14話 小さくて、可愛くて、侮れない
物語の解像度が上がるにつれて、ポップコーンのようにボリュームが増えていって収集がつかない…
2025/8/23 加筆修正
「ご協力、感謝します」
成果を確認した美唄さんの号令で、収穫班は解散となった。彼女たちが満足できる量が収穫できたようで、ひとまず安心だ。
枝葉の成長促進は予想を超える成果を上げ、収穫に参加した面々は興奮気味に美唄さんへ報告していた。僕の悪印象も、多少は払拭されたようで胸をなでおろす。
ただ――彼女たちが僕を見る目つきが、獲物を狙う猛獣のそれに見えて、思わず背筋が冷たくなった。
(役に立ったのは良かったけど…この人たちに知られたの、まずかったかな?)
枝葉を提供したことを、少しだけ後悔しはじめたワンダ。ホクホク顔のエルフたちは、そんなワンダの様子にも気づかず、収穫の成果を競うように語り合いながら里へと帰っていった。
◆ ⁂ ◆
ワンダは、迎えが来るのを待つために隠れ里へ戻ることになった。
到着すると、森小人族達が少し早めの昼食を準備し始めていた。倉庫用と思しき木がパカッと開き、中から次々と調理器具が運び出され、てきぱきと並べられていく。
家が小さいからなのか、共同で炊事を行っているらしい。小さい手足を使って協力しながらわちゃわちゃ作業する姿は、子どもたちのおままごとを見ているようで頬が緩みそうになる。
だが、可愛いだけではない。そこらへんの土や木片が、あっという間にかまどやテーブルなどへと姿を変えていく。さすが『魔力の扱いに長けた種族』と自慢するだけはある。
(大きくて仕舞いづらい物は、毎回作ってるのかな?)
火起こしには薪が使われているが、火力の調整には魔力が用いられているようだ。鍋にまとわりつく橙色の炎はゴウゴウと音を立てながら蠢き、生きた炎龍のようだ。いかにも簡単そうに炎を操る様子を見ると、可愛らしい見た目で侮れば痛い目を見るだろうと予想が付く。
(松明一つあれば、対人でも対獣でも丸焼き確定だな…)
周囲がせわしなく動き回っている中、自分だけ手持ち無沙汰なのが少し気まずくなってきた。何かできることはないかと、辺りを見渡す。
ちょうど、背伸びをして道具を取ろうとしている森小人族がいたので、代わりに取ってあげた。「助かったよ、ありがとう!」と、最高の笑みを返してくれる。エルフ達も、この笑顔にやられたに違いない。一瞬で人を虜にしてしまう、恐るべき魔性の笑顔である。
(もしかして、笑顔にも魔力で何か作用が…?まさかね)
そこまで考えて笑顔を振りまいているとしたら、小悪魔どころの騒ぎではない。『そうだとしても、可愛いから良いか』そう思ってしまった自分に、ぞっとした。
(エルフとは別の意味で…いや、エルフの始祖とも言える存在だからこそ怖いな。森小人族の笑顔は、疑ってかかろう)
若干、人間不信になり始めたワンダだった。
それにしても、当然と言えば当然なのだが、この里には彼らに合わせたオモチャのようなサイズの家具や道具で溢れている。まるでそういうテーマパークに迷い込んだかのようで、見ているだけでも楽しい。
面白いのは道具だけではない。魔力の扱いに長けていることはこれまでにも十分見て取れたが、驚くべきことに光学迷彩の様な事も出来るのだ。
森小人族が手をかざすと、さっきまで雑草が生い茂るだけだった場所に、前触れもなく巨大な老木が出現したのだ。秘密基地のようなトンネルが突然現れたように感じたのは、きっとこの魔法だったのだろう。
(規模が小さいとはいえ、里ごと隠せるとは凄いな…)
近くの森小人族に尋ねてみたところ『見えなくするのは簡単なんだけど、匂いは隠せないからネズミ対策が大変なんだ』と何でもない事のように教えてくれた。
簡単そうに言ってはいるが、きっとエルフには真似できない高等技術なのだろう。
(見えないだけで、そこにはあるみたいだ。分からず進んでいたら、頭をぶつけて昏倒していたかもしれないな…気を付けよう)
侵入者対策として、見えないトラップがそこら中にあってもおかしくない。里の中の散歩はともかく、外へ出る時は案内してもらおう。そう、心の底から思ったワンダだった。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…




