13話 これからも、良き隣人として
たとえ変態だとしても、服は着たい。
2025/8/22 加筆修正
明日行われる情報公開の打ち合わせをしているうちに、あたりはすっかり日が暮れていた。
美唄さんは、長万部族長に事の経緯を伝えるため、急ぎ足で戻っていった。ワンダは里へ戻っても居場所がないため、情報公開に合わせてお昼頃、迎えに来てもらう事になった。
情報公開は、昼食後に皆を集めて、恵庭様と長万部様が行う予定だ。夕方にはワンダの歓迎会と同時に、森小人族とエルフの懇親会を行う。
(それまでは暇だし、練習がてら散歩にでも行こうかな)
などと、手持ち無沙汰で物思いにふけっていたところ…。
「ワンダ様、お食事はどうされますか?」
と、俱知安さんが様子を見に来てくれた。
「さマはやめテくダさイ。みズガあれバ、少しいたダけルとあリガたいデす」
「客人として接するよう、指示を受けておりますので。今お持ちいたします」
改めてじっくり見ても、女の子にしか見えない。本人は、少女のように振舞っているつもりはないのだろう。けれど、その整った顔立ちと、種族特有の童顔が相まって、初対面で彼を『男』と判断するのは至難の業だ。
(これは、被害者が沢山いそうだな…)
明日の情報公開では、森小人族の種族特性についても説明される予定だ。その中で『意図せず少女と誤認されてきた者達の性別訂正』も行われるという。
(脳を破壊される男性が続出しないことを祈ろう)
◆ ⁂ ◆
そして、翌日――。戻って来た美唄さんから、ズボンを手渡された。
「見栄えが悪いので、せめて下だけでも履いていただけませんか?」と言われたのだが…。
(好きで履いて無かったわけじゃないんだけど…。まるで『裸でいたがる変態』みたいに言うのはやめていただきたい)
言いたいことはあるが、服が増えるのは素直にありがたい。これで『変態人形』から『木の人形男』くらいの評価になるといいのだが。
(早く仕事してお金を稼いで、靴とか服を揃えたいな。余裕があれば帽子も欲しい。いや、その前に手袋を買った方が良いかな…)
――などと、貰ったズボンと格闘しながら考え事をしている所へ、美唄さんから話しかけられた。
「そういえば、ワンダ様から切り落とされた枝葉なのですが――どうも、植物の成長を促進する効果があるようです。『枝葉を廃棄した周辺の雑草が、凄い勢いで伸びている』との報告がありました」
「はぁ、そウなんデすカ。そウいえバ、おヒるネからめザめタら草ニ埋モれていタことガあリましタ。コレがゲんイんダったんデすね」
なるほど、と謎が一つ解けたワンダ。そこへ、美唄さんが改まった態度で切り出してきた。
「本来であれば、お客様にお願いするようなことではないのですが――。これから夕方の宴に向けて、食料を大量に調達しなければなりません。午前中の間だけでも、枝葉を少し分けていただけないでしょうか?」
「えダハは、からダのあチこチから生エます。はナいガいダっタらイイですよ」
「ご協力、感謝いたします!準備は整っておりますので、こちらへどうぞ」
(…なんか、承諾するのが前提の様な手際の良さだな。いや、気にしたら負けか)
こうして、鼻こそ免れたものの、全身の枝葉を毟り取られる羽目になったのだった…。
森の中の、ひときわ日当たりの良い小さな畑の様な場所へ案内され――そして、うつぶせで土に直置きされる。
(モゴゴ!口に土が入って来たんだけど!?)
おそらく、根から水と栄養を吸収できるように、という優しい配慮なのだろう。ちなみに、つい先ほど履いたばかりのズボンと外套は剥ぎ取られ、当然のごとく全裸日光浴である。
(そういえば、木の体でも日焼けするのかな?後ろだけ日焼けしたら嫌だなぁ)
乾燥を防ぐため、時折水がかけられる。そのかけ方は、まるで農作物に散水するような、手慣れたものだった。
(もし意識を失ったら――土に埋められて、枝葉を収穫するだけの物扱いされそうで怖い…)
もはや『客人』というより、『精霊様から賜った特別な素材』といった扱いである。
今回、ワンダの”収穫作業”のために集められたのは、昨日の尋問のメンバーだった。ある程度の説明は受けたのか、昨日ほどの露骨な敵意は見られなかった。かといって、友好的な雰囲気には程遠い。
(…まぁ、スカート覗きかけたのは事実だし。いきなり仲良くってのは、さすがに無理だよね)
◆ ⁂ ◆
そして、”収穫”が始まった。
動き出した彼女たちの働きぶりは、実に見事だった。まず、半数が森へ採集に向かい、半数が食料貯蔵庫から熟しきっていない果物などを選別して運び出した。枝葉が伸びるまで待つ最初の時だけ眠くなったが、その後は伸びた端から手際よく収穫されるおかげで眠気は来なかった。
収穫された枝葉がある程度たまると、一人がワンダのそばで枝葉の刈り取りと水やりを担当。残りの者たちは、食材の運搬と、枝葉の配達係に分かれて動き出した。食糧庫の前には、順調に食材が積み上げられていく。
(…これで、少しは彼女たちの怒りが収まってくれればいいんだけど)
そう思いながら、彼女たちの邪魔にならぬよう、枝葉の苗床としての務めに専念しつつ、午前中は静かに過ぎていった。
読んでいただき、ありがとうございました!
貴方に、満月の祝福がありますように…
美唄さんが、女性たちの不満解消と、食料調達を上手いこと解決しましたね。




