にひと際強いにおいを放つ物があった。
「コノにおいハ…ドクダミ?」
「正解!よく知ってたね~。匂いは独特だけど、体に良いから飲んでみて!」
人の体には良くても、この体は生きている木なのだ。ドクダミの強い繁殖力を知っているだけに、つい警戒してしまう。
「まぁ、確かにこの匂いが苦手な人もいるからね~。ほうじ茶を混ぜると少し飲みやすくなるよ?」
手で仰いで匂いを嗅いでいると、母恋ちゃんが気を聞かせてブレンドしてくれた。
匂いも味もマイルドになり、とても美味しかった。ただ、体に匂いがしみこみそうだったので、ドクダミ茶は控えめにしておく。歩くたびにドクダミ臭を撒き散らしては、ただでさえ低い好感度がどん底にまで落ちてしまいそうだ。
「くー君、まだかな~?」
お茶をひと通り試し終えると、お互い手が空いてしまった。広場には次々と料理が運ばれてきているが、開始にはもう少し時間がかかりそうだ。そんなとき、広場の入口から賑やかな一団が通り過ぎるのが見えた。どうやら、狩猟組が獲物を担いで凱旋してきたらしい。
「ニくリョうりガこレからダから、あレガカンせいしテカらカな?」
「肉料理!…お腹空いたぁ」
(くぅ~っ)と可愛らしい腹の虫を鳴かせて、母恋ちゃんがひもじそうに呟いた。その空腹を少しでも紛らわせようと、倶知安さんの話題を振ってみる。
「俱知安さンは、エルフのサトデはナニヲしていルんデすカ?」
「くー君は何でもできるの!すっごいんだから!」
凄い勢いで食いついて来た。あまりの勢いに、思わずのけ反ってしまった。そのまま前のめりで、こちらが相槌を打つ間もなく喋り続ける。
「カッコイイし、優しいし、小さいのに頑張っててほんと可愛いの!身長が足りなくて困ってる時に助けた時なんて、も~う最っ高っ!の笑顔で見つめてくれて!好き!大好き!髪の毛もサラサラで、あたしよりキレイってどういうこと!?絶対良い匂いする!ぎゅーっってしたい!あ~、早く来ないかな~!そういえばこの前…」
(これは…やばいスイッチを押しちゃったか?)
空腹は見事に忘れさせたが、代償として頷くだけの人形と化したワンダがそこにいた。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




